モータースポーツ > 全日本モトクロス選手権 > 全日本モトクロス2015 Team HRC現場レポート > vol.26 後半戦は過酷なマディでスタート

全日本モトクロス2015 Team HRC現場レポート

HRC
  • HRC
  • HRC
vol.26 後半戦は過酷なマディでスタート

後半戦は過酷なマディでスタート

全日本モトクロス第7戦(8月30日・菅生・スポーツランドSUGO)によって、シーズンは終盤戦に突入しました。Team HRCのリザルトは、成田亮選手(#1・CRF450RW)=IA1総合2位(1位/2位)、小方誠選手(#2・CRF450RW)=IA1総合3位(4位/4位)、富田俊樹選手(#317・CRF250RW)=IA2完全優勝(1位/1位)。今回の現場レポートでは、Team HRCの芹沢直樹監督に第7戦を振り返っていただきました。

今大会は非常に過酷なマディコンディションとなりましたが、ライダーは3人ともマディが得意なので、心配は全くしていませんでした。ただハード的には、一般論としてですが、どんなトラブルが発生しても不思議ではない状況だったので、万全の準備をして大会に臨みました。

ところが、土曜日の予選では、成田車と小方車にクラッチトラブルが発生し、完走することができませんでした。具体的に言うとクラッチを使いきってしまったのですが、今年から変更した仕様のマディにおけるタフネスは、雨の開幕戦でも確認済みですし、事前テストでも問題は発生していませんでした。想定していた限界を超えてしまうほど、今回のコンディションが厳しかったということだと思います。

チームとしてはライダーをナーバスにさせてしまったことが悔やまれますが、逆に予選でトラブルが起きてくれたのはラッキーでした。決勝に向けた対策ができ、予選よりも悪化した状況の中で長時間のレースを走りきることができたからです。

成田は間違いなくトップ争いに絡んでくるだろうと予想していましたが、ヒート1の優勝は見事でしたね。チームでも「やっぱり成田はすごいな」という声が聞かれました。前大会で決勝レースを走れなかったこともあり、成田は気持ちを入れ替えて乗り込みも十分に行っていました。もともと雨が得意なライダーですし、新たな意気込みも伝わってきました。

ヒート1後の本人のコメントですが、「誰も追いかけて来ないのが残念……。周りのレベルが上がっていないのが残念……」と言っていました。2位の熱田選手とは1分52秒差、3位以下となると2分から3分以上の大差でした。ラップタイムを比較しても成田がダントツで、2番手の熱田選手とは6秒差でした。そういう圧倒的な優位に立っていながら、両ヒート勝てなかったことは悔しい。熱田選手のしぶとさもあって、ヒート2では勝利を逃しました。

ヒート2は難しいセクションをショートカットされて、極端に短いコースになったので、客観的に見れば成田のアドバンテージが減った形になります。マディの中の硬い土でフロントを滑らせて転倒したことが、熱田選手に先行される原因となりました。あの転倒がなければピンピンだったと思いますが、誰もが何度も転倒するのが当たり前の状況だったので、仕方ありません。

成田本人はピンピンを狙っていたので、相当悔しがっていました。実はレース前に、最多勝を狙おうと話し合っていたんです。第6戦までの優勝回数は、成田4勝、小方3勝、小島選手3勝、新井選手2勝。そして残る第7戦〜第10戦から最終戦を除いた6ヒートのうち、3勝すれば成田の最多勝が確定すると。まあ最終戦は外国人ライダーの参戦など普段とは違った要因もあるでしょうから、私としては目標から除外してみたんですが、成田本人はそれでも全勝を目指して意気込んでいました。3勝どころか最終戦を含めた8勝です。

いつも外国人ライダーに対して闘志をむき出しにする成田ですから、それはやってくれるに違いないのですが、もう少し近いところにも現実的な目標を設定してがんばってもらいたかったので、最多勝というのを提案したんです。監督の立場としては、そうやってモチベーションを喚起しようと思ったのですが、言われなくても成田は自覚していました。

小方は悪くても片方のヒートで必ず表彰台に立つ安定感をキープしていましたが、今回は4位/4位にとどまり、今シーズン初めてポディウムを逃しました。期待値に対して結果が下回った感じです。チャンピオンを獲得するためには、10戦のシリーズポイントで400点、1戦あたり40点が必要だという目標設定をしていますので、それを少し下回った形です。

