開発ファクトリー潜入[エンジン]

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そのエキゾーストパイプ、市販車のそれと少々様子が異なることにお気づきだろうか。市販車の滑らかなエキゾーストパイプに比べて、継ぎ接ぎのようである。それは、製法が異なるからだ。

「こういうパーツを丸めてですね、ひとつひとつを組み合わせてつくるんですよ」と、佐藤さんが見せてくれたのは、チタン製の薄くて小さな板だ。そして、両手で持って、ぐーっと曲げていく……そのままパキンと折れてしまいそうで、思わず「危ない!」と声を出してしまったが、当然そんなことはなかった。慌て顔の私たちを見て、佐藤さんは笑った。
「チタンは、市販車に用いられるスチールやステンレスに比べて軽いのが特長です。ただ、扱いが難しい金属なんですよね。このように、決められた方向にしか曲げることはできないし、パイプにして曲げていくには固すぎます。カミソリの刃を思い浮かべていただくとわかりやすいかもしれません。それで、こうした小さな板を一枚一枚丸めて輪にして、それをつなぎ合わせていくしかないのです」

そんなにいいものなら、ぜひ自分たちのバイクにも取り付けてみたいものだが、同じくらいの性能のものを実現しようと思えば、相当な出費を覚悟しなくてはならない。
「走り方が違うとは言え、距離で言えば東京から大阪まで行って帰ってきたら、もう交換ですね。これでも少しは寿命が長くなった方です」
レースで使えるエキゾーストパイプの「寿命」はエンジンよりも短いのだ。
レーシングマシンがいかに過酷な環境で使われているのかが、よくわかる。こうした中で目立ったトラブルなくシーズンを戦い抜き、さらに勝利を重ねているところから、RC-Vシリーズの高い品質が垣間見えると言えるだろう。

どんなに手間がかかっても、
ライダーに悔しい思いをさせたくない

今から20年以上も前のレーシングマシン──たとえば、NSR500など──を思い出してみると、これを乗りこなすにはライダー自身をアジャストする必要があった。もちろん、ペダルやレバーのような物はライダー専用に作ってくれるが、他にはせいぜいシート位置くらいしか合わせようがなかったものだ。
身体の大きなライダーは、コーナリングで積極的に荷重をかけていくことができ、バイクのコントロールの面で有利な反面、空気抵抗が大きくなってストレートでは不利になってしまう。身体が小さければ、その逆である。これをいかに克服するかをライダーは考え、ときには自らのライディングスタイルを変える必要もあったのである。ところが、時代は進んだ。
中田さんは話す。
「現在は、少なくとも身体の大きさで有利・不利が生まれないよう、スクリーンの形状を工夫するなどして、全ライダーで同等のプロテクション性能を実現させています。もちろん、ものすごく手間がかかりますが、『それをしなかったがためにストレートで競り負けた』というようなシーンを見たくありませんし、ライダーにそんな思いをさせたくありません。ライダー全員を風洞実験室に入れて、最適な形状を導き出します」
その気になれば、ライダーひとりひとりに合わせた外装を作りかねないほどの、力の入れようだ。これからは、MotoGPの解説でも「身体が大きいライダーは、ストレートで不利になる」などと言わないように気をつけなくてはならない……。

RC-Vシリーズの歴史の中でも、初代RC211Vは『新時代のレーシングマシン』としての存在感をレースファン、モーターサイクルファンに示すため、市販車のようなスタイリングの要素も取り入れていたという。
その後、RC212Vにモデルチェンジしたときからは、そのイメージを受け継ぎつつも新たに『完全に機能に則ったデザイン』へとチャレンジの軸足を移した。
RC-Vは『スタイリッシュ』とは言えないかもしれない。だが、これこそが『誰よりも速く走りたい』というライダーの気持ちが、結晶した造形だということは、確かに言えるだろう。レースをご覧になるときには、ぜひそんなところにも注目してみていただきたいものだ。

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車体担当 佐藤

テールカウルの中でとぐろを巻くエキゾーストパイプ。それをつり下げるステーの形状も、2ストローク500ccのレーサーなどはただのアルミの板だったが、これはしっかりとかたちを考え抜かれている。

それと隣り合うように、DORNAのカメラユニットを収めるスペースがある。カメラは熱に弱いため、きちんと冷却が考えられている。

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