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全日本モトクロス2014 Team HRC現場レポート

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vol.16 終盤戦へ向けて

終盤戦へ向けて

シリーズのクライマックスに差しかかった全日本モトクロス選手権に、各ライダーはどんな準備をして臨んだのか……。そして、第8戦広島(世羅グリーンパーク弘楽園)、最終戦菅生(スポーツランドSUGO)への展望は……? 今回の現場レポートでは、Team HRC所属ライダーの近況をお伝えします。

●成田亮選手
「鎖骨骨折の痛みを乗り越えて」

8月に行ったアメリカで転倒し、鎖骨を折ってしまいました。モトクロッサーによってではなくて、マウンテンバイクが原因です。ダウンヒルでコースアウトして右肩から着地したとき、以前に経験したことがある感触だったので、「これはヤバイ」と思いました。その後グレンヘレンで練習したときには痛くて走れなくて、帰国してからは練習せずにじっとしていました。

最初に診てもらった病院では、レントゲンに写らないので折れていないとのことでしたが、別の病院でCTを撮ってみたら、何年も前にプレートで橋渡しした部分が骨折していました。ずっと前に和寒で折ったときのプレートが、入れっぱなしになっていたんです。本当だったら治ったあとに抜きたかったのですが、シーズンオフにマシンテストやアメリカキャンプがあると、手術をするタイミングがなくて……。今回は、そのプレートで辛うじてつながっている状態で、本来なら再手術が必要なのですが、日程的に無理なのでこのまま参戦を続けることになりました。

名阪(第7戦・9月14日)には、事前テストと富田選手の地元のコースで1回練習しただけで臨みました。まあまあ乗れたのはよかったけれど、プレートがどこまで持つのかわからないこともあり、心配でした。乗れるとか乗れないよりも、精神的にまいっていました。せっかくアメリカでいいコンディションに仕上げてきたのに、帰国後は全く練習できていません。やっぱり毎日練習するのが好きだし、そうやって調整してきたので、乗れないまま本番を迎えるのは不安でした。マシンに乗りながらの体力作りという面もあって、一例を挙げれば、乗っていないと手の平のマメも薄くなってしまうんです。それ以外にもいろいろと不安要素があって、名阪ではとてもいら立っていました。

骨折の件はだれにも打ち明けていなかったんですが、芹沢監督にだけは伝えてありました。LINEで「実は鎖骨が折れていました」と伝えると「えー! 嘘でしょ! テストで乗ってたじゃん」と返されました。確かに名阪の事前テストでは、チーム内で一番タイムが速かったんです。いつもは一番遅いのにあり得ないタイムだったから、監督も後々「折れていた方がいいんじゃないか?」とあきれてました。

名阪ヒート1では優勝できてうれしかったことは確かですが、体力を使いすぎたなという感じはありました。客観的にはすごくいいレースを見せることができたと思います。ヒート2ではスタートで遅れて、平田選手が前にいたのは分かったんですが、自分の周りのライダーのライン取りを用心しすぎてしまいました。1〜2周目のペースが遅くて、その間で平田選手に逃げられました。そこから先は体力がなかったので、追い上げられませんでした。悔しかったけれど、変なポイントロスもなかったので、それはそれでよしとします。

このあとにはラトビアでのモトクロス・オブ・ネイションズ(9月28日)、広島(第8戦・10月5日)、菅生(最終戦・10月26日)と大事なレースが控えています。日本代表として期待を裏切らない成績を残すこと、そして全日本チャンピオンを獲り続けること、どちらも簡単なことではありませんが、いつも通りに集中して上を目指すだけです。そうしたら結果は自然に付いてくるものです。

  • 成田亮、小方誠
  • 成田亮、小方誠
  • 成田亮
  • 成田亮
  • 小方誠
  • 富田俊樹

●小方誠選手
「最後まであきらめずに戦います」

終盤戦に対するモチベーションはとても上がっています。ランキング首位の成田さんとは55ポイント差ですが、何かがあれば追い付けるかもしれないと思っています。マディの最終戦でドラマが起きた昨年のように、逆転のチャンスがないわけではありません。

