Team HRC現場レポート

Vol.48

新たな目標を持って挑んだ18年シーズン開幕戦を、芹沢監督が振り返る

2018年シーズンの全日本モトクロス選手権に最強の布陣で臨むTeam HRCは、開幕戦(4月8日・熊本)の両クラスで表彰台に登壇しました。成田亮選手(#982・CRF450RW)=IA1完全優勝(1位/1位)、山本鯨選手(#1・CRF450RW)=IA1総合3位(2位/4位)、能塚智寛選手(#828・CRF250RW)=IA2総合2位(1位/3位)。中でも成田選手は、念願だった通算150勝を達成したあと、151勝目をマークする快挙を見せました。Team HRCの取り組みをお伝えする現場レポート。今回は芹沢勝樹監督によるニューシーズンの展望と、開幕戦のまとめをお届けします。

芹沢勝樹監督

今シーズンのコンセプトは「圧倒的上位独占」です。IA1クラスでは毎レース、1-2フィニッシュを目指します。ディフェンディングチャンピオンの山本か、V11キング成田のどちらが上でもいいので、HRCとしては全ヒート勝ちたい。昨年は達成できなかったのですが、反省と分析に基づいて改善すれば、おのずと全勝という目標が見えてくるのです。昨年の反省点ですが、山本の場合は確実に勝てるレースを逃していました。第3戦広島と第4戦菅生がその典型です。成田に関しては、マシンとのマッチングがうまく行かなかった面があったので、その辺りを見直せば、2人とも勝利数を増やせると計算しています。

IA2に関しては、能塚が来季WMXに復帰するために、スキルアップすることをテーマに掲げています。昨年は第3戦アルゼンチンGPで頸椎を負傷し、以後は療養に専念した1年でした。能塚は1月に首を固定していたプレートを外し、2月にライディングを開始したばかりなので、焦らずに全日本で腰を据えて実力を蓄えた方が、復帰への近道になるだろうと判断しました。二の舞にならないようにじっくり取り組もうと。治ったから早速イタリアに行ってチームに合流、という日程では通用しないくらい、今のWMXはレベルが高いのです。

全日本における能塚の数値目標ですが、現時点では成田や山本から2秒落ちのラップタイムでいい。もちろんそこで満足することなく、徐々にスピードを上げて成田と山本のタイムを抜くことを目指しています。ただし転倒や負傷があってはいけないので、慎重に上げていきたい。MX2チャンピオンのポール・ヨナス(KTM)と能塚を比較すると、昨年のデータで4~6秒落ちなので、チャンピオンを目指していく過程でいつか成田や山本をしのぐことになります。言い換えるならば、成田や山本に勝てなければ、WMXでの成績向上は望めません。

今シーズンのハードウエアとしては、CRF450RW×2台、CRF250RW×1台ですが、もともと成田と山本だったところに能塚が帰ってきたというかたちです。450に関しては昨年型の熟成バージョンですが、今年は成田がAMA先行型、山本がWMX先行型を走らせます。交代した理由は、両者のライディングスタイルとマシンの用途を再検証した結果です。成田はストップ&ゴータイプなので、AMAスーパークロスに向いている。山本はハイスピードを維持してつなげるヨーロピアン乗りなので、WMX仕様にマッチしている。250に関しては、とりあえず量産ベースです。ただしライダー自身の仕上がりやMX2における戦況も含めて、今後新たに投入するタマを能塚車で先行して確認するようなこともありえます。

今年のマシンは熟成型ということもあって、シーズンオフにはテストよりも乗り込みによるスキルアップを重視しました。早めにサスペンションとタイヤを決めたあとは、ライダーの希望を尊重して可能な限りのサポートをしました。例えば山本の場合は、1カ月間ヨーロッパに行って半月はGPチームと帯同し、ガイザーたちと一緒に練習してきました。成田にはアメリカでトレーニングしたいという希望があり、例年よりも厳しいメニューをこなしてきました。そうして迎えた開幕なので、ライダーも我々チームスタッフも勝算を持っていました。

開幕戦が行われたHSR九州は熊本製作所に隣接したコースなので、Hondaにとっては地元のアドバンテージはあります。テストも多くやっていますし、マシンの仕上げなどは早くできているはずです。今年はコースレイアウトに変更はなかったんですが、金曜から土曜にかけての大雨と強風の影響が気がかりではありました。もともと水はけがいいサンドコースなので、マディというほどには至らなかったものの、サンドが深く掘れるとその下の硬い部分に難しいギャップが出てくるのではという心配がありました。

勝負どころは特に設定していなかったんですが、1コーナー先の大きなテーブルトップのダブル、ウェイブセクション、それからフープスはビデオを撮って分析していました。今年はあまりユニークなラインがなかったですね。ただウェイブセクションは登り坂に設けられたうねりなので、ライン取りによってスピードが伸びたり落ちたり、差がついていました。具体的にはスピードを乗せてアウト寄りを通るのが一般的なので、多用される左側が荒れると遅くなる。そこでだれも通っていないイン側~右側に変えてみれば、登りの加速で勝てるんじゃないだろうか。そういった見極めが大事でした。

IA1の結果は予想通り、2人の仕上がりからすれば当然の成り行きでした。成田の150勝は1年越しというか足掛け3年というか、難産でしたがようやく達成してくれました。それにしても成田は「持ってる」ライダーですね。開幕ヒートで大記録を達成して、すぐにヒート2でそれを更新ですから。昨年はここで山本に負けてから、スランプになっていったのですが、タイプの違うライバルの出現に焦って空回りしたのでしょう。今年はシーズンオフから充実して準備できていたので、それがかたちになりました。

山本の不振は腕アガリがすべてですが、ディフェンディングチャンピオンを意識しすぎたことが一因かもしれません。チームとしてはマシン側での対応も含めて検証したいところです。今回はコースコンディションがウエットサンドからドライへ変化したのですが、その度合が大きかったので、どこまで対応できたか疑問です。土曜はウエットで深いサンド、日曜は晴れて乾き始めたサンド、ヒート2ともなると硬いところも出てきた。この3パターンに対して、その都度サスセッティングをアジャストできていたのかどうか。土曜日にはトップタイムを出しましたし、問題は発生しませんでした。課題は路面が硬くなってきたときのサスセッティングだと認識しています。

能塚については、勝っちゃった…という印象でした。勝って欲しかったことは確かですが、1年ぶりのレースなので、表彰台に立てたらヨシとしようというぐらいのつもりでした。本人ともそう話していましたし。周りからはGP帰りと期待されるのが必至でしたが、我々にしてみたら行ってなかったみたいなものですし、GP帰りでもなんでもない。だから勝たなきゃという焦りにならないように。そう言っていた矢先のヒート2で不用意に攻めて転倒したので、能塚ともう一度じっくり話し合ってみようと思います。

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