モータースポーツ > 全日本モトクロス選手権 > 全日本モトクロス2016 Team HRC現場レポート > vol.35 両クラスともにヒート優勝。夏休みには能塚が世界を知りにスイスへ

全日本モトクロス2016 Team HRC現場レポート

HRC
  • HRC
  • HRC
  • HRC
vol.35 両クラスともにヒート優勝。夏休みには能塚が世界を知りにスイスへ

vol.35 両クラスともにヒート優勝。夏休みには能塚が世界を知りにスイスへ

全日本モトクロス第6戦(7月24日(日)・岩手・藤沢スポーツランド)におけるTeam HRCのリザルトは、成田亮選手(#982・CRF450RW)=IA1総合7位(17位/優勝)、能塚智寛選手(#28・CRF250RW)=IA2総合2位(優勝/3位)でした。今回の現場レポートでは、Team HRCの芹沢直樹監督に第6戦を振り返っていただきます。

藤沢はなんとしてでも勝ちたいレースでした。前戦(神戸空港島特設コース)で両クラスとも勝ち星がなかったこと、このあとに1カ月半のインターバルを控えていること、昨年ここで成田がノーポイントだったことなどがその理由です。

藤沢は日本国内でも有数の本格的なコースで、外国人ライダーからも評価が高い。広くてアップダウンに富むレイアウトと、ギャップだらけのサンド路面によって、ライダーだけでなくマシンの真価も問われる厳しいコースです。それだけに、ここで勝つことには特別な意味があるのです。

チームとしては通常の事前テスト以外にも、現地で練習する機会を設けました。事前テストでは常に新しいアイテムを持ち込み、性能を検証したりするのですが、今回はそれに加えて純粋に走り込む時間を増やしました。成田のマシンはプロトタイプなので、練習車がありません。そのため、HRCのスタッフが立ち会わないと、成田は本番同様のマシンでの練習ができないのです。能塚の場合は自宅のそばに練習相手がいません。そんな状況を打開するためにも、今回は藤沢で走る時間をチームとして多く取ったということです。

藤沢でのレースは毎年7月に開催されるため、気温や湿度の高さも過酷ですが、特別な暑さ対策はやっていません。ただ、神戸ではフィジカル的にきつかったようなので、藤沢に備えてメニューを見直しました。トレーナーには、体力作りというよりは回復に重点を置いたメニューを用意してもらい、ライダーには普段から当日に至るまで実行させました。

IA1クラスのヒート1では、成田が1コーナーの多重クラッシュに巻き込まれました。これは予想外のことです。もちろんモトクロスに転倒はつきものですし、常に想定はしているのですが、昨年から今年にかけて、成田は全く転倒していなかったので、我々としてもイメージが薄れていたというのが正直なところです。そのため少々慌てた面があったことは否めません。

転倒の際にエキゾーストパイプのヘッダーが裂けてしまったので、交換のためにピットインしました。その際、エキゾーストパイプの装着が不完全だったようなので、再度ピットに入りました。作戦の立て直しという面でも想定外でしたが、1度目のピットインの時点でラップされてしまったので、1ポイントでも取りにいく方針に切り替えました。チームとしては、もっと迅速に対応できていれば、もう少し順位を上げられたかもしれないという思いはあります。いずれにしても、本人にケガがないことがなによりです。1コーナーで転倒に巻き込まれたことに関しては、成田も自分のミスということで納得していました。不可抗力なんですが、転倒車の後ろにいた自分が悪いということです。意外と冷静でしたね。

ヒート1は2周遅れの17位となりましたが、引きずることなく切り替えて、ヒート2では見事な勝利を収めました。新井(宏彰)選手(カワサキ)が好調なことは分かっていたので、スタートよく飛び出して2周目にパス。成田が早めに勝負したのは、前に出たら絶対に負けないという自信があったからでしょうね。

IA2の能塚に関しては、とても心配していました。なにしろ開幕6連勝後の4連敗でしたから、今回は最低でもどちらかのヒートで勝利してほしいと願っていました。その目標を達成できたことと、今までにないパターンで勝てたことは大きかったです。

これまでは、スタートから逃げるにしても後方から追い上げるにしても、圧倒的な勝ち方をしてきたんですが、今回のヒート1は、競り合って苦戦しながらの勝利。古賀(太基)選手(N.R.T.)に先行され、抜いても抜き返され、渡辺(祐介)選手(ヤマハ)にもかわされて最後に攻略できた。あの位置でうまく処理できないときは、自滅するのが悪いパターンでしたが、そこから脱却できたのが収穫でした。

