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team HRC現場レポート

Vol.02

決してあきらめないー高橋巧の心の強さ

開幕戦からわずか一週間のインターバルを挟んで、全日本ロードレース選手権の第2戦が行われました。開幕戦では、歓喜と落胆、2つの気持ちを味わった新生Team HRCは、早くもチャンピンシップへの反撃を開始。2017年から18年、そして開幕から第2戦への短い期間で、ライダーが大きな進化を見せたレースとなりました。

高橋巧

変化してきたマシン進化のプロセス

「後ろから中須賀選手が来るのは分かっていました。一度抜かれてからも、あきらめなかった。あきらめたくなかったんです」

そう語るのは、高橋巧。2018年、ほぼ10年ぶりに復活したHondaワークスチーム、Team HRCのエースに指名されたライダーだ。

高橋は2004年、14歳で全日本ロードレース選手権にデビューを果たした。クラスはGP125クラス。Hondaのトッププライベートチームであるハルクプロからの参戦だった。その後、GP125からGP250クラスにステップアップし、チームも移籍して08年にはGP250チャンピオンを獲得。翌09年から、現在も参戦を続けているJSB1000クラスへのエントリーを開始している。

高橋巧(以下、高橋)「JSBクラスの2年目からも、ずっとハルクプロさんにお世話になってきました。Honda系のトップチームで、鈴鹿8耐も3回勝ったし、2017年にはJSB1000のチャンピオンにもなれました。そんなときに、Team HRC再スタートの話を聞いて、そのライダーとして指名していただいたんです」

Team HRCがエースライダーとして高橋を指名したのは当然の流れだった。Hondaのエースであり、日本ロードレースのトップカテゴリー、JSB1000クラスのチャンピオンだからだ。新生Team HRCが最強チーム復活を目指すのに、高橋は必要なパズルのピースだった。

宇川徹(以下、宇川)「ワークスチームのライダーに(高橋)巧を指名したのは当然です。巧ももう28歳。育成すべきライダーや、育てていくようなレベルの選手じゃない。押しも押されもせぬ、日本のトップライダーですからね」

と語るのは、Team HRCの監督に就任した宇川徹。宇川と高橋は、2016年に鈴鹿8耐用のマシン開発を共にした仲だ。

高橋とTeam HRCが仕事をスタートさせたのは、2018年1月下旬のマレーシア・テストだった。ただし、高橋がHRCのスタッフと仕事をするのは、これが初めてではない。高橋が17年まで所属していたハルクプロでも、HRCのスタッフがサポートとして現場に顔を出すことはあったし、マシン開発という点でもHRCは、高橋やほかのHondaライダーのコメントやインプレッションを参考に開発を進めてきた。しかし、その点が18年は大きく違う、と高橋は言う。

高橋「マシンの開発がすごくスムーズになりました。これまで、僕は数多くのHondaライダーの一人として、所属するチームを通じてマシンに対する意見を言う立場だったし、僕が言ったコメントをチームが解釈して、それがHondaに伝わって、朝霞研究所やHRCのスタッフの意見も加味してマシンが進化する――そういう段階を踏んでいた。それが、今年はダイレクトにチーム内で発言することが、そのままHRCに伝わる。すごくダイレクトな分、間違ったことは言えないし、助けてくれる人もいない厳しい立場ですが、それがワークスライダーなんだと思うんです」

開幕戦を終え、再びニューマシンの2018年型CBR1000RRWに乗り込んだ高橋に、マシンへの要望は少なくなかった。もちろん、シーズンオフのトレーニング中に左手甲を骨折し、シーズンオフにマシンに乗り込む時間のなかった高橋にとっては、ほとんど初乗りの2018年型モデル。本来ならば、シーズンオフのうちに片づけておきたいマシン修正や、改善点の洗い出し項目を伝えることができた、ということだ。

高橋「もてぎの開幕戦から鈴鹿にかけては、そんなに時間がないこともあって、パーツを交換したり、大きく仕様を変えるということはできませんでした。でも、もてぎのあとに鈴鹿で1回テストをできたことで、よりマシンを理解することもできたし、修正したい方向性もはっきりしました。鈴鹿を走るのは昨年の最終戦以来だったんですが、タイムは出なくても、いいリズムで走れたんです」


やられたら、今年はやり返せる

第2戦のレースウイークを前に、金曜日からスタートした事前走行。2回に分けて行われた走行で、高橋は2回目の走行でトップタイムをマークし、総合2番手へ。2分06秒316というタイムは、自身が16年の最終戦で出した自己ベストタイムに、わずか0秒42差に迫る好タイムだった。もっともこのベストタイムは、レーシングマシン専用と言われていた16.5インチタイヤ装着時でしかもシーズン最終戦という、マシンが最も仕上がった状況でのタイム。市販サイズである17インチタイヤ、しかもシーズン開幕直後でまだまだマシンも手探りの状況の今回のタイムとは、比較対象にはならないものだ。

