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全日本モトクロス2015 Team HRC現場レポート

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vol.25 前半戦最後のレースを振り返る

前半戦最後のレースを振り返る

全日本モトクロス第6戦(7月19日・岩手・藤沢スポーツランド)のリザルトは、成田亮選手(#1・CRF450RW)=IA1 DNS、小方誠選手(#2・CRF450RW)=IA1総合4位(5位/3位)、富田俊樹選手(#317・CRF250RW)=IA2総合2位(1位/3位)でした。今回の現場レポートでは、Team HRCの河瀬英明チーフメカニックに第6戦を振り返っていただきます。

まずは成田車に発生したマシントラブルの件ですが、応援にお越しいただいたHondaファンの皆さんと成田本人に対し、申し訳ない気持ちでいっぱいです。成田は予選の最終ラップまで順調に走っていたのですが、フィニッシュ目前でエンジンが止まってしまいました。原因究明と修理を試みましたが、総合的に判断して決勝への出走を断念しました。

彼のレース人生の中でもこんなに憤りを感じたことはなかっただろうし、我々も出走を叶えてあげられなかったことが残念でなりません。成田にとっては厳しい大会になりましたが、最後まであきらめずに最善を尽くすことが使命ですし、残るレース全勝を目指してくるでしょう。我々も全力でサポートできるように取り組んでまいります。

小方に関しては、サンドが好きで優勝経験もある藤沢ということでもっと上位を期待したのですが、5位/3位という比較的おとなしいリザルトになりました。ヒート1では2周目に三原選手を抜こうとして絡んでしまいました。今回は最終コーナーから1〜2コーナーまでのリズムがよく、アウト側にはらんでからインにクロスするラインで勝負していたのですが、三原選手とはタイミングが合わなかったようです。転倒後の追い上げもあまりはかどりませんでした。今回はドライで砂塵がひどかったせいか、タイム差があまりなかったことも一因でしょう。

ヒート2はスターティングゲートの不具合で赤旗が出されたあと、直して再スタートするまで40分ぐらい待たされました。ライダーはコンセントレーションを保つのが大変だったと思いますが、小方は5番手から追い上げ、終盤は2位争いをするところまでいきました。最後は7番ポストで熱田選手を抜こうとして並んだんですが、ミスをして離れてしまった。あそこで熱田選手を仕留めていれば、ずいぶん印象が違ったはずです。

今回の小方は、ランキング的に接近されたものの、首位は守っている点が評価できます。テーブルトップでは思いきりウィップを決めたり、実際に乗れていましたが、もう少しアグレッシブに攻めてほしい。守りに入っているわけではありませんが、積極的なレースを心掛けたいものです。

富田はヒート1がスタート・トゥ・フィニッシュで、ポイントリーダーらしい文句なしのレース運びでした。序盤は同等のスピードを持っていた能塚選手にマークされていましたが、最後は突き放して独走優勝でした。ところがヒート2ではスターティングゲートに引っかかり、ほぼ最後尾となるハンディキャップを背負ってしまいました。

ゲートの餌食になったのは5〜6台でしたが、このIA2ヒート2のスタートでは赤旗が振られず、レースは進行してしまいました。ただ、ここでオフィシャルに抗議したことが、IA1ヒート2での赤旗再スタートにつながる布石となったようです。ゲートの動作不良の原因は、軸の部分に土を盛って踏み固めるためで、IA1では土盛りが禁止されました。

富田はいい感じで追い上げたんですが、中盤6〜7番手争いの辺りまで来ると、さすがにポジションアップに時間がかかるようになりました。やはりタイム差がないライダーが相手になると、そう簡単には抜けません。結果的に3位でチェッカーを受けることになりましたが、1位の能塚選手、2位の渡辺祐介選手もいいペースで走っていたので、大差を縮めることはできませんでした。スターティングゲートが正常に機能していたら、両ヒートとも富田だったと思います。

今大会ではMXoN(モトクロス・オブ・ネイションズ)に出場する日本代表チームが発表されました。小方(MXGP)、富田(MX2)、小島選手(MXオープン)。第6戦藤沢終了時点でのIA1ランキング1〜2位、IA2ランキング1位というメンバーなので、文句なしの選出だと思いますが、個人的にはグランプリに参戦中の山本鯨選手も見てみたかったという気がします。小方と富田については2人とも初出場ではないのですが、決勝を走ったことがない点が心配というか、逆に今年は決勝リザルトに日本の名前を残すことがテーマになるでしょう。

