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全日本モトクロス2015 Team HRC現場レポート

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vol.24 特設コースで両クラス総合優勝

特設コースで両クラス総合優勝

全日本モトクロス第5戦(7月4日・兵庫・神戸空港特設コース)は、今シーズンの前半を締めくくるレースでした。Team HRCの戦績は小方誠選手(#2・CRF450RW)=IA1総合2位(1位/2位)、成田亮選手(#1・CRF450RW)=IA1総合8位(7位/6位)、富田俊樹選手(#317・CRF250RW)=IA2完全優勝(1位/1位)。今回の現場レポートでは、Team HRCの芹沢直樹監督に第5戦を振り返っていただきました。

神戸空港の開港10周年ということで、大都会からアクセスのいい場所でモトクロスが開催できたことは、非常に画期的なことだと思います。天気がベストではなかったものの、幸いなんとか持ちこたえてくれたし、すばらしい大会になりました。

当初はスーパークロス的な特設コースだと聞いていたので、マシンに大きな変更が必要になるかもしれないと思っていました。たとえばスーパークロスでは、ジャンプで踏ん張るためにサスペンションの減衰力を強めたり、フープスではサスペンションをあまりストロークさせないような仕様にしたり、ファイナルレシオを低めにスプロケットを交換したりするものです。ところが事前テストに来てみると、ジャンプの大きさや角度がいろいろなレベルのライダーでも走れるような設計だったので、それほど大きな変更もせずセッティングの微調整だけで対応できました。

テストで走ってみた印象では、短くてタイトでスタート勝負だろうと読んでいたんですが、本番になってみたら意外とパッシングポイントがありましたね。180度コーナーなどでは、インとアウトに分かれて仕掛けたり、抜いたりというシーンが見られました。事前テスト時のコースコンディションはドライで、土質は粒子が大きめの砂が締まった感じ。ハードパックには至りませんでしたが、走行ラインはかなり硬くなっていたようです。

普段の全日本と違っていた点は、コースと観戦エリアが完全に分けられていたため、我々チームスタッフが中に入れなかったこと。コースを歩けるのはライダーのみで、メカニックはスタート地点とレース中のサインエリアに限定されていました。普段でしたらライダーが苦手としているセクションや、勝負どころとなるコーナーなどを細かく観察して、土質やギャップの状態などをライダーに助言することができますが、今回は観客席から遠目で見守るだけでした。

ただ、チーム関係者がコースサイドに入ると観客席からレースが見えにくくなってしまうので、お客さんを最優先にしたことはよかったと思います。ですから、我々もビデオを撮ったりする際に、極力迷惑にならないようにということを徹底し、最前列ではなくお客さんの後ろに脚立を置いたりしていました。どこのチームも同じ条件だったと思いますし、特に困ったわけではありません。動画の撮影スポットはライダーの要求に応じて決めますが、今回は特にリクエストがなかったので、ポイントとなりそうだったフープスとスタートだけに絞って撮影しました。

今回、最も注目されたのは成田車でしょう。年頭に中本(修平/HRC取締役副社長)が予告した通り、我々は今回プロトタイプのファクトリーマシンを投入しました。レースに勝つことだけでなく、ハード的なチャレンジを継続することもTeam HRCの使命ですから、それを実行しただけです。マシンの詳細については言えませんが、車体性能、動力性能ともに次のレベルを追求した新設計のプロト仕様です。

当然のことですが、実戦に投入する以上は性能的に高いものと判断しています。ただし、マシンの乗り換えについては、性能だけではうまくいかない面もありますので、レースをしながらライダーの習熟度などを高めていく予定です。プロトタイプの投入については、シーズン前から成田本人も楽しみにしていましたし、テストして「これでいきたいです」という判断があったので、今回の実戦投入となりました。

その成田の実戦ですが、事前ではよかったのにレースになると出てきた現象があったことは事実です。ヒート1では十分に勝てる位置で走っていたんですが、勝ちを意識したせいか転んでしまった。フープスの2個前の右コーナーで、イン側に飛び込んだときにスリップダウンしてしまいました。ヒート2ではフープスの中にうまく攻略できない部分がありまして、そこでリズムに乗りきれなかったようです。フープスの難易度はそれほど高くなかったんですが、スピードを上げていくときに、中ほどにある山をどうやって処理するかというテーマがありました。

プロトタイプを走らせる期待やプレッシャーがあったと思いますが、7位/6位という結果は成田らしくありません。今後の心構えとしては、毎レース42点以上取っていけば、過去にチャンピオンになった年の獲得ポイントに並べる、という話をしています。42点というと2位/3位ですから、成田にとって難しいノルマではありません。もちろん小方がそれ以上の成績だったら追いつけない計算ですが、背中は見えているので奮起に期待したいところです。

小方のレースについては、迷いがないという彼本来の長所に加えて、抜きにくそうなコースでかなり抜いてくれたことが収穫です。今までの小方だったら、抜き損なうことが多々あったのですが、ヒート1では田中選手や小島選手をかわして優勝しました。トップに立った後も慌てることなく、完ぺきなレースをしてくれました。

実はあらかじめミーティングで作戦を立てていて、フィニッシュ後の右コーナーからストレートに合流して1コーナーまでが勝負どころだと決めていたんです。特に1コーナーがポイントなんですが、進入でインとアウトに分かれる際、インに入るにはストレートエンドで早めのブレーキングが必要になるので、そこでアウトに向かえば並ぶことができる。抜けなくても並ぶだけでプレッシャーをかけたり、相手に動揺を与えられる。フェンダーを見せるだけ、音を聞かせるだけでも揺さぶることができます。

そういう駆け引きがこれまでの課題でしたが、今回の小方のレース運びからは巧妙さを身に付けてきた印象を受けました。ヒート2では1コーナーのブレーキングが少し早すぎたところを周りから抜かれてしまい、1周目10番手前後という大変な位置だったんですが、最終的に2位まで追い上げました。小方らしくないというと変ですが、こういう戦い方もできるようになったあたりに成長ぶりが表れていると思います。

重要ポイントだったフープスでは、中央付近の山をうまくクリアしていました。手前でフロントを落とすと、大きな山を飛ぶまでに失速してしまうのですが、小方は1個目からフロントを浮かせて2〜3個越えて、大きな山の1個前から勢いをつけられるような走り方をしていました。荒れてくると結構難しくてみんな苦戦していたんですが、その辺をうまく処理できたことが自信となり、他のセクションでもリズムがよくなったのが好循環となりました。

富田に関しては、開幕から5戦総合優勝、直近では2戦連続ピンピン(1位/1位)なので順調です。昨年の流れからすると勝って当たり前だと思われているようですが、その中でも勝ち続けるのはすごいことだと評価しています。スタートの精度が高いことも要因の一つですが、目標設定を高く掲げていることが走りに表れているようです。

次戦藤沢の翌週から、富田はAMAナショナルにスポット出場します。ワシューガル、ユナディラ、ソルトレイクシティの3戦に、メカニックを帯同させてチャレンジする予定です。全日本モトクロスの夏休みを利用した渡米ですが、たまたま個性的なラウンドが続くところなので、富田にはいい刺激になるだろうと思います。

海外遠征については、先日行われたMFJの会議で、今年のモトクロス・オブ・ネイションズに派遣される日本代表候補に、小方と富田がノミネートされました。各々IA1とIA2のポイントリーダーですが、日本代表として正式決定するようでしたら、Team HRCとして全面的にサポートします。チャンピオン争いの最中に遠征するリスクよりも、経験を通じて得るものの方が大きいだろうとポジティブに捉えています。