しかし高橋は公式予選で、そのタイムを超えてみせる。セッション終盤で出した予選タイムは2分05秒696。ポールポジションこそ、ライバルチームの中須賀克行選手(ヤマハ)に譲ってしまったが、文句なく自己ベスト更新だ。さらに、2レース制で行われる第2戦の予選システムとして、自分のベストタイムでレース1のグリッドを決め、セカンドベストタイムでレース2のグリッドを決めることになっていたが、このセカンドベストタイムも2番手。2レースを、フロントロー2番グリッドからスタートすることになった。

高橋「中須賀選手が04秒台に入れたのはスゴい。けれど、僕のタイムも自己ベストで、なかなかクリアラップが取れない中(注:アタックラップ中にコースが混雑してタイムロスすること)でのタイムだったので、いい調子かなと思います」

土曜日に行われた決勝レース1では、高橋は開幕戦のレース1と同じく、ホールショットを奪う好スタートを決める。しかし、すぐに渡辺一馬選手(カワサキ)、中須賀選手にかわされ、3番手で周回を消化。レースは、この3人がやや集団を抜け出してのトップ争いとなる。

そのまま順位の変動はしばらくなかったが、レース終盤、渡辺選手に続いて2番手を走っていた中須賀選手のスパートとともに、高橋が動いた。中須賀選手がトップに出ると、すぐに高橋も2番手へ上がり、この2人が3番手以下を引き離して一騎打ちを展開する。

高橋「中須賀さんが前に出たタイミングで僕もついていこうとしたんですが、慌ててしまってシフトミスがあったり、周回遅れに引っかかったりで、そのまま離されてしまいました。明日のレース2も同じような展開になると思うので、スパートするタイミングを間違えないようにしないと」

そして日曜のレース2では、今度は高橋がレース全体を引っ張るペースを見せる。スタートからある程度のペースを作っておけば、トップ争いの台数が限られ、レースもしやすくなる、という読み。つまり、開幕から3レース連続で優勝している中須賀選手のことを意識した戦略だと言っていい。

オープニングラップでは一度、渡辺選手に前に出られたものの、レースを自分がリードするという強い気持ちで、すぐに次のコーナーで逆転。1周目からトップをひた走った。後方には中須賀選手がつけ、この2台が3番手以下を引き離してトップ争いを展開した。トップグループとセカンドグループの差は、土曜のレース1よりも大きくなっていった。

逃げる高橋、追う中須賀選手の展開が続き、レースは残り3周へ。中須賀選手が2コーナーでトップに出ると、高橋は3コーナーですぐに逆転。その周のヘアピンで再び中須賀選手が前に出ると、バックストレートで高橋も再び逆転。逆転に次ぐ逆転で、鈴鹿サーキットがこの週末で最も沸いた瞬間だった。

しかしその次周、中須賀選手が高橋をパスし、逆転を狙った高橋は抜き返すことができず、そのまま2位でチェッカーを受けることになったのだ。

これで中須賀選手が開幕4連勝、高橋は開幕戦のレース2で、接触されたダメージの修復のためレース中にピットインし、再スタートしたもののノーポイントに終わったため、開幕戦のレース1、そして第2戦の両レースも2位と、これで2位が3回目となった。

悔しくないと言ったら嘘になる、と言う高橋の表情にはやりきった感が見え、どこか明るい表情にも感じられた。

高橋「中須賀さんに負けたことは悔しいですが、今日のレース2は昨日よりやり返すことができた実感があります。1回抜かれて、それを抜き返せたのは、それだけ戦えてるというか。昨年は、中須賀さんとあんな近くで一騎打ちしたこと、なかったんじゃないかな。前にいても抜かれて、そのまま逃げられちゃうことが多かった。その意味では、あと一歩。これを次のレースから詰めていきたいです」

開幕2戦目にして、予選タイムで自己ベストを更新し、ニューマシンにも慣れてきたという高橋。特に日曜のレース2では、中須賀選手と2分06秒台前半のトップ争いを展開し、ハイレベルで見応えのある戦いを披露した。昨年は2大会が開催されたオートポリスは、最初のレースはマシントラブルで落としたものの、2度目の開催では2位表彰台に上がった場所だ。

高橋「昨年はマシントラブルで落としましたが、オートポリスはすごく調子がよくて、いい走りができていたレースでした。中須賀さんが先行して、そこに追いついたくらいでトラブルが出てしまったので、そのリベンジがしたいです」

新チーム、ニューマシンという武器を手に、高橋の目はリベンジへと向かっている。