ランキング2位の小島選手がミスをしたので助けられ、小方のリードは13点に広がりましたが、熱田選手が同点2位に浮上してきたので、予断を許さない状況が続いています。現状に甘えず実質的にリードはゼロだと思ってほしい。こんなリザルトは今回で最後にしようぜ。1位じゃなくてもいいから、小島選手、熱田選手の前を走ろうぜ。レース後のミーティングで、小方にそう伝えました。

実を言うと、もし小方が首位から落ちるなら、早い段階で一度逆転されておいた方がいいと思っていたんです。子どものおたふくかぜじゃありませんが、早めに悪いところが露呈して、ポイントリーダーの座を明け渡し、チャレンジャーになった方が有利なのではないかと……。大事な終盤戦で何かをやらかすよりは、その方がいいだろうと。

監督の心理としては、ポイントリードをキープしてくれるのはありがたいのですが、自分がライダーだったときの気持ちを思い出してみると、追われるよりは追う立場の方が楽だと思ったんです。そうこうしているうちにもう終盤戦ですから、こうなったら逃げきるしかないと作戦変更しましたが……。

小方のライディングに関しては、よくない傾向が出てきていますので、そこをなんとか修正したいと思っています。具体的に言うと、前に行きたい気持ちからフロント荷重が強まり、その反面リア荷重が弱まってトラクションが抜ける。この辺は以前から課題としてきましたし、シーズンオフのニュージーランドトレーニングでも改善されたので、開幕当初は好成績に結び付いていたんです。ところが最近は少しずつ以前の癖が出てきているので、その辺りの修正に全力を注ぎ込んでほしいと思っています。

IA2首位の富田は今シーズン3度目のピンピンで、期待通りの成績を残してくれました。夏休みを利用して自主的にAMAナショナルに参戦してきたのですが、序盤のスピードなど自分の限界を超えるペースを実感したり、ずいぶん収穫があったようです。富田のベストリザルトは12位でしたが、Team Honda HRCのダン・ベトリー監督は「予想以上の成績」、全日本でコーチを務めるベン・タウンリーは「トップ10はいけると思っていた」と言っていました。今回のスポット参戦によってアメリカでの目標も見えてきたので、これをきっかけに成長してほしい。今回の経験が将来的にも生きてくるんじゃないかなと思います。

富田はユナディラで手を負傷したんですが、それ以外にも遠征の疲れからか足に痛みがあったりしたので、今大会は電気治療をしながらレースに臨みました。そんな中、ヒート1ではチェッカー目前で逆転という劇的な勝利を収めました。リーダーの渡辺祐介選手がスタックしたこともありましたが、運というよりもチャンピオンになるための勝負強さを感じました。

今後の日程は第8戦名阪、第9戦川越、最終戦菅生ですが、富田と小方にはその間にモトクロス・オブ・ネイションズへの遠征があり、私も日本代表監督として帯同します。本来であれば、今大会でも壮行セレモニーが開催される予定でしたが、悪天候でタイムスケジュールが押していたのでキャンセルされました。富田も小方もチャンピオン争いの最中ですが、全日本に集中したいなどとは考えず、遠征をポジティブに捉えています。

ネイションズにおける富田に関しては、どんどんスキルを高めてほしいし、レベルの高いステージで実力を発揮してくれそうな予感がします。持っている力を出しきれば、15位以内に入れるだろうと思っています。個人的には富田が海外で走るのを生で見たことがないので、非常に楽しみです。

小方は経験を重ねて反復することによって強くなるライダーなので、ネイションズ参戦が吉と出るだろうと考えています。今シーズンの序盤戦において小方が好調だったのは、オフにニュージーランド選手権に出たり、名護のオールスターで優勝したことと密接な関係があります。全日本は開催日程にかなり空きがあるので、レース勘を保つことが難しい。ですから、小方には第8戦名阪の1週間前に行われる近畿選手権にも出場してもらいます。

第9戦川越の直前に遠征するネイションズは、もちろん日本代表としての成果が問われますが、副産物として帰国後の全日本チャンピオン争いにもいい流れをもたらしてくれるだろうと信じています。