ATC初代チャンピオンで、2017年より世界グランプリMoto3クラスに参戦する鳥羽海渡のピットに立つ青山。2018年からはMoto2のIDEMITSU Honda Team Asia、Moto3のHonda Team Asiaの監督を務めている

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ライディングアドバイザー青山博一に聞く
2017年シーズンのIATC

IATCのシリーズディレクターを務めるスペイン人のアルベルト・プーチ。元GP500ライダーで、若手ライダー育成では数多くの実績を持つ

IATCのシリーズディレクターを務めるスペイン人のアルベルト・プーチ。元GP500ライダーで、若手ライダー育成では数多くの実績を持つ

IATC(イデミツ・アジア・タレント・カップ)でライディングアドバイザーとして、ライダーたちをサポートしている青山博一。自身もライダーとして世界で活躍し、2009年には世界GP250㏄クラスのチャンピオンを獲得。MotoGPクラスでも活躍した経験を持つ人物だ。

アドバイザーの目から見た2017年のIATCはどんなシーズンだったのだろう。

「2017年はアジア各国から23名のライダーが参戦してくれました。開幕戦の前にタイのブリーラムで事前テストを行ったのですが、このときは転倒が多くて、先が思いやられる状況でした。

2017年よりアライヘルメットにサポートしていただいているのですが、あまりにも転倒が多く、シーズン途中でヘルメットの追加補充をお願いするほどでした。

幸い各ライダー、大きなケガはなく、ヘルメットをはじめとした安全装備のおかげだと感謝しています」

2017年は最終戦の最終レースまでチャンピオン争いがもつれ、デェニス・オンジュがチャンピオン、埜口遥希がランキング2位を獲得した。最終的な2人のポイント差はわずか1ポイントだった。

「2017年は5、6人のライダーがシリーズ全体を引っ張ってくれました。各コースのほとんどで前年度のタイムも更新されていますし、レベルの高いシーズンだったと思います」

チャンピオンを獲得したIATC2年目のデェニス・オンジュは通算2勝、2位1回、3位2回の表彰台を獲得。

「デェニスはトルコ人で、ランキング3位のカン・オンジュとは双子の兄弟です。身体の小さなデェニスが兄で、身体の大きなカンが弟になります。2人は同じような速さを持っていると思うのですが、カンの方が積極的な走りをするのが特徴です。ただし、シーズン序盤は、カンは転倒に巻き込まれるなどツキがなかったですね。兄のデェニスはカンほどガンガン行くタイプではないのですが、2人ともトルコ出身ということもあり、ヨーロッパのライダーに近い印象です」

ランキング2位の埜口は鈴鹿で初優勝を達成、通算1勝、2位2回、3位2回の結果を残した。

「埜口は参戦1年目で、シーズン序盤こそ経験値が足りない部分を感じましたが、鈴鹿で優勝し、日本人ライダー勢の中でもいい走りをしていました。最終レースの流れを見ていて、彼がチャンピオンを獲得できるかなと期待していました。もてぎでの転倒ノーポイントがなければ、違った展開になったと思います。それでも、2年目のデェニスに対してチャンピオンを争ったわけですから、1年目のライダーとして、このポジションは評価が高いと思います」

「また、2年目の國井勇輝も速さを見せてくれました。國井はアジア・タレント・チームからCEV Moto3ジュニア世界選手権にも参戦していますが、ポルトガルラウンドでケガを負い、IATCで3戦の欠場を余儀なくされました。2017年のIATCでは通算3勝を記録していますし、欠場がなければチャンピオン争いに加わっていたと思います。3年目の山中琉聖も初優勝を達成し、ランキング4位といい走りをしていました。また、マレーシア人のアズロイ・アヌアは優勝こそなかったものの、2位4回と安定した速さを見せてくれました」

マシンはホンダNSF250R。タイヤはダンロップ。アクラポビッチ製マフラー、ショーワ製前後サス、ニッシン製ブレーキキャリパー、D.I.Dチェーンなど、さまざまなテクニカルサポーターが支援。マシンはワンメイクのため、イコールコンディションが徹底されている

マシンはホンダNSF250R。タイヤはダンロップ。アクラポビッチ製マフラー、ショーワ製前後サス、ニッシン製ブレーキキャリパー、D.I.Dチェーンなど、さまざまなテクニカルサポーターが支援。マシンはワンメイクのため、イコールコンディションが徹底されている

