Honda Riders Close Up ~ワークスマシンを駆って、世界に挑むライダー~

Moto3 鈴木竜生 SIC58 Squadra Corse

Moto3 鈴木竜生 SIC58 Squadra Corse
Profile
生年月日
1997/09/24
出身地
千葉県(日本)
身長・体重
170cm・59kg
チーム(マシン)
SIC58 Squadra Corse(NSF250RW)
2016年の成績
Moto3 総合27位
Vol.1

2017年のMoto3世界選手権では、15名のライダーたちがHonda NSF250RWを駆り、長丁場の全18戦を戦います。その中の一人、鈴木竜生(SIC 58 Squadra Corse)は、今年で3年目のグランプリシーズンを迎えます。今シーズンからHonda陣営に加わった鈴木にとって、プレシーズンテストでまず最初に驚いたのは、日本語でコミュニケーションができることの利便性だったといいます。

「一番最初にびっくりしたのは、“エンジニアの人たちと日本語で会話ができる”ということでした。ライバル陣営のマシンに乗っていた昨年までの2年間は、メーカーの技術者の方たちといつも英語でやりとりをしていました。Hondaのチームに移籍して、今は日本人技術者の人たちに、細かいニュアンスまで、日本語でしっかり伝えられるので、こんなに楽なことはないな、と感じています。これが普通のことなのかもしれないですが、かゆいところに手が届く会話をできるのはいいですね」

とはいえ、ライバル陣営で過ごしたその2年間は、ライダーとして成長するために非常に大きな糧になった、と鈴木は振り返ります。

「ライダーとしてあまり経験がない中で、いきなりグランプリに上がってきたものの、その陣営のマシンしか選択肢がない状況だったので、その環境で2年間しっかりと経験を積んで、3年目や4年目に勝負できるよう、自分自身を鍛えておこうと思っていました。だから、今は目標通りに進めている印象です。あと、昨年までいた陣営は新興メーカーだったので、ありがたいことに開発にもある程度携われました。その面でも、ライダーとしていい経験を積めたと思っています」

鈴木は、日本の地方選手権を経てFIM CEVレプソルインターナショナル選手権を戦い、グランプリへの足がかりをつかみました。全日本選手権を経験していないという意味では、比較的珍しいキャリアパス、と言えるかもしれません。

「今では自分の選択は正しかったと思っていますが、Moto3の一年目はさすがに心が折れかけました。だって、CEVも一年しか経験していなくて、全日本も経験しない状態でいきなりグランプリにやって来て、第12戦のシルバーストーン(イギリスGP)まで全くポイントを取れなかったので。自分でもさすがに、“グランプリに来るのが早すぎたか”とも思いました……。でも、シルバーストーンでポイントを取れたことで“僕はここで走ってもいいんだ”と、自分の中で再確認ができました。シルバーストーンでポイントを取って、第15戦日本GPでもポイントを取ることができました。両方ともマシン差が出にくい雨のレースだったので、ドライでポイントを取るよりも自信につながりましたね」

今シーズンを戦うチームは、その名称が示す通り、故マルコ・シモンチェリの父、パオロ・シモンチェリ氏が立ち上げたチームです。スタッフがイタリア人で占められているこのチームに、鈴木は早くも、すっかり溶け込んでいます。

「パオロさんが、まるで昭和の日本人みたいな雰囲気なんですよ」と、鈴木は笑顔で話します。「ピットの中では走行が始まってから終わるまで、ほとんど喋らないんですが、彼がいることで、周りがしっかりと引き締まるんです。口数が少なくてすごく真面目で、イタリア人だとは思えないくらい(笑)」

鈴木は、開幕前にパオロ氏の自宅で数日間を過ごす機会に恵まれました。この期間は、マルコ・シモンチェリというライダーの、大きな存在感を改めて認識するいいきっかけにもなりました。

「冬の間にパオロさんの家にしばらく居候をさせてもらったんですが、そのときに、マルコ・シモンチェリというライダーが本当にイタリアの人々に愛されていたことを肌で感じることができて、58番を背負って走る重みや、このチームで活動する意義を改めて強く感じました。そのときに、マルコさんの古いビデオや本をたくさん見せてもらったのですが、いつも明るくて笑顔が絶えない人だったことがよく分かって、“なんだか(富澤)祥也くんに似てるな”とも思いました。開幕前のチームプレゼンテーションでは、あるジャーナリストの人から“CIPでは祥也くんの48番を背負って走っていて、そのチームから今度は58番を背負うチームに移ってきたことをどう思いますか”という旨の質問もされました。きっと、なにかそういう縁のようなものがあるんでしょうね」

さらに言えば、このチームが活動を開始するにあたり、縁の下の力持ちとして大きく貢献したのがファウスト・グレシーニ氏であることはよく知られています。その意味では、すべての日本人選手にとって大きな存在である74番(故加藤大治郎のゼッケンナンバー)とも、このチームには大きな関わりがあるといえるでしょう。

「そうなんですよ。チームのワークショップがグレシーニさんのところにあるので、このシーズンオフに何度も行く機会があったんですが、至るところから加藤大治郞さんの大きな存在感が伝わってきて、改めて本当にすごい人だったんだなと思いました」

そんな鈴木の今シーズンの目標は「最低でも、毎回トップ集団にいること」です。

「Moto3は毎戦だれが勝つか分からないくらいの大集団になりますが、その集団の中にいれば、18戦の中では絶対に1度はチャンスがあると思います。だから、まずはその集団でレースをすること。そのためには、やはり予選が一番大事ですね。欲を言えば10番手以内、最低でも15番手以内で予選を終われれば、決勝レースのトップ争いも見えてくるはずです。だから、今までの課題だった予選を、今年はまずしっかりやりたいと思っています」

そして、今シーズンに賭ける決意をこんな言葉で締めくくりました。

「ようやく、ここ3年で初めて、自分の力が分かる環境に置かれているのだと思います。だから、あとは自分の実力次第。勝てるマシンだし、勝てるチームですから」