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全日本モトクロス2015 Team HRC現場レポート

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vol.28 富田俊樹がチャンピオンを獲得。IA1は最終戦での決着に

富田俊樹がチャンピオンを獲得。IA1は最終戦での決着に

シーズンの大詰めを迎えた、全日本モトクロス選手権第9戦(10月4日・川越・オフロードヴィレッジ)にて、Team HRCは両クラスで総合優勝を果たしました。成田亮選手(#1・CRF450RW)=IA1総合優勝(優勝/2位)、小方誠選手(#2・CRF450RW)=IA1総合8位(6位/8位)、富田俊樹選手(#317・CRF250RW)=IA2完全優勝(優勝/優勝)。さらに今大会の得点により富田選手は、最終戦を待たずにIA2チャンピオンの座を獲得しました。今回の現場レポートでは、Team HRCの芹沢直樹監督に第9戦を振り返っていただきます。

まず富田のタイトル獲得につきまして、スポンサー各位のご支援に対し、Team HRCを代表して感謝の意を表したいと思います。富田自身にとっては2度目、Team HRCに入ってからは初めてのチャンピオンですが、今シーズンのチャンピオンが最終戦前のオフロードヴィレッジで決まるだろうということは、第8戦名阪スポーツランドを消化した段階で現実的になっていました。直前にモトクロス・オブ・ネイションズ(国対抗団体戦)への遠征があったので、ここでケガなどしたら大変だという不安もありましたが、本人にはいつも通りの走りをしようと話していました。

ネイションズでは、やはり日本の期待を背負うプレッシャーからでしょうか、少し硬さが見られました。そんな中でしっかりとリザルト(予選9番手・B決勝3位・決勝26位/18位)を残しました。特に日曜日はB決勝、ヒート1、ヒート2という3レースを連続でこなしたので、あの日の会場で一番きついライダーでしたが、走りきって責任を果たしたことが自信につながったようです。

その自信があれば、オフロードヴィレッジではなんの心配もない。プレッシャーも多少あったはずですが、富田はそれを上回る自信を持っていたんでしょうね。予選のあとに、腕上がりは大丈夫かどうか確認したりすると「ネイションズに比べればこんなの楽ですよ」と言われました。それでも予選とヒート1で珍しく転んでいるので、言葉とは裏腹に緊張していたのかもしれません。

ポイントリードが大量にあったので、無理する必要はなかったのですが、そこで緩めずにピンピン(両ヒート優勝)をとりにいく姿勢は、チームメートの成田から学んだものだと思います。実際に「成田さんの最多勝は何勝でしたっけ?」などと確認していましたし、近づいた目標をいったんリセットして、遠くに設定し直すような面もありました。富田の中で全日本チャンピオンは通過点であり、より困難な目標に向かって意識を高めているところです。

ヒート1は楽に勝ってタイトルを決めたのですが、ヒート2では田中雅己(ナカキホンダ)の方が速いときがあって、詰め寄られたりしました。以前の富田でしたらそこで動じていたのですが、今年になって成長したこともあり、不安は全くありませんでした。富田が伸びた要因としては、まずシーズンオフに肩をしっかり治療したことが挙げられます。昨年まではなにかあるとすぐに肩を脱きゅうする癖があり、常にそれを気にしながら走っていました。不安から解放された今年は、明らかに走りが違います。

さらにコーチとして招いた、ベン・タウンリーの効果もありますね。タウンリーには長所と短所を指摘されたのですが、富田はすぐに悪いところを改善しようと取り組みました。例えば、コーナリングスピードを落としすぎているという指摘。特に右コーナーでは、旋回中にリアブレーキを使えないため、手前から必要以上に減速してしまう傾向がありました。そこでライン取りを考え直したり、ブレーキングポイントを変えてみたり。そういうことを練習だけでなく、レースの最中も心掛けていました。タウンリー効果は絶大ですね。