昨年は1ポイント差でチャンピオンを逃してしまったのですが、どこで落としたのかと考えました。第7戦名阪で優勝できそうだったのに、星野優位選手に敗れて2位だったこと。あるいは第8戦川越でスタート直後に転倒して9位だったこと。この2レースでの失点が響いたのだろうと思っています。昨年の名阪では大会直前からウイルス性の胃腸炎になり、レース後には戻してしまうほどの不調でした。ライディング的には好調だったのに、健康管理で負けました。だから今年は同じような失敗を繰り返さないように心掛けています。

菅生(第6戦・8月3日)の後は、少し身体を休めてから、ダウンヒルやトライアルで二輪車に乗る感覚を磨きました。それから名阪で2週間集中して練習。ひたすら走り込む毎日でした。名阪へはコースターで自走して、車中泊です。近くのホテルに泊まることもありますが、コースのそばや移動中のパーキングで寝る方が面倒くさくないので、好きです。

ファクトリーチームなら必ず事前テストがありますが、僕の場合はそれだけでは気が済まなくて、レースが開催されるコースでなるべく長く走り込みたい。しっかり準備することが自信につながるし、自分はパッと来てぶっつけ本番で走れるようなライダーではありません。その気持ちはほかの人より強いかもしれません。レースで結果を出すことが仕事なので、練習することもその一部だと思っています。

僕は仙台と大宮に部屋を借りているのですが、モトクロスを最優先に考えた結果です。仙台では6月から10月までウイークリーマンションを契約しています。これは菅生(第4戦・6月8日)、藤沢(第5戦・7月20日)、菅生(第6戦・8月3日)と東北のレースが続いたことと、成田さん、熱田選手、勝谷選手という練習相手がいるからです。菅生と藤沢以外にも近くにいい練習コースがあるし、仙台はモトクロスに没頭するには最適の場所です。

もう1カ所の拠点を大宮にしたのは、練習車の整備でHRCへ行ったり、新幹線で移動するのに便利だからです。実家は相模原なんですが、新横浜や東京駅まで出るのが遠くて不便だし、たまに荷物を取りに帰るぐらいですね。移動に時間をかけるくらいなら、コースのそばで寝起きした方が集中できる。だから名阪にも長期滞在したし、最終戦前にはまた仙台のマンションに戻って、菅生で走り込むつもりです。

今シーズンの見通しですが、とにかく前を走らないといけないですね。勝てるレースは全部勝って、最後まであきらめないことです。天気次第でコンディションがどうなるか分からないし、昨年は本当に1ポイントの重みを痛感したので……。最終戦にはクーパー・ウェブ(AMAモトクロス250MXでランキング3位の実力者)が来るそうですが、一緒に走ったことがないので、どうなんでしょう。でも、楽しみですね。

  • 富田俊樹
  • 田中雅己
  • 田中雅己
  • 田中雅己
  • 田中雅己
  • マッドグリップ

●田中雅己選手
「スランプから抜け出し自分らしく走れるようになってきました」

菅生(第6戦・8月3日)では今年初めて表彰台に立つことができて、少し気分が変わりました。今シーズンのIA2はトッチ(富田俊樹選手)、勝谷武史選手(カワサキ)、竹中純矢選手(スズキ)がずば抜けている中で、自分もそこにいなければいけないのに、セカンドグループにすら入れないでいたスランプから、ようやく脱出することができました。

その後の夏休みには、地元であり第7戦の会場でもある名阪を中心に走り込んでいました。菅生から採用した新しい仕様に慣れるため、たっぷり時間をかけました。僕は不器用な方だし、いいところを見つけてからでないと走りが決まらないライダーなので、ひたすらマシンのフィーリングを確かめながら乗り込んでいました。

