何もかもがゼロからの再スタート、 31戦目で得た初めての勝利 |
ベテランと組んだが故に、その要求に応えることができず、三行半を突きつけられたホンダ。その反省をもとに、参戦2年目はCARTに初めて挑戦する新チームと組むことになった。前年までCARTへの登竜門とも言うべきインディ・ライツ・シリーズを戦って来たタスマン・モータースポーツに、ドライバーは同シリーズで2位を得たブラジル人ルーキー、アンドレ・リベイロだった。
「やはり、ホンダのやり方というのを解ってもらえるのが一番大事だと感じました。もう、とにかくゼロからやり直す気で、どうせやるなら若いゼロからのチームがいいってことでタスマンに話したんです。実は、そのとき彼らはもう他のメーカーと契約してたんですが、それを切ってくれて、そのメーカーも解ってくれてね。それで、うちもゼロから始める、チームもゼロから、ドライバーもゼロからっていうことで再出発しました」と朝香。 3度チャンピオンを獲得したドライバーがオーナーのチームから、まったくの新チームへと大転換した2年目のホンダ。だが、新しいのはそれだけではなかった。その年からブリヂストン傘下で復帰したファイアストン・タイヤに、シャシーもホンダと同じ参戦2年目のレイナードをチームが採用。今や圧倒的な強さを誇るホンダ・レイナード・ファイアストンの組み合わせだが、その時、このような未来になることを想像した者は誰一人としていなかったはずだ。 当然、そのようなあたらしもの尽くめのパッケージで最初からうまくいくわけもなく、最初の数戦は結果らしい結果を残すことなどできなかった。やがて5月のインディ500を迎え、同レースで2位に入ったことのあるベテラン、スコット・グッドイヤーがスポットで起用されて2台体制となる。さらに、レイホールから決別を言い渡された時に開発が始まった新エンジン、HRHがついにこのインディ500でデビューした。
フロントローを確保したグッドイヤーはホールショットを決め、 真っ先にターン1へと飛び込んでいく |
| 前年に嫌と言うほど味わった屈辱の予選から1年が過ぎ、とうとうやってきた2度目の予選。1台ずつ行われたシングルカークオリファイで、グッドイヤーのドライブするホンダ・レイナードは予選3位、フロントローを獲得して場内は騒然となった。この時、予選1位と2位に入ったのはインディ500専用のルールに基づいて仕立てられたマシンであり、シリーズを戦うレギュラーの中では文句無しの一番時計である。 こうしてホンダが初めて臨むことになったインディ500の決勝では、グッドイヤーがスタートからトップに立ち、終盤までレースをリードして見せる。誰もがこのまま初優勝かと胸躍らせ始めたその矢先、グッドイヤーはイエローコーション後の再スタートで誤ってペースカーを追い越してしまう。そして、ゴールまであと数周というところでペナルティを科せられ、戦線離脱を余儀なくされたのだ。 「勝負に勝ってレースに負けた……、というか、ともかく負けは負け。でも予選からレースまで、我々が見せたパフォーマンスは事実であり、観客はこのバトルを楽しんでくれたに違いない。我々は今回のインディ500で、ホンダがここにいるということを証明することができた」と朝香は惜敗に終わった2度目のインディ500を振り返る。 |