それから弱点というほどのことではないのですが、いつもヒート1で腕上がりを起こすことがありました。富田が今年経験したAMAナショナルやネイションズでは、あまり腕上がりしないと言うので、なぜなのか考えました。全日本で腕上がりになるときはだれかに負けていたり、だれかが後ろに迫ってきたり、切羽詰まった状況であることが多かったです。競り合う相手を意識しすぎるのではないでしょうか。一方でアメリカンや世界の代表ライダーと走る場合、もはやだれかを意識している場合ではなく、無心で走っています。その違いなのではないでしょうか。そこで富田には、リラックスして走れるようにアドバイスするようになりました。例えば「ポイント差を守るのではなく、もっと勝てばもっとかせげるぞ」というような話です。

チームとしてはハード面のサポートも常に行っており、マシンの特性はより富田の好みに近付けた仕様になっていました。富田はあまりオーバーレブさせずに中速域を多用するタイプなので、その辺りの出力を向上させた仕様ができて、走りにマッチしていました。長所としてはスタートの精度が高いので、その辺りはライダーの特徴を生かしながら、好調を維持してきました。

成田に関しては前戦の名阪から好調で、トップ争いをすることは予想していました。ただスタートだけが思い通りにいかず、予選も決勝も出遅れてしまい、両ヒートとも追い上げる展開になりました。オフロードヴィレッジのゲートは、土とコンクリートの段差があり、土盛りも禁止されていたので、そこに手こずったわけです。条件はみなイコールなのですが、成田の感性には合わず、攻略もままならなかったということです。

フロントがコンクリートの上で、リアが土の上で発進する。コンクリート自体ではなく、その段差を乗り越えるのが難しい。事前テストではスタート練習が禁止されているので、今後は本番でいかに攻略するかがカギになりそうです。チームとしても対策しなければならないので、自社のテストコースにスタート台のレプリカを作るなどして、練習や解析を行う必要がありそうです。

今回の成田ですが、ヒート1ではオープニング6番手からばん回して勝ちましたが、ヒート2では11番手と出遅れたため2位どまりでした。さすがにあそこからの追い上げは、体力的にもきつかったようです。

IA1のタイトル争いに関しては、首位の小島庸平選手(スズキ)から19点差、2位の熱田孝高(スズキ)からは14点差で、3位に成田がランクインしています。成田自身は「あきらめている」と公言していますが、逆転タイトルは厳しいと認識しながら、毎レース優勝することに集中している、というのが正しい表現でしょう。最終戦には外国人ライダーが出場しますが、成田は気後れするどころか逆に勝ってやろうと燃えるタイプです。いつもの姿勢で全力でぶつかればいいと思っています。

小方に関しては、前戦名阪での転倒によるダメージがありました。幸い骨折などはなかったものの、練習を積み上げて調子を上げるタイプなので、10日間マシンに乗れなかったことが響いています。オフロードヴィレッジの1週間前から乗り始めたところなので、練習不足であることは否めません。名阪の転倒は久しぶりに大きなものでした。ポイントリードを失った、ネイションズ出場を逃した、そんなことが重なって意気消沈ぎみでした。ただ一番大事なものは全日本チャンピオンを獲得することですし、ネイションズに行けなくなったこともオフロードヴィレッジの準備ができるんだとポジティブに考えよう。そんな話をしていました。まずはオフロードヴィレッジに集中しようと。

決勝では小方が両ヒートともホールショット賞を獲得しているので、その点ではよかったものの、スピードが足りませんでした。ミスもありましたが、小方本来のスピードが発揮されていなかった。土曜日には問題ない状態でしたが、日曜日の公式練習で転んで腕と肩を打撲してしまい、その影響がレースに出ていたようです。

ランキング4位まで下がった今、小方にタイトル獲得という目標は非現実的かもしれませんが、ここは成田同様に欧米の一流ライダーが来日する機会をポジティブに捉えてほしいものです。IA1では成田と小方、IA2では富田が、世界のトップクラスを相手にどんな戦いを挑むのか。ぜひスポーツランドSUGOにご来場いただき、熱戦をお楽しみ下さい。