ヒート2はスタートで出遅れてしまい、追い上げるも3位どまり。表彰台に届いたのはよかったんですが、やはりスタートが決まらないと駄目だということを思い知らされました。今後の対策としては、ハードとテクニックの両面で、スタートに磨きをかけるつもりです。例えば、コースに応じてスタートモードの設定を微調整しているんですが、藤沢ではサンド用にアジャストしたのがヒート1で決まった。ヒート2はスタートの出足は悪くなかったものの、1コーナーの駆け引きで判断が甘かった。その辺りはハードだけではカバーできないものです。

最近は、第2戦川越(オフロードヴィレッジ)で能塚が披露してくれたような、神がかり的な追い上げがみられません。開幕当初はアメリカ合宿の勢いのまま無心で走っていましたが、6連勝したあとは周囲に合わせてしまったようなところがあります。欲や計算などからか、雑念があるような気がします。後ろが気になったり、追いつけないと焦ったり、当然、チャンピオンタイトルが現実味を帯びていたりするんでしょうね。もう一度無心に戻ってもらうためには、視点を遠くに設定する必要があるので、夏休みの間にモトクロス世界選手権(MXGP)の第15戦スイス大会にスポット参戦することにしました。以前から計画していたことですが、決定は藤沢のレース前にしました。もちろん現在ポイントリーダーですから、負傷のリスクは怖いですが、国内で練習しているだけでは劇的な成長はあまり期待できないと判断したんです。

海外遠征は能塚本人の希望でもあったし、チームとしても大賛成。昨年の富田(俊樹)のように、AMAナショナルに出場する道もありましたが、いろいろと比較検討した上でMXGPを選択しました。今のAMAナショナルは、土曜日のみにスケジュールを凝縮したワンデイ開催になっていて、朝からいきなりタイムアタックで上位に入らないと決勝に進めません。その点、MXGPは土曜日にフリープラクティス20分、タイムドプラクティス20分、予選レース20分プラス2周、日曜日にウォームアップ15分、決勝30分プラス2周が2レースというタイムスケジュールなので、練習、予選、決勝と徐々に上げていけるのです。

能塚のスポット参戦が具体化した裏には、ラッキーな巡り合わせもありました。Team Honda Gariboldi RacingのMX2クラスのライダーに欠員が出たので、チームが持っているエントリー枠を使えるわけです。日程的にはその前のベルギー大会にも出場できたんですが、いきなり世界一過酷なディープサンドと言われるロンメル(ベルギー大会の開催地)は厳しいので、参戦はスイス大会に絞りました。スイス大会が開催されるのは2001年以来、15年ぶりなので、現役ライダーはだれも走ったことがないんじゃないでしょうか。GPライダーのアドバンテージが一番少なそうなラウンドが、スイス大会というわけです。能塚の目標としては、Team Honda Gariboldi Racingから参戦しているホルヘ・ザラゴザ(CRF250RW)に勝つこと。具体的には10〜15位辺りでしょうか。

藤沢のまとめですが、成田も能塚も1ヒートずつ勝ちながら総合優勝を逃しているので、満足とは言えません。なんとか乗りきったという感じでしょうか。あとは後半戦に向けての課題がはっきりしたので、それを突き詰めるだけです。能塚に関してはスタートの精度を上げること。成田はマシン性能のさらなる向上と、走行時間をもっと増やすことです。

今回の藤沢では、MXoN(モトクロス・オブ・ネイションズ=国対抗団体戦)に出場する日本代表チームが発表されました。MXGPクラスに成田亮、MX2クラスに能塚智寛、MXオープンクラスには、Team Honda Redmoto Assomotorからモトクロス世界選手権に参戦中の山本鯨。MFJによってノミネートされた今年のメンバーは全員Honda。みんなモチベーションが上がっています。能塚は初出場ですが、スイス大会のあとにMXoNが開催されるマッジョーラで、事前練習を行う予定です。

MXoNに参戦する成田と能塚は、いずれも(第6戦終了時点で)ポイントリーダーですが、全日本チャンピオンの座を手にするために、リスクが負ってでも行ってもらいたいです。それが日米欧の3カ所でファクトリー活動を展開しているメリットでもあるし、GPライダーと勝負できるチャンスを生かさない手はありません。今の能塚にはシーズン序盤のようなアドバンテージがなくなっているので、ワールドクラスのスピードを持ち帰ってもらいたいと考えています。