プローブデータのオープンデータ化とは?データ元の概要やメリットを解説

位置情報データ
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現在、乗用車で生成された「プローブデータ」の一部を「オープンデータ」として公開する動きがあり、政府も推進しています。

この記事では、プローブデータとオープンデータを分けてそれぞれ解説します。この記事を読むと、プローブデータをオープンデータとして扱う理由がわかります。

プローブデータとオープンデータ

プローブデータとオープンデータのそれぞれの概要を解説します。

プローブデータとは?

「プローブデータ」とは、自動車の位置情報と車両情報を組み合わせて生成したデジタルデータです。容量が膨大なビッグデータの一種でもあります。

位置情報と車両情報を組み合わせてプローブデータが生成される
位置情報と車両情報を組み合わせたデータのこと

位置情報は、乗用車の現在地を示すものです。人工衛星を活用したGPSだけでなく、車輪の速度や操舵角などの推測(デッドレコニング)にも用います。このため、トンネルの内部やビルの陰のように、人工衛星からの電波が届きにくい場所でも現在地を検知できます。

一方、車両情報は、乗用車の走行状況や状態を示すものです。ドライバーが制御する走行速度やブレーキ操作だけでなく、エンジンなどの機器の状態、ボディやシャシーの振動、気温などがこれに含まれます。

プローブデータは、これらを組み合わせた走行履歴です。これは、車載機で生成され、無線で自動車メーカーのデータセンターに送信され、蓄積されます。そのため、自動車メーカーは、特定の乗用車が「いつどこでどのような状態になったか」という走行履歴を把握でき、トラブルに遭遇したドライバーに対して適切なサポートができます。プローブデータは、もともとドライバーのサポートを目的として開発されたものです。

オープンデータとは?

「オープンデータ」とは、オープンになった、つまり公開されて二次活用が認められたデータのことです。特定の人ではなく、誰でも二次活用できるのが大きな特長です。

オープンデータは、AIなどの機械が読み取れるデジタルデータとして、無償で提供されます。そのため、政府や民間企業などが自由に分析できます。

国などの行政機関が無償のオープンデータを提供すると、さまざまなメリットがあります。情報の透明性が向上するだけでなく、その分析によって有用な情報が得られ、経済の活性化や官民協働の推進などにつなげることができます。

このため、オープンデータの提供は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現する手段の1つとして注目されています。

プローブデータのオープンデータ化

次に、プローブデータをオープンデータにするメリットを解説します。

プローブデータ共有のメリット

自動車メーカーは、乗用車から収集し、蓄積したプローブデータを自社で管理しています。その管理や活用は、各自動車メーカーによって異なります。

各自動車メーカーが管理するプローブデータには、道路交通の管理に有用な情報が含まれています。たとえば、多くのドライバーが急ブレーキを使った場所からは、交通事故が起こりやすい場所を絞り込むことができます。乗用車の走行速度が低くなる場所からは、渋滞が起こりやすい場所を特定できます。乗用車の振動からは、路面の状態が悪い場所を特定することができます。

プローブデータの一部をオープンデータ化し、官公庁や自治体に提供するしくみ
プローブデータの一部をオープンデータ化し、官公庁や自治体に提供

このような情報は、道路の改良や補修に役立ちます。対策を必要とする場所を、従来の方法よりも効率よく見つけ出すことができるからです。このため、道路交通を所管・管理する地方公共団体は、プローブデータに含まれる有用な情報を求めています。

そのため、自動車メーカーが管理していたプローブデータの一部をオープンデータとして公開し、道路交通の管理にいかす取り組みが行われています。

なお、国土交通省は、自動車メーカーとは別に、「ETC2.0プローブデータ」を収集・蓄積し、オープンデータとして公開する試みをしています(※1)

国土交通省の「ETC2.0プローブデータ」のオープン化の試み
国土交通省の「ETC2.0プローブデータ」のオープン化の試み

「ETC2.0プローブデータ」は、ETC2.0を活用したプローブデータです。公開された「ETC2.0プローブデータ」は、道路管理者に提供され、渋滞対策や交通安全対策、料金施策、物流支援、公共交通支援にいかされています。

Hondaの取り組み

一方、自動車メーカーの1つであるHondaは、プローブデータを長年にわたり収集・蓄積した企業です。同社は、2003年にプローブデータを活用したカーナビシステムを世界で最初に開発。2010年ごろからは、通信料不要の車載通信デバイスを車種・車格を問わず全車(軽乗用車を含む)に搭載し、プローブデータを収集・蓄積してきました。現在は、対象となる乗用車の1日あたりの走行距離は、5,000万kmを突破しています。

このため同社は、プローブデータを二次活用するビジネスとして「Honda Drive Data Service」を展開しています(※2)

「Honda Drive Data Service」概要図
乗用車から集めたプローブデータを二次活用するビジネスを展開

このビジネスでは、プローブデータの分析で得られた有用な情報を官公庁や自治体、企業に提供しています。

「Honda Drive Data Service」で提供したデータは、道路交通の管理に欠かせない路面性状調査などにいかされています。路面性状調査は、路面の補修を必要とする場所を絞り込むため、路面の損傷が起きた場所とその変状を評価する調査です。

Hondaは、プローブデータの一部をオープンデータにする取り組みもしています。たとえば、ドライバーが急ブレーキをかけた位置から交通事故が起きやすい場所を特定したデータは、「SAFETY MAP」としてWebで公開しています(※3)

PC版(左)とスマートフォン版(右)の「SAFETY MAP」
PC版(左)とスマートフォン版(右)の「SAFETY MAP」

また、2011年の東日本大震災直後には、通行実績情報マップ(乗用車が通行可能な道路を示す地図)を作成して公開し、被災地への緊急物資輸送に貢献した実績(※4)があります。

まとめ

以上、プローブデータとオープンデータを分けてそれぞれ解説しました。また、プローブデータをオープンデータとして扱うメリットを紹介しました。

なお、この記事で述べた「ETC2.0プローブデータ」と自動車メーカーのプローブデータは別のもので、データ取得の仕組みや収集範囲などが異なります。自動車メーカーのプローブデータは、「ETC2.0プローブデータ」ではカバーできないデータを含んでいるので、「ETC2.0プローブデータ」を補完する目的で使われることがあります。

この記事で紹介したようなプローブデータの活用方法についてさらに深く知りたい人は、「Honda Drive Data Service」のWebサイトを訪れてみてください。ここでは、プローブデータの活用事例などの多くの情報が掲載されています。

このコラムの執筆者

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川辺 謙一
東北大学工学部卒。東北大学大学院工学研究科博士前期課程(修士)修了。
メーカー入社後は、工場や研究所で技術者として研究開発に従事し、2004年に独立。茨城県南部在住。
技術者だった経験と、文章や絵で表現する能力を活かし、身近な交通に使われている技術を一般向けに翻訳・紹介する活動を20年以上続けている。
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