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全日本モトクロス2015 Team HRC現場レポート

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vol.22 小方がダブルウインで大会制覇 IA2では富田が総合優勝

小方がダブルウインで大会制覇 IA2では富田が総合優勝

全日本モトクロス選手権シリーズ 第3戦(5月17日・広島・世羅グリーンパーク弘楽園)で、Team HRCは両クラスの頂点に立ちました。レースリザルトは小方誠選手(#2・CRF450RW)=IA1完全優勝(1位/1位)、成田亮選手(#1・CRF450RW)=IA1総合5位(5位/5位)、富田俊樹選手(#317・CRF250RW)=IA2総合優勝(2位/1位)。今回の現場レポートでは、Team HRCの芹沢直樹監督に第3戦を振り返っていただきました。

今大会で一番の成果は、小方が初めて達成したピンピン(1位/1位)でしょう。広島は去年も優勝経験のあるコースなので、本人には得意意識があったはずです。チームとしても小方が勝つならここだろうという予感はありましたが、両ヒート勝つとは予想以上の成果でした。

レースの内容的には押すところと引くところがあり、今までにない走り方をしていました。今までの小方は、いつでもどこでも常に攻め続ける傾向があって、そのうちにミスをして自滅したり、隙だらけになって抜かれたりしていました。今回はコーナーのイン側を走るなど、クレバーなライン取りができていた。具体例としては、世羅の下りの先の右〜右コーナー、その先に控えるスリバチ状の左コーナー、リズムセクション後の左コーナー、こういったところでイン側のラインを我慢強くトレースしていました。

実はイン側をキープするのは、ストレスがたまることなんです。ライダー心理としては、スピードを落としてインにつくよりは、スロットルを開けてアウトを回った方が速く走っている気がする。インでもアウトでも結果が同じならどちらを通ってもいいのですが、明らかにイン側の方が速いところがあれば、チーム全員の共通意識として徹底していました。

ただ、イン側を推奨するにしても曖昧なアドバイスではなく、絶対にインの方が速いと確信できるような材料を揃えました。事前テストで細かく分けた区間タイムを解析し、客観的な説得材料としてライダーに示しながら、コンセンサスを得ていました。もちろん事前テストとレース本番では路面状況も違いますし、競り合う相手の出方などもありますから、その辺を踏まえて常に修正しながら情報を与えていました。成田も富田もそうですが、特に小方はライン取りの面で作戦を生かしてくれましたね。

イン側のラインを多用すると、ストップ&ゴーの繰り返しになるので、体力的に辛い面もあります。疲れてくると減速せずにアウトを走る方が楽です。日本と欧米のコースを走ったインプレッションを比較すると、日本の方が平均スピードが遅いのに疲れる。アメリカやヨーロッパのダイナミックなハイスピードコースの方が、意外と疲れないものなんです。そういうイメージも大事なので、富田に対しては自分にとって気分がいいラインで走ることも大事だよとアドバイスしていました。

小方がここでピンピンを決められたのは、練習でできているのに本番ではうまくいかないということがなくなり、終始一貫してできるようになったからです。そのきっかけの一つとしては、スタート成功率がアップして、レース中の余裕につながっていることが挙げられます。今まではスタートに自信がなくて、失敗しては抜かなきゃいけないと焦り、ミスを連発するパターンでしたが、やはり序盤から前に出られると余裕が違うようです。

スタート向上に関して、ハード的なサポートは特にやっていません。それよりもシーズンオフにニュージーランドに行って、ベン・タウンリーの特訓を受けてきたことが大きかったのではないでしょうか。タウンリー仕込みのスタートテクニックが、実を結びつつあるようです。頭の位置がブレなくなったりと、改善された点がいくつかあるのですが、これ以上は内緒ということで……。

小方にとってはランキング同点首位で臨んだ第3戦広島でしたが、今回の優勝によって単独のポイントリーダーになりました。首位は過去にも経験があることですが、今回はピンピンでそれを勝ち取ったというのが大きい。今後のカギは引き続きスタートの精度を保つこと、そして去年のようにシリーズ後半で乱調を起こさないこと。今のところは乗れているので必要ありませんが、チームとしては突然のスランプにも対処できるように、今回のデータから使っている領域を解析して、いつでもトスできるように準備する予定です。

