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全日本モトクロス2016 Team HRC現場レポート

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vol.36 成田の勝ちへの執念。能塚は序盤の輝きを取り戻せるか

vol.36 成田の勝ちへの執念。能塚は序盤の輝きを取り戻せるか

全日本モトクロス第7戦(9月11日・奈良・名阪スポーツランド)にて、Team HRCは両クラス首位を維持する成果を収めました。リザルトは、成田亮選手(#982・CRF450RW)=IA1完全優勝(優勝/優勝)、能塚智寛選手(#28・CRF250RW)=IA2総合2位(3位/3位)。今回の現場レポートでは、Team HRCの勝谷武史コーチに第7戦を振り返っていただきます。

インターバル明けの一戦ということで、名阪は非常に重要なレースでした。夏休みの間、成田は北海道で乗り込み、能塚はスイスGPに遠征、僕は国内でテストと分散していたからか、コーチらしい仕事はあまりしていません。さらに8月後半に鎖骨を折ってしまったので、名阪の事前テストは欠席させてもらいました。それでも成田の体力測定結果などを聞いて、順調そうだなと思っていました。

今回の名阪は、コースコンディションがすごく難しかったと思います。何日か前に雨が降った影響なのか、路面が掘れてサンドの下からロックが顔を出すほどでした。土曜の予選で前の方を走っていた成田が、終盤になって急にペースダウンしたのは、体調でもマシントラブルでもなく、本人が危ないと判断して落としたからです。グリップが急に変わる路面でおかしな挙動をしていたので、様子を見るためにペース落としました。

そんなこともあって予選は4番手にとどまったので、セッティングを見直そうとチームが一丸となって取り組みました。サスペンションやタイヤに関しては、それぞれ担当者と相談しているようでしたが、僕はそれよりもエンジン特性が気になっていて、少し乗りやすい方向にマップを変えてみたらと提案しました。

コースは概ねフカフカのサンドでしたが、路面の下が硬かったので、パワー感を少し抑えてマイルドにした方が、トラクションが向上するのではないか…。チームの方針としては、あまり大きく変えたくないようでしたが、一度振ってみてダメだったら戻せばいいとアドバイスしたのです。日曜の朝のプラクティスで試したみたら感触は悪くなかったので、決勝でもマイルドなセッティングを採用しました。

やはり思いきり開けつつ、自在なライン取りでリズムを作るのが成田の長所なので、滑り方がつかめるとよさが出せます。ただし荒れているところは無理をせず、慎重さを忘れないでほしいと念を押しました。

レース中の担当は観客席から谷の方を受け持っていたので、ほかのセクションの走りは生で見ていませんが、成田はライン取りがよかった。奥の低いところから上がって来るダブルを飛んだ後、右から左、左と続くコーナーで、アウトを多用してスピードを落とさずに回っていました。ずっとワイドオープンだったわけではなく、時にはオンオフを切り替えアウトで向きを変えることもありました。

上から観察していたのですが、あんなに狭いところで終始スピードを落とさずに走れていたのは、成田だけでした。ヒート1のライン取りがよかったので、ヒート2でも同じように走ってほしいと伝えました。2番ポスト付近からその先の成田のラインは、ヒート2では小島庸平選手(スズキ)や田中教世選手(カワサキ)にコピーされていましたが、それでもこらえて勝ったところが成田の強さですね。

ヒート2の終盤で田中選手に迫られたときは、残り5〜6周ぐらいだったので、成田なら耐えられるだろうと信じていました。セーフティリードがあったのに追い付かれたのは、どこかでミスをしたようです。1コーナーから観客席前の左コーナーでは、田中選手に並ばれて必死にブロックしていましたが、あそこはもう勝利に対する執念しかないでしょう。

もしあの局面で田中選手が前に出ていたら、気持ちが折れてグダグダになってしまうところでした。成田にとっては悪い負けパターンですが、今回はそういったネガティブなかたちに陥らず、気持ちを出してくれました。田中選手に競り勝った後、タイム的に落ちていることは確かですが、最後は距離を測りながら逃げきりました。田中選手に追い詰められ、一時はどうなることかと思いましたが、耐えてあのような勝ち方ができたのは収穫。久々のピンピンです。勝ちにこだわった、実に成田らしいレースでした。

IA2クラスでは、能塚のことが心配でした。顔はポッチャリしているし、体重も増えているし、夏休みの間のトレーニング不足が一目瞭然だったからです。スイスGPには2週間ぐらい行っていたから、本番とネイションズの予習も含めていい経験になったかもしれませんが、移動日などなにもできない日も計算に入れると練習不足なのは明らかです。プラスがあってもマイナスによって相殺されてしまった面があるかもしれません。

スイスGPにおける能塚は、23位/21位にとどまり、目標としていたポイント獲得はなりませんでした。タイム的にもトップから6〜7秒落ちで、レベルの差を痛感したことでしょう。スイスGPに参戦した意義は単なるリザルトではなく、その経験を生かせるかどうかに関わってくると思います。

名阪の予選ではA組1番手だった能塚ですが、B組には岡野聖選手(ヤマハ)、渡辺祐介選手(ヤマハ)、田中雅己選手(Honda)らが片寄っていたので、組み分けに助けられた面もあるかもしれません。実際にA組1番手だった能塚のレースタイムは13分18秒699、B組1番手だった岡野選手は13分11秒256でした。序盤は速かった能塚ですが、スローダウンしたのは腕アガリだったようです。

決勝では両ヒートともスタートに失敗し、ヒート1では1周目13番手、ヒート2では7番手と出遅れました。そこから途中までのばん回は早かったんですが、このままのペースで行くのかなと思ったら、3〜4番手辺りで停滞してしまいました。結果的には3位/3位でしたが、ヒート1ではトップの渡辺選手がトラブルでリタイアしたことを考えると、実力で表彰台に立てたと見なすことはできません。

今シーズンを振り返ってみると、能塚は開幕6連勝と順風満帆でしたが、その後第4戦菅生からは、22位/3位、3位/3位、優勝/3位、3位/3位とトーンダウンしています。その間に岡野選手が6勝を挙げていますが、能塚に3位が多いのは毎レース2人に負けているからです。シーズンオフに行ったアメリカ合宿で蓄えた貯金を、序盤の3戦で使い果たしてしまったのかもしれません。

シーズン中はどうしてもトレーニングに専念できないものですが、オフの貯金が枯渇したのなら少しずつネジを巻き直さないといけません。そのために夏休みは打って付けだったはずですが、準備不足なのは否めません。僕がケガしていなければ、もっと一緒に練習できていたかもしれないですが、それが要因のすべてなのかどうかわかりません。

今大会ではIA1/IA2ともにポイントランキング首位を死守しましたが、成田は第2戦川越以来となる、久々のパーフェクトウイン。能塚の方は3位/3位で、岡野選手に11点差まで迫られる状況になりました。成田のことは心配ありませんが、能塚に関しては危機的状況です。アドバイザーとして言えることは、今からトレーニングしても手遅れだし、ネイションズに遠征しても急に速くなるわけではありません。本人が自覚してひたすら乗り込むしかない。能塚がチャンピオンになれるかどうか、これから1カ月が大事な時期になります。