以前はレース中にコンディションが変わると、その変化についていけないところがあったんです。ハンドルを握りしめて、目の前のギャップばかり見ていました。今の最新仕様だとマシンの動きが読めるので、どんな状況になっても対応できる感じです。乗っていて楽しいし、視野が広がりました。周りにだれがいるのかなど状況がよく見えるようになり、2〜3コーナー先まで読んで走れるようなりました。今の仕様が好みに合っていますね。

この1年半、なにも噛み合わなくて、なにも信じられなくなっていたので、上位争いができるようになってうれしいです。もちろんそれだけでは満足していませんが、これまで悩みながら取り組んできた自分のやり方が、間違っていなかったと確認できたのが大きい。プラスに考えれば、スランプの間はなんでも吸収できる時期だと思って、いろんなトレーニングを取り入れましたし、昔やっていた練習方法を思い出したりしていました。

昔は常にスロットル半開で速く走れる練習をしていました。プライベート時代はマシンを大事にしなければならなかったので、そういう走り方になったんです。高めのギアで半開をキープして流していると、全開〜ブレーキング〜全開〜ブレーキングを繰り返すよりも結構速く走れるんです。コーナーのつながりもよくなるし、タイヤの接地感やサスペンションの動きも含めた車体のフィーリングがつかみやすく、いろいろと発見が多いんです。レースになったら、その半開走法よりも少し開けるだけでいいし、リスクの少ないストレートで勝負すればいい。2年前まではそうやって勝ってきました。

Team HRCに入ってからは、タイムを気にするように言われて、練習時から全開で攻めることが多くなりました。海外では予選がタイムアタック方式で行われることもあるし、その辺も視野に入れながらタイムを意識するようにしてきたんですが、僕はどっちかと言うとじっくりと慣熟してからでないと決まらないタイプなので、走りがギクシャクしていたようですね。

名阪(第7戦・9月14日)では、地元ということを意識して少々力みすぎたようです。レースは結果がすべてですが、自分のスタイルを崩さずに楽しめるようになってきたので、この流れを維持して優勝を狙っていきます。

  • 富田俊樹
  • 成田亮
  • 成田亮
  • 小方誠
  • 富田俊樹
  • 富田俊樹

●富田俊樹選手
「V9チャンピオンと一緒に行ったサマーキャンプの成果」

夏休みには成田さんと一緒にアメリカに行って、3週間みっちりと走り込んできました。もともと一人で計画していたようなんですが、「アメリカ行くぞ!」と誘われたので、同行させてもらいました。夏に渡米するのは初めてだったし、日本に残って名阪を走り込んだ方がいいんじゃないかという考えもありましたが、せっかくV9チャンピオンが誘ってくれているんだし、こんなチャンスを逃す手はないと思って決断しました。

アメリカでは、Team Troy Lee Designsの城谷さんの家でお世話になりました。成田さんは僕とは別でホテル暮らしでしたが、大きなバンに練習車を2台積んで、週4日のペースで走りに行きました。練習コースは、グレンヘレン、コンプエッジ、マイルストーン。成田さんの後ろをつけてみたり、アメリカンを追いかけてみたりといった感じで、練習量としては1日3ヒートぐらいですから、日本にいるときとあまり変わりません。ただし、カリフォルニアは天気がいいので、雨で中止ということがないし、すべてが計画通りに進むので気持ちがよかったです。

シーズンオフにアメリカで合宿したときには、トップライダーがスーパークロスの練習に専念していて、モトクロスコースにはいなかったんです。今回はアウトドアモトクロスのシーズン中だったので、コースに行くと速いライダーが大勢いました。ジェイソン・アンダーソン、コール・シーリー、ブレイク・バゲットなどと一緒に走れたので、いい練習になりました。マッスルミルクのテストに合流させてもらった日もあって、そこではフレドリク・ノリアンと一緒にヒート練習したり、めちゃくちