「サーキットでのパフォーマンスを最優先とする。」誕生以来、一般道での操りやすさを標榜してきたCBRは、ここで、新たな高みへ踏み出すことになる。
“Total Control” というこれまでのコンセプトワードには、for the Trackの三語が新たに加えられた。
「新型FIREBLADEは、動的性能評価をサーキットで行い、純粋なレーシングマシンを作るように取り組んでいる。」
LPL(開発責任者)の石川譲は、未踏の領域に挑む量産車の開発をそう表現する。
「目指したのは、圧倒的な動力性能とそれを活かすためのコントロール性の両立。そのために、開発初期よりサーキットテストを重ね“サーキットベスト” という判定基準を担保した。」
公道では確認できない領域の高速/高荷重下での操りやすさの追求が、CBR過去最高の出力とHonda量産車としての機能・耐久性を両立させている。新設計のエンジンは、その異次元の要求値を達成するためにMotoGPマシンRC213Vと同じボア(81mm)×ストローク(48.5mm)を採用、ボアを拡大しながらも横幅は抑えられ、前面投影面積への影響を最小限にとどめた。
同時に、エンジン前後長も短縮され理想的な前後輪荷重を実現、過度なピッチングを抑制する重心位置の設定を可能にしている。その高出力を受け止めるフレームも上側のクロスメンバーを不要とする新構造とし、剛性の最適化と軽量化を達成、加減速時の安定感と旋回時の接地感を向上させている。
もちろん、空力特性も徹底的に磨き抜かれた。デザイナーは、クラス最少のCd値達成を念頭に、スピードを阻害する一切の要素を排した。デザインと空力解析のプロセスは密に連携し、新型FIREBLADEにはウィングレットが備わった。ここから生じるダウンフォースが、加速時のウィリーを防ぐだけでなく、低速から超高速域までの操安性を高めている。
マシン性能をフルに引き出す電子制御システム、車体情報を伝達する電装系など、“Total Control” for the Trackを具現化するあらゆる作り込みがなされた新型FIREBLADE。
新たな伝説を生み出す準備が整った。
(#03へ続く)