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vol.2 Honda MotoGP 2013シーズン分析 トップへ

フィジカルの強さはどのように生み出されるのか

バイク乗りなら、そのメカニズムが気になって仕方ないであろう華麗なドリフトを見せ、マシンの挙動が乱れても、瞬時に的確な入力を与えてリカバリーする。さらには、天候の変化によりマシンを乗り換える「フラッグ・トゥ・フラッグ」では、ほかのライダーのアクションがゆっくり見えるほどの素早さで、マシンからマシンへと飛び移る。マルク・マルケスがレース中に見せるアクションは、そのひとつひとつがいちいち印象的だし、タフなレース展開でも決してへこたれないフィジカル面の強さが見て取れる。
MotoGPファンの方に今更伝える必要もないことではあるが、モータースポーツは、純然たる「スポーツ」である。彼のフィジカルの強さには、どんな秘密が隠されているのだろうか。


宮城:マルケスの「フィジカル」ってものすごいんじゃないですか。どんなトレーニングをしているんでしょう。
中本:もちろん、ほかのライダーがやっているようなトレーニングは同じようにしているんだろうけど、彼の一番の特徴は「バイクに毎日乗る」ことだと思うね。
宮城:ほう!!中本さん、これは僕もずーっと思っていたことなんですけど、モータースポーツのプロプレイヤーって、あまりにも「実際の道具」で練習をする時間が短いんじゃないか、って。多くの人は、「クルマに乗ること以外」で、トレーニングをしようとしますよね。
中本:そうだよね。
宮城:でもね、もしこれが音楽だったら、もちろんほかの方法で表現方法を高めることもするでしょうけど、一日に何時間も、自分の楽器で練習をしますよね。
バレーだって、サッカーだって、走り込みや筋力トレーニングもするだろうけど、ボールを使って、実際の競技を何時間もやりますよね。
中本:モトクロスだったり、ダートトラックだったり、マルクが「実際の競技」にこだわる理由は、「バイクに乗るときに必要な筋力、筋肉の持久力」を付けることを重要視しているからですね。
宮城:うーん、すばらしい……。
中本:マルクは、自慢げにその写真を見せてくれるんだけど、あいつは、子どもの頃にモトクロスをやっていたこともあって、トップライダーしか飛べないような三連ジャンプをさらっと飛んでしまうらしいんだよね。
契約書上は「モトクロスのトレーニングはかまわないが、ジャンプをしてはならない」ってことになっているから、「あっ、契約違反だ!!今月、お前には給料を払わない!!」って言ってやったんだけど(笑)。
宮城:ケガされたらたまりませんからね!そういえば、カタルニアのあと、グランドスタンド前でサッカーボールを蹴りましたね。サッカーの方のテクニックはどうなんでしょう。
中本:サッカーは……まあ、並かな。120kmのレースを終えたあと、レーシングスーツ着て蹴ったにしては上手だったけど(笑)。あいつなら、サッカーをやっていても、一流の選手になれたかもしれないな、という気はするよね。そのくらい、マルクの運動神経はハイレベルなものがありますよ。

マルケスの強さを背後で支える要素

私の現役時代は、「人」にとても恵まれたと思っている。そんな私でも、今のHonda勢ライダーたちを見ていると、うらやましくなってしまう。
ライダーは、まず、自らのために速く走ろうとする存在だ。しかし、「この人のためにもがんばろう」と考えたとき、また一段上の能力を発揮できるというのも確か。エンジニアとメカニックがいいマシンをつくり、ライダーがそれを速く走らせる。マネージメント陣も、ライダーのパフォーマンスを引き出せるように努力をする。
マルケスのライディングテクニックやフィジカルはもちろん優れているのだが、その強さを支えるものについても、注目をするべきだろう。


宮城:中本さん、かならずレース前にライダーの所に行って、なにか話をしているじゃないですか。
中本:マルクとは、いつもバカ話をしているね(笑)。でも、特に重要視しているのは、予選の前ですね。テンションが上がりきったまま走り出すと、冷静さを失ってしまうことがあるから、一度バカな話でもしてテンションを下げて、コースの上で一段高いレベルで集中できるようにしてやろうと。いつもネタを考えてるの。今回はなにで笑わせてやろうか、って。
宮城:走り出す前をどう過ごすかっていうのは、ライダーにとって大切ですからね。
中本:ありがたいことに、マルクもこの時間は大切にしてくれているみたいだね。いつも、スタート直前に「じゃあ、ポディウムで会おう」って言って別れるんだけど、今回のアッセンは「こういうコンディションだから、抑えて走ろうな」といった「実務的」な話だけをしてグリッドを離れようとしたんだよね。そしたら、「中本!いつものを忘れてるぞ!」って。
宮城:彼もゲンを担いでいるわけだ。それにしても、マルク・マルケスに対抗できるライダーは現れるんでしょうか。現状では、ペドロサ、ロッシ、ロレンソの3人だけでしょうが……。Moto3のアレックス・マルケスは、まだですかね。
中本:うん、まだだな。もう少し時間がかかるでしょう。でも、アレックス・マルケスと、アレックス・リンスの「ダブルアレックス」には、Moto3のチャンピオンを取ったら、MotoGPのテストをさせてやる、って言ってあるんだよ。
宮城:それはやる気が出るでしょうね!このあとMoto2にステップアップするにしても、その先の目標とするものが、はっきりした形で自分の中に存在するのは、すばらしいことだと思いますよ。
中本:アレックス(・マルケス)には「お兄ちゃんがRepsol Honda Teamでお前を待っているぞ」っていつも話しているね。「その代わり、契約金は家族割引にしてくれ」って!
宮城:前代未聞ですね、それは(笑)。


さあ、マルク・マルケスの連勝記録はどこまで伸びるのか。1971年にジャコモ・アゴスチーニが記録した8連勝という記録に追いついたマルケスの次なる目標は、1997年にミック・ドゥーハンが記録した10連勝、そして2001年、2002年、2005年と3回にわたってバレンティーノ・ロッシが記録した「年間11勝」だろうか。
これまでのグランプリの歴史で打ち立てられてきた数々の記録が、この21歳の若者によって次々に塗り替えられていく。この驚くべきシーズンから、ぜひ目を離さずにいていただきたい。

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