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Team HRC現場レポート

Vol.49

チーフメカニックが第2戦を振り返って語る、各ライダーの個性とは

全日本モトクロス第2戦(4月22日・川越・オフロードヴィレッジ)のIA1ヒート1で、成田亮選手(#982・CRF450RW)が優勝し、開幕からのヒート3連勝を飾りました。総合成績では、成田選手が3位(1位/5位)、山本鯨選手(#1・CRF450RW)が5位(5位/4位)、IA2の能塚智寛選手(#828・CRF250RW)が3位(4位/2位)となりました。今回の現場レポートでは、Team HRCの中川重憲チーフメカニックに第2戦を振り返っていただきます。

中川重憲

今シーズンからチーフメカになりました。昨年はエンジンビルダーをやりながら、山本のサブメカニックを兼任していました。それ以前のライダー担当メカだったころは、ひたすらシンプルに優勝とチャンピオンシップを目指していたんですが、チーフメカになると仕事の内容が全く異なります。ソフト面と運営を担う監督の下で、ハード面を統括することが私の役割で、レースごとの仕様を開発者と相談したり、部品の手配など、主に調整業務に携わっています。あまり視野を狭めることなく、チーム全体の状況を俯瞰している感じですね。

ハードウエアに関しては、オフにテストをした結果、山本も成田もSHOWAとブリヂストンを選択しました。能塚はMXGPで実績のあるSHOWAとダンロップを継続して使用することにしました。現時点での能塚車は、量産車をベースに一部ワークスパーツを付けてあります。山本車と成田車は昨年型の熟成バージョンですが、細部まで見直した軽量化などで、戦闘力がアップしています。

レース現場での私は、ビデオ撮影とデータロガーの解析を担当しています。今回のオフロードヴィレッジの場合、私はフープス後の右コーナー立ち上がり付近で定点撮影をしていました。撮った動画の再生は監督やアドバイザーに任せ、私は走行ごとにマシンから吸い出したデータを見ます。現場では時間に限りがあるので、解析というほどのレベルではなくて、電気など、見えない部分をチェックするだけです。モトクロッサーは外観の破損などから修理個所を推定できますが、電気関係は覗いてみないと分からないものなので。

データロガーの中身には、ライダーの個性が如実に刻まれています。差し支えない範囲で紹介しますと、山本は半クラッチをあまり使わず、繊細なスロットルワークで走っています。開け方はスローイン・ファーストアウトで、アベレージスピードを高く保った乗り方です。対照的に成田は半クラッチを多用し、ガバっと開けて身体で押さえてトラクションさせています。こんなに違う2人のマシンですが、実はファイナルは同じなんです。能塚のライディングで興味深いのは、250のライダーにしてはスロットルをあまり全開にしていないこと。全開時間という要素で比較すると、能塚が開けている時間の長さは成田の半分ぐらいです。

車体のセットアップに関しては、山本車も成田車も意外に柔らかめになっています。山本はピッチングが大きいというか、本人の意志で車体を押し引きしながら走るタイプ。そのため、一般的なライダーが乗っているマシンよりも、山本車のサスの方がソフトなはずです。成田車も似ていますが、特徴的なのは車体の姿勢が低いことです。車高が低いわけではなくて、低い姿勢でフルにストロークを使いたいタイプ。以前から乗り方はアグレッシブでしたが、サスペンション自体はソフトです。一方、能塚車は、2人に比べたら少し硬めというかアグレッシブな味付けです。

今回の川越のレースですが、450に関しては2人が揃って2ヒートとも、スタートで出遅れました。1周目の順位を並べてみると、山本=9番手/12番手、成田=8番手/9番手というあり得ないポジションです。チームとしてはスタート失敗が4例あったわけで、ここはしっかりと検証をしないといけません。1~2コーナーで混乱があったことは確かですが、ホールショットを取っていれば多重クラッシュなどに巻き込まれることもないわけですから…。

オフロードヴィレッジはスターティングゲートが特殊で、バーの手前にある金属のステップ台が曲者なのです。思いきり加速するとこれがジャンプ台となって、飛び上がってしまう。能塚はいろいろなスタート方法を試していましたが、今回はヒート2で珍しくホールショットを決めました。一方で、マシンの浮き上がりを抑えながらゆっくり出て、ゲートを過ぎてから土の上で全開にするやり方もありますが、ハンドルを先に出されたら負けなので、まずは出るべきでしょう。どちらが正解なのか、まだ分かっていません。スタートはライダーのテクニックが占める比重が大きい部分ですが、チームとしてもハード面でもなにかできることがあるのでは、と模索しています。

まだデータの徹底解析には至っていませんが、ひとまずラップタイムを拾ってみるだけでも今回のレースのすごさが読み取れます。ヒート1の成田は8番手と出遅れましたが、3番手までばん回した8周目にベストラップ1分33秒028を記録しました。これは前を走る小方誠選手(カワサキ)と新井宏彰選手(カワサキ)を視界に捉え、5秒差まで接近した際にスイッチが入ったからです。オフロードヴィレッジを得意とするライバルの2人をロックオンすると、15周目には新井選手、17周目には小方選手を抜いて、成田はとうとうトップに躍り出ました。30℃を超える季節外れの暑さにも負けず、8番手から追い上げた末の、成田らしい渾身の勝利でした。

ヒート2のデータには、もっとすさまじいラップライムが残っています。やはり出遅れた成田は、9番手からポジションアップを試みたのですが、さすがにペースが上がらず、1分37秒台で5番手までばん回するのがやっとでした。成田は1日分の体力をすべてヒート1に注ぎ込んでしまうと、ヒート2では売り切れになることがよくありましたが、それは負けず嫌いな気持ちが強すぎて、手加減などできないからなんです。だから今回のヒート2もそのパターンにはまったように見えました。

ところがラスト2周で成田は突然1分34秒台を叩き出し、ラスト1周にはベストラップ1分34秒156を記録します。なぜだか分かりますか? 目の前に山本が現れたからなんです。それまで両者の差は12秒ほどあったのですが、山本が最終コーナー前の2連ジャンプで引っかかり、あわや転倒というミスをした際に腕を痛めてペースが落ち、後続の成田が7秒差に迫る事態となりました。

ヒート2の最終ラップでベストラップを出すなんて、これはもう気持ちだけでしょう。獲物を仕留めるときの猛獣のような闘争心。先ほどもチームでその話をしたのですが、なんで最初からそのタイムが出ないのか。山本が見えないうちはあきらめていたのか。そうではないけれど、見えただけで火が点く成田もすごいと。エンジニアの立場としては、もっと理論で突き詰めたいところですが、気持ちだけで速くなったり遅くなったりするのも、モトクロスのおもしろさだと思います。

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