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全日本モトクロス2016 Team HRC現場レポート

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vol.34 シーズンの折り返し点。序盤の好調を取り戻すために

vol.34 シーズンの折り返し点。序盤の好調を取り戻すために

全日本モトクロス第5戦(7月3日・神戸・神戸空港島特設コース)は、今シーズンの折り返し点となる重要なレースでした。Team HRCの戦績は、成田亮選手(#982・CRF450RW)=IA1総合4位(2位/6位)、能塚智寛選手(#28・CRF250RW)=IA2総合3位(3位/3位)。今回の現場レポートでは、Team HRCの河瀬英明チーフメカニックに神戸での戦いを振り返っていただきます。

昨シーズンに続いて2度目の開催となった神戸大会ですが、IA1およびIA2のポイントリーダーとして臨む我々としては、現在の位置をキープしつつ、さらにポイント差を広げたいという目標がありました。やはりシリーズの折り返し点ですし、レースで勝つことはもちろんですが、チャンピオンシップ制覇に向けた戦い方も見据えていました。

成田にとっては、ちょうど1年前の神戸で新しい車両をデビューさせながら、芳しい成績を残せなかったラウンドなので、ぜひともリベンジしてもらいたい。能塚に関しては、前戦菅生の成績が悪かったので、マシンの仕様やレースの組み立て方に間違いはなかったのか、ここで再確認をしたいと考えていました。

神戸に対する準備としては、スーパークロス的なコースに合わせてサスペンションを強める方向で進めました。角度のきついジャンプの踏みきりや着地に対して、底付きしないようにコンプレッションを若干強める方向にアジャストしました。本当のスーパークロスとは違いますし、コーナリング性能を損なわないレベルなので、それほど大きな変更ではありません。

成田車の足回りはもともとソフト目で、サスペンションがストロークしやすいセッティングなので、能塚車に比べると神戸用に若干強める必要がありました。能塚車に関しては、もともと体格に合わせて硬めにセットしてあるので、特に変更はありませんでした。

エンジン性能的には、狭いコースで出しきれるような特性に変更しました。高回転よりは低中回転域を重視した特性です。ストレートなどスピードが乗るセクションもありますから、ピークパワーを落とさないようにしながら下(低めの回転域)を重視したセッティングです。

手法は450tと250tで異なりますが、おおむねPGM-FI(電子制御燃料噴射装置)のマップを書き換えただけの能塚車に対し、成田車の方は排気系を一新しました。外観からも分かる点ですが、ヘッダーからサイレンサーに至るまでヨシムラ製を採用し、低回転域のレスポンスを向上させた結果、高回転域を引っ張れるようにマップを変更することができました。能塚車のエンジンも、少し下の方に寄せた仕上がりになっています。

土曜日には公式練習だけでなく、今大会の特別措置としてフリー走行がありました。昨年とほぼ同じレイアウトでしたが、新しく山砂が追加されたので、軟質でわだちができやすいセクションに対するセッティングと習熟度を上げるためには有効な時間でした。

IA1では熱田孝高選手(スズキ)がトップタイムを出したことが予想外でしたが、IA2では好調の岡野聖選手(ヤマハ)が速かったですね。いずれにしても狭くて差がつきにくいコースであることが再確認できたので、スタートの重要性を痛感させられました。

IA1の予選ですが、成田はスタートに失敗して4番手でした。一番イン側のグリッドを取ったんですが、ちょっとスピンさせて出遅れてしまったんです。10分で先頭まで上がってくるのは難しいコースでしたね。それでもタイムは出ていたのが好材料で、コース脇でチェックしている芹沢監督や勝谷コーチからは、『身体はよく動いていたしライン取りも悪くなかった』という確認が取れました。