メカニックスタッフは、世界グランプリのMoto3クラスやスペイン選手権でも活動するメンバーたち。プーチ、青山と共にライダーたちをサポートする

メカニックスタッフは、世界グランプリのMoto3クラスやスペイン選手権でも活動するメンバーたち。プーチ、青山と共にライダーたちをサポートする

レースウイークの搬入日などには英会話などの講座も開設。IATCの公用語は英語のため、英語の習得には特に力が入れられており、アクセンチュア社が協力している

レースウイークの搬入日などには英会話などの講座も開設。IATCの公用語は英語のため、英語の習得には特に力が入れられており、アクセンチュア社が協力している

青山はIATC卒業生の次のステップであるCEV Moto3ジュニア世界選手権でも、アジア・タレント・チームのアドバイザーを務めている。

2017年は真崎一輝、小椋藍、國井ら3人の日本人ライダー、2016年ATCチャンピオンのタイ人ライダー、ソムキャット・チャントラと、インドネシア人ライダーのアンディ・イズディハールをサポートした。

「真崎は2年目、小椋と國井、チャントラは1年目、イズディハールは3年目の参戦でした。真崎は常に上位に食い込み、並行して参戦したレッドブル・ルーキーズ・カップではチャンピオンを獲得しましたし、ワイルドカードで初参戦したバレンシアGPのMoto3クラスでも10位に入賞しました。2017年シーズンは彼が一番伸びたと思います。

小椋と國井も速さを見せてくれましたが、小椋がカタルニアのレース1でケガをしてそのあとの3レースの欠場を強いられ、伸び盛りのときに走れなかったのは残念でした。

國井も開幕戦こそマシンの違いに戸惑った様子でしたが、その後フィーリングをつかむと、カタルニアでは一時トップを走りました。ポルトガルでケガを負い、欠場を余儀なくされたのは残念でしたね。

チャントラもカタルニアでケガし、欠場がありましたが、彼の特徴は吸収が速いことですね。また、チャントラとイズディハールは雨が降るとすごく速いです」

IATCのシリーズディレクターを務めるのはアルベルト・プーチである。

プーチは長年、若手ライダー育成に携わり、ダニ・ペドロサを筆頭に多くのライダーを育ててきた。青山も世界GP参戦1年目にプーチに出会い、その後、グランプリを通してさまざまな経験を積んできた。

それでは、プーチの指導とはどんなものなのだろうか。

「一言で言えばスパルタです(笑)。ただし、今の子たちは年齢も十代半ばと若いので、僕らの時代から比べると優しいですよ。携帯ばかり見ているような子は、今でも怒られますが。若手育成でアルベルトが見ているのは現状の速さではありません。そのライダーに速くなりたい気持ちがあるのかどうかを重視しています。走りだけでなく、いろんな部分を見て、シーズンを通じてそのライダーがどのように伸びていったのかを見ていますね」

IATCを目指すライダーに向けてアドバイスをもらった。

「IATCに選抜された時点で、バイクに乗るのがうまいライダーなんだと思います。ですから、重要なのは、あきらめない、継続してがんばる、やり遂げるという強い気持ちが大切だと思います。僕自身もMotoGPまで行けた理由は、技術よりも、強い気持ちを持ってすべてに取り組んできたことが大きかったと思います」

「そして、世界を目指すならば、大切なのが英語です。IATC1年目のライダーは言葉の問題もありますし、僕がメカニックとの間に入ることもあります。ただし、IATCの育成プログラムの中には英会話講座もありますので、IATCライダーたちの英語力はシーズンを通じてレベルアップしています」

2018年は世界グランプリMoto2クラスに参戦中のIDEMITSU Honda Team Asia、Moto3クラスに参戦するHonda Team Asiaのチーム監督を務めている青山。

「選手として長くやってきた経験を活かして、ライダーが走りやすい環境を作り、そのパフォーマンスを伸ばしていきたいです。IATC出身のライダーはもちろん、日本、アジアから世界へと到達したライダーが活躍することを期待しています」

ヘルメットは2017年よりアライヘルメットがサポート。もてぎではアライヘルメット代表取締役の新井理夫氏がライダーを激励。ライディングスーツ、グローブ、ブーツなどはアルパインスターズがサポート

ヘルメットは2017年よりアライヘルメットがサポート。もてぎではアライヘルメット代表取締役の新井理夫氏がライダーを激励。ライディングスーツ、グローブ、ブーツなどはアルパインスターズがサポート