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追いすがるライバルを、開発力でどう振り払うか

サマーブレイク明けから顕著な、ライバル勢の進化も見逃せない。 ロッシ選手がコンスタントに強さを見せるヤマハはもちろんだが、注目はドゥカティだ。序盤戦は、レギュレーションの緩和措置によりワンランクソフトなタイヤを使用可能であるという点を生かして予選は前に出るも、レースでは後退を余儀なくされるというケースが目立ったが、イギリスGPでは、ドヴィツィオーゾ選手がハード側のタイヤで走りきり、5位でフィニッシュしている。
そうしたライバル勢の戦いぶりを、中本さんとしてはどのように捉え、Hondaとしてどのように戦っていこうとしているのだろうか。


宮城:ここ2戦で勝利をHondaの手から奪い取っていったのはヤマハ勢でした。マルケス選手やペドロサ選手のペースに対して苦しむ場面もありつつ、着実に進化を続けているのは明らかですが、ドゥカティが侮れないペースでその後ろから迫ってきているのが気になるところです。ドヴィツィオーゾ選手は、もともといいライダーですけども、4強に次ぐポジションに来ているということは、マシンも、かなり仕上がってきていると見ていいですよね。もてぎを得意としていますから、侮れない存在になるかもしれません。
中本:そうだね。まあ、彼らに適用されるレギュレーションのことで、言いたいことはいろいろとあるけれどね(笑)。
宮城:シーズン序盤は、ブレーキングをがんばるほどタイヤへの負荷が大きくなり、挙動が不安定になってしまうように見えたのが、このところ安定してきました。
中本:外から見ている限りでの話だけれども、やはりフロントへの荷重が大きすぎたようにも見えるよね。
宮城:それで思ったことなんですが、ドヴィツィオーゾ選手がそこに一定の役割を果たしているんじゃないかということです。よく言う「開発能力」ですよね。
中本:特にヨーロッパのジャーナリストの人が「ライダーの開発能力」というところにフォーカスしたがる傾向があるという気がするんだけど、本当に必要なのは、開発側に「起きている事象」を正確に伝える力なんだよね。それを実際の「物理法則」に置き換えてクルマをつくるのは、エンジニアだから。
宮城:そう、まさにそれです。彼はHondaで「いいもの」を経験してきていますよね。僕は、その経験がドゥカティのマシン開発にフィードバックされているというふうに思うんです。
彼の場合、HondaのV型エンジンからヤマハの直4エンジンを経て、ドゥカティのL4エンジン──これもV型の一種──を経験している。「起きている事象」を説明するための引き出しという意味では、間違いなく、あらゆるものを持っているはずだし、ドゥカティではエースライダーですからね。自分好みのマシンをつくっていくための発言力も大きくなっているはずです。
中本:そういう点でも、手強い相手になりつつあるとは思うね。だけど、我々も「ライダーの要望に応える」ということについては、どこにも負けないくらいのノウハウを積み重ねているつもりですよ。
宮城:「タイヤの性能を引き出す」ことに主眼を置いて開発していると、前にもおっしゃっていましたよね。
中本:そう。たとえば、いまのフロントタイヤは、かつてのそれほど剛性が高くないから、マシンの方でフロントにかかる荷重を少なくしてやる必要があるわけですね。
その上で、マルクの乗り方だったら、あのとんでもないハードブレーキングに対応できるように、ヘッドパイプをもっと前に出して、フロントの荷重が少なくなるジオメトリを設定してやる……そういうことを粛々とやっているわけ。
宮城:僕も現役時代には、いろいろと感じたことを「物理法則」に置き換えてもらったものです。技術者というよりは、カウンセラーのようですらありますよね。この「カウンセリング力」とも言うべきものが、レースの勢力図を左右しますよね。

日本GPで、王座獲得なるか

厳しい2戦が続いたが、いよいよMotoGPが日本にやって来る。
サンマリノ、アラゴンと、マルケスにとっては、リザルトとして残念なレースが続いてしまったものの、レースの内容を見てみれば、その強さにはいささかの陰りも見られない。
マルケス選手が日本GPで勝利すれば、1997年にミック・ドゥーハン選手がHondaで記録した「シーズン12勝」というシーズン最多勝記録にも並ぶ。そんな歴史的な瞬間を目にできるまたとないチャンスが訪れているわけだ。
マルケス選手は、ペドロサ選手、ロッシ選手の前でフィニッシュするとともに、ロレンソ選手とのポイント差を75点以上まで広げれば、念願の2年連続チャンピオンが決定する。


宮城:さて、最後に、次戦日本GPへの意気込みをお願いします!
中本:普通のレースになったら、マルク、ダニ、バレンティーノ、ホルヘの4人によるトップ争いになるだろうね。我々のマシンは、もてぎみたいなストップ&ゴーのレイアウトは得意としているから、ぜひ1-2フィニッシュをしたいよね。
宮城:昨年のように、最終戦までもつれ込むのは避けたいですよね。
中本:本当は、アラゴンでホルヘのチャンピオンの可能性を摘み取っておきたかったな……。その点は悔やまれるけども、これがレースだからね。気を引き締めて、マルクがチャンピオンを獲れるように全力でサポートをしますよ。
宮城:日本GPで、ぜひ最高の勝利を期待しています!やっぱり、元Hondaライダーとしては、Hondaの勝利を見るのは特別なものですからね!

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