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全日本モトクロス2016 Team HRC現場レポート

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vol.36 成田の勝ちへの執念。能塚は序盤の輝きを取り戻せるか

vol.37 ポイントリーダーの座を守った成田と能塚。残る最終戦での走りに期待

シーズンの大詰めを迎えた全日本モトクロス選手権第8戦(10月2日・川越・オフロードヴィレッジ)におけるTeam HRCのレースリザルトは、成田亮選手(#1・CRF450RW)=IA1総合3位(5位/2位)、能塚智寛選手(#28・CRF250RW)=IA2総合4位(1位/5位)で、両クラスにおいてポイントリーダーの座を守りました。今回の現場レポートでは、Team HRCの河瀬英明チーフメカニックに第8戦を振り返っていただきます。

成田と能塚は2人ともモトクロス・オブ・ネイションズに参戦したため、2週連続のレースになりました。ネイションズでは日本代表として、今大会ではポイントリーダーとして、いずれもプレッシャーがかかる中でしたが、健闘してくれましたね。戦況的に成田は大量のアドバンテージを持っていましたが、能塚はランキング2位の岡野選手に前戦名阪で追い込まれてきたので、ここで突き放したい、再度リードを広げたいという大事なレースでした。

この時期の海外遠征に対しては、もちろん心配もありました。負傷する可能性だってゼロではありません。ただ地元で練習していても、ケガをするときはしますし、本人たちが受け身ではなくポジティブに参戦したいと望んだわけですから、チームとしては全面的にサポートしました。能塚には8月に参戦したスイスGP、そして先週のネイションズで何かに触発され、スピードに磨きをかけてほしいと思っていました。

今大会の事前テストは、ネイションズに出発する前に行ったんですが、成田にはコンディショニングを重視して休んでもらいました。そんなわけで課題は能塚のスタートに絞り、重点的に取り組みました。前回の川越(第2戦)では最後尾から全員抜きを見せた能塚ですが、あれはできすぎです。オフロードヴィレッジには狭く抜きにくいセクションが多いため、あのゴボウ抜きのイメージを一度リセットし、スタートの精度を上げることに集中しました。

スタートの改善については、ビデオや走行データから分析して助言をしています。エンジン回転数が高すぎる、あるいは低すぎる、駆動輪が滑っている、身体がブレている……、などの要素について、細かくアドバイスしてきました。マシンにはスタートモードが付いているので、エンジン特性などの微調整でカバーできる領域もあるんですが、最終的にはライダーの反射神経とテクニックが占める部分が大きい。ハードでカバーできないということではなく、逆にライダーの能力がすごいのだと考えるべきだと思います。

実は能塚のスタートにはバラつきがあって、ヒート1が良くてもヒート2で失敗したり、予選がダメだったのでヒート1に集中したらホールショットが取れたとか、そういうことを繰り返してきました。あまり揃ったことがないんです。神戸では予選落ちを喫して、シード権による2列目スタートでしたし……。

それからよくあるパターンとして、そこそこ好スタートを切れたのに、1コーナーで誰かと絡んで転倒するなど、競り合ったときに押すのか引くのか状況判断が甘いところがあります。開幕6連勝中も今も、能塚のスタートテクニックに差はありません。急にスタートが苦手になったわけではなく、集中力が少し散漫になってきただけという感じでしょうか。

能塚には成田という最高の手本がいますし、いろいろと学ぶところがあるはずです。テクニック面もそうですが、成田にはここぞというときに気持ちだけで勝つような力があります。一方の能塚は名阪で岡野選手にピンピン(ダブルウイン)を許すなど、対照的な弱さがあることも……。気持ちの差が結果に出たのかもしれません。

今回のオフロードヴィレッジでは、新しくできたS字の切り返しのライン取りについてアドバイスしました。リズムさえよければイン側を最短距離で結ぶのがベストラインですが、追いかける方はアウト側のバンクでスピードを乗せて仕掛けられますから、どちらも悪くなかった。しかもイン側にはワダチができて荒れてきたので、ベストラインにこだわらず臨機応変に変える柔軟性が必要でした。その点は能塚自身もよくわかっていて、いろいろ試していました。

