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全日本モトクロス2015 Team HRC現場レポート

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vol.23 Team HRCが第4戦で全クラス制覇

Team HRCが第4戦で全クラス制覇

全日本モトクロス第4戦(6月7日・菅生・スポーツランドSUGO)で、Team HRCは両クラスをダブルウインで制覇しました。成田亮選手(#1・CRF450RW)=IA1完全優勝(1位/1位)、小方誠選手(#2・CRF450RW)=IA1総合3位(2位/3位)、富田俊樹選手(#317・CRF250RW)=IA2完全優勝(1位/1位)。今回の現場レポートでは、河瀬英明チーフメカニックにTeam HRCの活躍ぶりを振り返っていただきます。

第4戦はすばらしい内容になって、リザルトも最高でした。成田と富田がピンピン(1位/1位)を獲得したことはもちろんですが、IBオープンでは鈴村英喜選手(CRF250R・TEAM HAMMER ホンダ学園)と長門健一選手(CRF450R・1WD TEAM SAKURAI with 和木商事)、レディースでは竹内優菜選手(CRF150R・TEAM HAMMER ホンダ学園)が優勝し、Hondaにとっては全クラス制覇という喜ばしい大会になりました。

好調の原因はマシンの優秀性もさることながら、Team HRCに関しては監督がいつも言っているように、当たり前のことをキッチリとやってきたからだと思います。細かいことでも妥協せずに、とことん突き詰めた結果、マシントラブルも皆無で好成績につながっている。実力のあるライダーがそろっていますし、運に左右されることもありますが、今のところ大きなバッドラックもなく順調です。

成田のパフォーマンスについては、「さすが!」としか言いようがありません。開幕戦のピンピン以降、第2戦川越では7位/10位、第3戦広島では5位/5位と低迷していました。その経過から成田の復調を予想するのは簡単ではありませんでしたが、見事に甦ってしかもピンピンですから、これはもう脱帽です。地元の菅生ということもプラスに作用したかもしれませんが、ホームのアドバンテージ以上に重要だったのは、気持ちの部分でしょうね。甲子園球児みたいに丸めて剃った頭を見たときに、やってくれるだろうと確信しました。体型は変わっていませんが…。

もちろんケガの影響で乗り込み不足だったことは否定できませんが、今回は負傷していた肩の調子もだいぶ戻っていて、力を入れられるようになったと言っていました。トップ争いでも普段の成田らしい展開で、ちょっと仕掛けては抜かず、それでいて抜くときは思いきりズバッと行くような駆け引きができていました。

成田の連敗中も我々は楽観視していました。川越でも広島でもマシンに対する不満は皆無で「自分が乗れていなかっただけです」と言っていたからです。ライダーの気持ちからすると、勝てないときほどエンジンがどうの、サスがどうの…と言いたくなるものですが、成田にはそれが一切なかった。チームとしては、なにか要望があればマシンテストも行いますし、仕様変更でもなんでも対応できますが、マシンに関しては全く迷いがありませんでした。通常は、コースに合わせてPGM-FIのセッティングを緻密に詰めていくのですが、今回のセッティングはほとんど迷いがありませんでした。

そう言えばこんなことがありました。成田のマシンのハンドルに、マップを切り替えるスイッチが装着されていることに気付いた人がいて、PGM-FIセッティングに迷いがあるのでは…と聞かれたのですが、そんなことはありませんとお答えしました。マップの切り替えは、主にどちらの特性を採用するか比較テストするためのもので、特に成田のように好みがはっきりしているライダーの場合、レース本番ではあまり使用しません。

ここから先はメカニックの方針に任せているのですが、昨年まで担当していた中川メカは、レース本番ではハンドル周りをシンプルにするためにスイッチを外していました。一方、今年から交代した千葉メカの場合は、決めた仕様を変えない成田の性格を知っていながら、それでも選択肢としてマップを切り替えられるように、あえてスイッチを残してあります。成田本人はあれだけ走りに集中していますから、一切タッチしていないようですが。そのようなわけで、切り替えスイッチの有無は成田の迷いでもなんでもなく、メカニックの考えによるものでした。

今回からゴールドゼッケンを付けた小方については、欲張れば2位/2位にもなれたでしょうが、結果的には2位/3位でした。両ヒートとも熱田孝高選手(スズキ)の前でフィニッシュしているので、ポイントリーダーという観点ではよかった。チームメートの成田がまた迫ってきたという状況ですが、熱田選手を突き放すことには成功しています。

レース運びの面では、小方はパッシングに苦労していました。目の前の相手を抜けそうで抜けない。両ヒートとも成田と小島庸平選手(スズキ)と三つ巴のトップ争いをした小方ですが、競り合いの勝ち方がうまくない。トップスピードはあるし、前に出たら独走できるので、誰かの後ろについたときのさばき方だけが課題だと思います。

IA2では富田が今季初のピンピンを決めました。これまではヒート1で勝てない弱点があり、チームとしてもそこさえ克服できればと考えて、最初から行くぞ!という意識付けを行ってきました。下手をすればプレッシャーになるかもしれませんが、それでつぶされるレベルのライダーではありませんし、いい意味でのプレッシャーですね。さらに走行前に入念なウォーミングアップをやったことが効果的だったようです。

今大会に限っては公式練習からタイムも出ていましたし、予選から決勝に至るまで好調でした。成田も小方もそうでしたが、特に富田は全セッションでファステストラップを記録。土曜はウエットからドライに向かう状況の中でワダチやギャップが多く、富田の速さが際立っていました。IA2の予選で最速だった富田は2分02秒651、2番目の竹中選手は2分05秒496。IA1の予選では成田が2分02秒748、小方が2分03秒938という上位。ここでもうお気づきかもしれませんが、富田は成田よりも速かったのです。レースはタイムがすべてではありませんが、トップに立っても前に勝谷武史選手(カワサキ)がいることを仮想して走った成果でしょう。今回の菅生はタイトコーナーの切り返しが増えた印象ですが、250と450のどちらが有利なのかと問われたらどうでしょうか。実は最高速はあまり変わらないものなので、スピードをキープして加減速の少ないライン取りができれば、250でも450より速く走れるでしょうね。

日曜は全体的に乾いて路面がしまってきたので、テクニックの差がなくなったかもしれませんが、富田は圧倒的な勝利を収めました。思い通りのレースができたと思います。勝因としては、ホールショットを取れたことが大きい。もともとスタートが得意なライダーですし、特になにを変えたということもありません。最近よくあるパターンですと、田中雅己選手がスタートから飛び出し、1周目に富田が前に出るというのがありました。今回はスタートのよさに加えて、序盤から後続を引き離して独走という形を作れたことがよかった。特にコーナリングスピードが、他のライダーよりも速かったですね。

事前テストの際には、またライディングコーチのベン・タウンリー(2004年FIM MX2チャンピオン・2007年AMA SXライツ東部チャンピオン)を呼んで、細かい走り方をアドバイスしてもらいました。具体的にはコーナーのライン取りだったり、リズムセクションのここは飛んだ方がいいとか、飛ばずに手前に合わせた方がいいとか、そういった内容です。タウンリーの乗り方は、流派としては概してヨーロピアン的ですね。ワイドオープンではなくてスムーズというか。事前テストからレースまでは2週間あったので、今回は残らずに帰国してもらいました。彼もまだまだ現役ライダーですし、地元のニュージーランドやオーストラリアでのレース日程もありますから。