成田に関しては、前回の川越が7位/10位、今回の広島が5位/5位ということで、硬質路面に対する苦手意識がより強く出ていました。本人もそれは認識していて、川越から広島までのインターバルには自分から中部選手権に出場したり、硬質路面を乗り込んで準備していました。今回は予選の走りは悪くなかったし、決勝でも悪くはなかったんですが、やはりホールショットが取れていないし、いつもの成田でなかったことは確かです。小方と比べるとスタートの精度がもう一歩なので、データを見ながら修正案があれば提案したいと思っています。

川越ではフープスを攻略できず、マシンとライダーの一体感という点では限界値が低かったかなと思います。一時期の成田は勝利とか全勝とか結果にこだわりすぎて、負ければ歯ぎしりするような傾向がありましたが、今年はいい意味で達観しているというか、気負いがない。悔しくないはずはないでしょう。ただ、現状ではポイントリーダーでもないし、気持ちを入れ替えてチャンレンジ精神で行こうよと、そういう話をしています。

成田の経過を簡単に振り返りますと、昨シーズン終了後は足のピンを抜く手術をしたために乗れず、年明けから乗り始めて1ヶ月で鎖骨を折り、3月から再始動したところという感じです。鎖骨の状態は完治とは言えませんが、医師の判断でバイクに乗るには問題ないという状況。鎖骨がライディングに影響を与えているというよりも、乗り込み不足のまま開幕を迎えてしまったというのが大きいと思います。

開幕から3戦消化して、IA1クラスではウイナーが成田、新井選手、小方と3人出ています。さらに未勝利の熱田選手もしぶとく上位にいて、チャンピオン争いは混沌としている。今年のIA1を制するためには勝ちにこだわるのも大事ですが、大きな失敗を避けながら高得点を揃えることも大事になりそうですね。成田にとっては、地元の菅生がまだ3戦残っていることが自信になっているでしょう。ただし菅生は熱田選手にとっても地元だし、他にも菅生を得意とするライダーは多いので楽観はできません。

IA2の富田に関しては、3戦連続総合優勝なんですが、2位/1位という成績には本人もチームも満足していません。決して絶好調ではない竹中選手をぶっちぎることができなかったのはなぜか……。ヒート1では腕上がりもありましたが、いつもの富田らしい走りではなかったので、ハードとソフトの両面から原因を究明したいと思っています。ヒート2では特にトラクションのかけ方がよくなかった。普段はもっとマシンを進めるのが上手いライダーなんですが、乗っている位置がいつもより少し前寄りでリアに体重が乗っていませんでした。

今回の結果をタウンリーに報告すると、彼も不満そうな様子だったので、今度の菅生の事前テストで何かアドバイスがあれば聞いてみたいと思います。富田のスキルは高いので、それをどうやって引き出せるかということだけでしょうね。ヒート2では最終ラップで竹中選手を抜いたので、勝負強さは評価したいと思います。

富田車のハードとしては、サスセッティングの見直しと、エンジンにも少し足りないところがあると認識しています。次戦までに対応できるのはセッティング程度になってしまいますが、車体に関してはもう少しトラクションを向上させるようなトライをしようと思っています。

開幕からの3戦を振り返ると、両クラスともランキング首位なのでリザルト的には順調だと思います。あとは成田をどこまで持ち上げられるかというのがテーマです。両クラスともランキングが固定化しているわけではないので、ポイントリーダーの座も安泰ではないし、成田の5位(小方から21点ビハインド)も諦めるポジションではない。私自身も含め、彼と一緒に走ったことのあるすべてのライダーが分かっていることですが、前にいるライダーの背中を捕らえたときの成田選手の強さと速さは、単独走行しているときの比ではありません。今度の第4戦菅生で少し光明が見えてくるはずです。