私はMXoNの過去3大会に、HRC所属ライダーの担当メカニックとして帯同しました。2006年イギリス大会(成田/小島/熱田=チーム総合12位)、2007年アメリカ大会(成田/増田/熱田=チーム総合7位)、2012年ベルギー大会(小方/竹中/小島=チーム総合26位)です。時期的には世代交代の過渡期にあたり、その両方を見てきた実感があります。

個人的に2006年はライダーからメカニックに転身して1年目だったので、何から何まで新鮮でした。シーズンオフには熱田選手と一緒に、イギリスのホークストンパークで行われた前哨戦に遠征していたので、MXoNのような大舞台でも比較的すんなりと馴染めました。とはいえ、転倒でステップが折れるなど、全日本にはない激しさを見せ付けられたレースでした。

熱田選手はレース3でイギリスのカール・ナンと競り合い、大ジャンプの空中で接触した時クラッチカバーに穴を空けてしまったんですが、自分なりの状況判断でクラッチを大事に使って完走し、ベストリザルトとなる12位をゲットしました。

メカの目線としては、ヤマハの千葉さんや斉藤さん、そしてスズキの荒重さんといった雲の上のようなメカニックの皆さんと一緒に仕事できたのがうれしかった。特に印象に残っているのは、ヒート2とヒート3の間に余裕がない中で、マシンの準備を手伝ってもらったこと。普段ならライバル同士ですからあり得ないことですが、そういった垣根を越えた「チームジャパン」として一つになれたことに胸が熱くなりました。

2007年アメリカ大会はバッズクリークだったので、日本のライダーには馴染みがあるコースでしたが、さらに習熟度を上げようとAMAナショナルにもスポット参戦していました。熱田選手はコースにも慣れていたので、ガンガン攻めて8位/7位とそろえました。450から250に乗り換えて参戦した増田選手は、23位/16位と善戦。成田が負傷したため、増田選手のポイントがカウントされて総合7位に貢献したのですが、この時の熱田選手のコメントにチームの団結力が表れていました。

「今回はたまたまアキラ(成田)が転んで、オレがそろえただけ。オレが転んでみんなに迷惑かけたことだってあったし、チームの成績は3人の合計なんだからさ」

何度も日本代表を務めてきた経験が、そう言わせるのでしょうね。この3人は、全日本でチャンピオン争いをしていた最中に遠征し、MXoN開催期間中はチームメートとして結束した。誰かがミスをしても誰かがカバーし、お互いをリスペクトした。今後派遣されるチームにも、そういう考え方を受け継いでほしいと思います。

2012年ベルギー大会は、小方の担当でした。ディープサンドのロンメルが会場なので、苦戦が予想されていましたが、案の定あれよあれよという間に予選レースが終わってしまいました。決勝進出最後の枠をかけて戦ったB決勝では、小方は力みすぎて1周目に転倒リタイア。団体戦の総合結果ではありますが、日本は初めて予選落ちという辛酸をなめることになりました。

日本のレベルが下がったとは思えませんが、以前は弱かった国が力を蓄えてきたことも事実です。モトクロスが伝統的に強い国というと、アメリカ、ベルギー、フランス、イギリス、イタリアなど。近年はオーストラリア、ニュージーランド、ドイツ、ロシア、エストニア、ラトビア、スロベニア、スイスなどが台頭してきたり、かつてはモトクロス大国だったオランダ、フィンランド、スウェーデンなどが、低迷の後に復活してきました。

そういう世界情勢の中で、日本の地位が相対的に下がってきたことは確かでしょう。このところ3年は決勝に進出できない状況が続いていますが、過去には6位というベストリザルトがあるのですから、あきらめずにチャレンジを続けたいものです。そのためには何をすべきか? モトクロスもほかのスポーツにならって、世界基準を意識する必要があると思います。例えばコースレイアウト、練習やトレーニング方法、国際的な交流など、強い国で普通に行われていることを導入しないと、取り残されてしまうような気がします。

Team HRCでは今年、ベン・タウンリー(2004年FIM MX2チャンピオン・2007年AMA SXライツ東部チャンピオン)をライディングコーチに招きました。彼の母国ニュージーランドは、地理的に欧米から孤立していて、MXoNに遠征する際の苦労が多い点が日本と似ています。それにもかかわらず、タウンリーやシェイン・キングといった世界チャンピオンを輩出しているんです。日本が世界の舞台で巻き返すためのヒントは、どうやらニュージーランドにありそうですね。