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vol.3 Honda MotoGP 2013シーズン分析 トップへ

序盤8戦終了時点でお送りした前回の「MotoGP分析」でお伝えした通り、「マルク・マルケスがまた勝利」というニュースは繰り返された。しかし、「もしかしたら、『全勝』という可能性も……」という、私の「いちHondaファンとしての夢」は、思ったよりも早く打ち砕かれてしまった。
第9戦ドイツGPではペドロサ選手とともに、1-2フィニッシュ。第10戦インディアナポリスGPでは、開幕10連勝を達成した。しかし、続くチェコGPでは4位。イギリスGPでは今季11勝目を挙げるも、信じられないことにサンマリノGP、アラゴンGPと2連続で転倒を喫するという結果になってしまったのだ。
シーズンの天王山、日本GPを迎えるにあたり、中本さんはそんな状況をどう捉えているのか、そしてどのように戦っていこうとしているのかを聞いてみたいと思う。

Repsol Honda Teamへの試練

「そんなのは結果論じゃないか」という批判は甘んじて受けるとして、アラゴンにおける、あの悔しいレースを見たあとではこう思わずにいられない。Repsol Honda Teamの首脳陣は、マルケスとペドロサ、あるいは少なくとも、いずれか1名だけでもピットに呼び寄せて、レインタイヤ装着マシンに乗せ換えるべきではなかっただろうか……ということだ。
レース中の雨への対応は、確かに残り周回数、ライバルとの差、レインタイヤによる短縮タイム、および、それと引き替えに負わなくてはならないピットインによるロスタイムなどを考慮に入れなければならず、難しい判断を迫られるものだ。だが、鈴鹿8耐において、数えきれないほどにそうした場面に直面し、切り抜けてきているHondaならば……と考えずにはいられないのだ。

雨が波乱を呼んだアラゴンGP

宮城:いやあ、アラゴンGP。大変でしたね。
中本:マルクは「あれ以上雨が強くならないと考えてコースにとどまっていたら、思った以上に雨脚が強まってしまった」と話していたね。
宮城:僕は、それまでのラップより4秒とか5秒とか遅くなったら、入れるべきだと思いましたよ。ピットからの指示でマシンを交換するか、その判断をライダーにゆだねるか、2つ方法はあると思うんですけど……今回の場合は後者を?
中本:我々は、残り周回がわずかな状況では、ライダーの判断にゆだねることにしているんです。たとえば残り周回数が5周の状況でマシン交換に30秒ロスすると、1周あたり5〜6秒稼がなくちゃならない。マルクは転倒寸前まで、スリックタイヤでも全くそん色ないタイムで周回できていたから、チームとしては「ライダーの判断に任せてよい」と考えたんでしょう。
宮城:とはいえ……かえすがえすも残念ですね……。マルケス選手はロレンソ選手を相手に余裕さえ感じさせる走りを見せていましたし、雨が降り始める前の、ペドロサ選手からマルケス選手への追い上げもすばらしかった。なにもなければ勝てていたレースでした。
中本:個人的には、無謀なことをしたという感じはしないし、責められるべき人というのはだれもいないと思う。でも、リビオ(スッポ チーム代表)はスタッフに対して「入れたらどうだ」ということを話していたようです。
「入れたらどうだ」じゃなくて、「入れろ」「入れなくていい」で伝えるのが「指揮官」としての役目だったと思います。
宮城:そのあたりの考え方を、中本さんから伝承していくのが、また一歩、強いチームへと成長するためのカギかもしれませんね。

マルケスのミスから転倒に繋がったサンマリノGP

宮城:つらいレースの話ばかりして申し訳ないんですけどね。
中本:はい(笑)。
宮城:マルケス選手がミスから転倒してしまったサンマリノGPも残念でしたね。国際映像では、ロッシ選手とのバトルの中で、オーバースピードで進入し、ブレーキングを遅らせるのを失敗してしまったように見えました。
中本:映像ではそう見えるかもしれないんだけど、実は逆ですね。これはデータからもはっきりしているんだけど、それまでのアベレージに比べても5mほど手前から減速しているし、車速自体もすごく落ちていた。
宮城:ほう。
中本:ご存じの通り、彼の走りはものすごくフロントタイヤへの負荷が高くて、オーバーヒートしやすいよね。だから、レースの最後までタイヤを保たせるために少しペースを落として、終盤に勝負を仕掛ける作戦に変えた。そうしたら、スピードが落ちてしまったことでマシンが思っていたよりもインを向き、コースの白線に乗ってしまったと。
宮城:彼はいつも白線とかゼブラ(縁石)とかをフル活用しますけどね。ミサノの白線は「使える白線」じゃなかったわけだ。
中本:そのへんを、マルクはプラクティスでいつも確認しているので、彼のミス。そして、転び方はすごくスピードが落ちているときのそれでしたね。
宮城:なるほど、映像だけでは分からないことがありますね……。僕が間違ったことを言ったら、すぐに携帯電話にメッセージを送ってくださいよ(笑)!
中本:解説者は大変だね(笑)。まあ、いろいろなことがあるけど、これがレースなんだよね。単純に速い人が勝ちます、というなら予選だけでいい。決勝レースはいらない。そうならないから、レースは面白い。
宮城:まさにそうですよね。周回することでヒューマンエラーも起こりうるし、燃料やタイヤが減ってマシンの挙動も変わってくる。そこに合わせ込む人間のテクニックや、技術的な工夫がレースを面白くするわけですから。

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