問題が発生したのは、IA2の予選A組でした。能塚はスタート直後から快調だったんですが、最終コーナーでミスしたことがきっかけとなり、1コーナーで古賀太基選手(CRF250R・N.R.T.)に抜かれました。そして、並んで2コーナーに進入する手前のジャンプでラインが交錯し、空中接触してしまったのです。転倒でマシンの下敷きになったため再スタートに手間取り、そこから追い上げたものの18番手……。予選を通過することができませんでした。ただし、能塚にはランキング上位5名に与えられるシード権があるので、これを行使して決勝に出走することはできました。

乗れていたはずなんですが、他車との差がつきにくく競り合った際のワンミスがクラッシュを招いてしまった。能塚もクロスラインのところで予想していれば、もう少し引けたと思うんですが、ちょっと突っ込みすぎましたね。無理せずやり過ごすべきでした。第2戦川越(オフロードヴィレッジ)では、ほぼ最後尾から追い上げて優勝していますが、あれを神戸で再現できなかったのは、差がつきにくいコースだったからでしょうね。

神戸のスターティンググリッドは30台分しかなかったので、能塚は2列目スタートで決勝に臨むことになりましたが、Team HRCとしてはノウハウがなく、オフィシャルの指示に従うだけでした。スタート位置の決め方など、いろいろあるとは思うんですが、今回は一番アウト側グリッドの後方で構え、オフィシャルが肩を叩いたらスタートするという指示でした。

安全対策として時間差を設けた2列目スタートでしたが、結果的にヒート1は1周目17番手、ヒート2は1周目14番手でした。1コーナーでクラッシュがあったりしたので、アウト側からスタートしたことが功を奏したようです。

能塚は予選の転倒で腕を痛めていたのですが、ライディングには支障がなさそうでした。むしろ2列目から出ることで緊張から解放され、スタート後も1台ずつ抜くことに集中できたようです。そうして追い上げてきたものの、小川孝平選手(CRF250R・Team ITOMO)と岡野選手には勝てなかった。能塚の追い上げによって、小川選手に火を付けてしまった側面もあるかもしれません。結果的に両ヒートリタイアした田中雅己選手(CRF250R・TEAMナカキホンダ)も、最後まで能塚よりも上位を走っていたし、非常に手強い相手でした。特にヒート1でトップを走っていた田中選手には、優勝できる勢いがありました。

能塚の評価としては、3位/3位で上出来とは言えません。ランキング首位は維持していますが、2位の岡野選手が1位/1位だったので、11ポイント差まで詰め寄られた形です。チャンピオン争いを考えると、今後は開幕当初の走りを取り戻してほしい。後半戦で能塚本来の走りを続けることができれば、おのずと結果は出ると信じています。

成田は決勝レースで、両ヒートともトップ走行をしてみせたし、瞬発力は健在だったと思います。ヒート1では終盤になって小島庸平選手(スズキ)に抜かれましたが、背後を新井宏彰選手(カワサキ)に狙われながら2番手を守りきったのは流石でした。

客観的に分析しますと、あのコースでは先にトップに立つよりも後ろにつけた方が心理的に有利だったと思います。あのぐらいの接近戦だとラインをずっと見られているわけですから、先行している方が嫌なものです。それが成田を消耗させた面はあると思いますが、だからといってパッシングポイントの少なさを考慮すると、自制しながら終盤勝負に持ち込むのもどうかと……。

ヒート2は1周目5番手からスタートして、9周目にはトップに立った成田でしたが、後半に入って平田優選手(ヤマハ)に抜かれたあたりから、集中力が乱れペースが落ちてしまいました。やはり差がつきにくいコースでの失速は、僅差で競り合う相手にとって歓迎すべき要素となったようです。そこから順位を下げた成田は、7位でチェッカーを受けましたが、上位ライダーのペナルティーによって6位に繰り上がりました。

Team HRCにとっては、今シーズン初めて優勝のないラウンドとなりましたが、次戦の藤沢は巻き返しを図るきっかけとなるはずです。藤沢スポーツランドは成田が得意としているコースで、能塚にとっても昨年1勝を挙げたゲンのいい場所です。その後も名阪まで高温多湿との戦いが続きますが、成田も能塚もピンピン(ダブルウイン)街道に軌道を修正することができたらと願っています。