新型TYPE Rの開発責任者・柿沼氏に聞く

Hondaスピリットの象徴〈前編〉

今年9月に発売を予定している新しいCIVIC TYPE R。先代CIVIC TYPE Rのコンセプト『Ultimate SPORT』を、さらに進化させた『Ultimate SPORT 2.0』がグランドコンセプトである。Hondaスピリットの象徴ともいえるこのスポーツモデルの開発思想を探るべく、開発責任者の柿沼秀樹にインタビューを行った。新時代のCIVIC TYPE R、その本質を追求していきたい。

柿沼秀樹氏

TYPE Rに求められる

開発思想とは。

“TYPE R”という言葉を聞いただけで、心躍るスポーツカーファンは多い。それはHondaスピリッツの象徴ともいえるクルマだ。F1など世界最高峰のモータースポーツに参戦して培ってきたHondaのレーシングテクノロジーをフィードバックして、走行性能を極限まで高めたスポーツカーである。

その歴史は、いまから30年前にさかのぼる。1992年のNSX タイプRがスタート地点だ。続いて1995年のINTEGRA TYPE R、1997年のCIVIC TYPE Rへと継承されていく。このときの初代CIVIC TYPE Rから数えて、今回の新型CIVIC TYPE Rは7代目にあたる。開発責任者の柿沼に、まずTYPE Rというクルマに求められる開発思想について聞いてみた。

「初期のTYPE Rは、とにかく速く、そしてドライビングプレジャーを研ぎ澄ますことが大命題でした。そのために必要のないものはすべて剥ぎとっていく。TYPE Rというのは、そういう乗り物でした。しかし、時代が移り変わっていく中で、もっとクルマとして普遍的につきあえる乗り物にしていきたいと考えるようになりました。TYPE Rとしての本質はそのままに、よりサスティナブルなものに昇華させていくという考え方です」。

つまり、当初はサーキットベストで開発されていたTYPE Rを、柿沼は「TYPE Rが持つドライビングプレジャーをもっと多くの方に味わってもらいたい、サーキット以外の場所でもそれを満喫してもらえるクルマにしたい」と捉え直した。それは彼が開発で関わっていたTYPE Rが当時、欧州市場をメインターゲットとしたモデルだったことが起因している。欧州ではアウトバーン、山岳路など速度レンジが高く、路面アンジュレーション(起伏)に富んでいる。雨天も多いなど様々なコンディションの路面を、誰もがより安全に快適に、そしてクルマを信頼して走れることが求められるからだ。

究極のバランス性能を

実現する。

いま自動車業界はもちろん、社会全体が大きな変革の時代を迎えている。Hondaはカーボンニュートラルの実現をめざし、持続可能な社会に貢献できる技術開発に全社を挙げて取り組んでいる。F1参戦の終了、フラッグシップスポーツカーNSXの販売を終えた現在、Hondaらしい“走る喜びを追求するモデル”として、TYPE Rへの期待値がより一層高まっている。

そこで先代CIVIC TYPE Rの『Ultimate SPORT』を再びコンセプトに据えて開発を進めていく。速さと操る喜びを研ぎ澄ますのはもちろんのこと、快適性、安全性能、居住性…、そこに我慢や妥協するものは一切ない。そんな “究極=Ultimate”のバランスを持つスポーツカーとしてさらなる進化を目指す。そのプロセスで新型CIVIC TYPE Rのグランドコンセプト『Ultimate SPORT 2.0』が生み出された。

「この『Ultimate SPORT 2.0』には、スポーツカーとしての究極の走りがもちろん一番の軸にあります。しかし、それだけではない。クルマとして、スポーツカーとしての究極のバランスポイントを実現させたかった。たとえば、見た瞬間から吸い込まれるような迫力と美しさを兼ね備えたデザインや、クルマと一つになってどこまでもずっと走り続けたいと思えるような感覚です。圧倒的なパフォーマンスと高い質感が融合した、新時代のピュア&リアルスポーツカーを目指したのです」。

柿沼が強調するこのバランスは、90年代や2000年代のTYPE R開発では実現することが難しかった。ベースモデルがあってのTYPE Rがゆえ、そぎ落とすか付け足すかが問われるデザイン。速さと操る喜びを研ぎ澄ますがゆえ、快適性を度返ししたライドコンフォート。そこには当時の技術では解決できない課題があった。やはり、基幹となるハードウェア技術進化の上で、昨今の電子制御技術のめざましい進歩や生産技術の進化があったからこそ実現できたものといえる。最新のテクノロジーを標準装備した新型CIVIC TYPE R、そのドライビングフィールに否が応でも期待が高まっていく。

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