ネイションズから帰国した2人を迎えるチーム態勢は、いつもと変わりありませんでした。迎えると言ってもメカニックとトレーナーはイタリアに帯同していたので、むしろ通常よりも長く接していたんじゃないでしょうか。成田が転倒で肩を打撲して帰ってきたのが気がかりでしたが、土曜の公式練習後に確認すると、身体が温まっていれば大丈夫だということでした。

チームとしては成田にピンピンも期待していました。ケガしていたからあきらめていたわけではなくて、狭いコースなのでホールショットを取れれば気持ちで逃げきれる可能性もあるだろうと。ただしこのコースを得意としている新井選手、復帰してきた平田選手の存在があり、もちろんマークしていました。

練習、予選と調子を上げてきた成田ですが、ヒート1ではスタートで出遅れ、追い上げを強いられる展開となりました。決して悪くはなかったんですが、ゲートから動き出すところで田中教世選手がわずかに先行し、ストレートの中間付近で左右から挟まれてしまいました。

ヒート2ではスタート2番手だった成田ですが、新井選手にホールショットから1〜2周でリードを広げられたため、状況から判断をしたのでしょう。実は成田も川越には強く、高い勝率を誇っていますが、今回に限っては好スタートを切った新井選手に両ヒートとも逃げられてしまいました。途中でコースアウトしたことも、独走を許す要因になりました。私はピットにいたので見ていないんですが、レース後に成田から「やむを得ずコースアウトした形になったので、クレームを受けないようにペースダウンしました」と聞きました。

ケガをしていながらもタレることなく、しぶとく踏ん張っていたので、ヒート2の2位入賞は立派だと思います。シリーズの戦い方としては、全ヒート優勝をしなくてもいいわけですが、成田本人は息子の誕生日に表彰台の中央に立たせてあげたくて、何が何でも勝ちたいこだわりもあったようです。

成田のポイントリードは、ヒート1終了時点で38点、ヒート2終了時点では35点。最終戦でのボーナスポイントを含めた、1ヒート30点(25+5)以上のマージンを確保しているので、リスクマネージメント的には十分な成績でした。

IA2クラスでは、能塚に緊張した素振りもなく、普段通りのレースができたと思います。内心ドキドキしているのかもしれませんが、ナーバスではなかったですね。マイペースなところは、周囲に惑わされない長所でもあるのかもしれません。まずは土曜の予選A組をトップで通過しましたが、B組の渡辺祐介選手のタイムに負けていたので、その差をどうやって詰めるか分析しました。

ヒート1では能塚がラッキーな1勝を挙げました。渡辺選手が速くて逃げられそうになったのですが、ミスに助けられた勝利です。ライバルに何かがあったとき、レースをものにできる位置につけていたという点は評価できると思います。

ヒート2ではスタートは悪くなかったものの、5〜6番手で入った1コーナーで他車と接触したりでエンスト。復帰ポジションは18番手あたりでした。追い上げの途中でライバルの岡野選手を抜いたところ、彼にもスイッチが入って追撃されましたが、振りきることができました。

能塚は目標を高く持ってポジションをアップしたのですが、さすがに抜きにくいコースで苦戦しましたね。ただコーナーは狭いですが、フープスには幅があったので何本かラインがありました。スピードの乗るセクションは得意なので、フープスは能塚のパッシングポイントになっていました。ヒート2の5位というリザルトは地味ですが、岡野選手に対するリードを22ポイントに広げることができたので、その点では上出来だったと思います。

今大会のレース後は、2人ともすっきりしてはいませんでしたね。成田にはここでピンピンを決めれば、通算150勝達成というテーマもありましたし、いつものように勝ちにいっていました。能塚はヒート1で勝ってはいますが、それだけでは満足していないということでしょう。

でも、2人とも切り替えはできているはずです。最終戦菅生は成田にとって地元ですし、V11タイトル決定と同時に外国人ライダーとの対決も楽しみにしているでしょう。ポイントを守るような消極的な走りではなく、世界やアメリカのトップランカーに食らいつく成田らしいレースが期待できそうです。能塚にとっては初タイトルがかかる最終戦ですが、持ち前のマイペースを武器に本領を発揮してくれるでしょう。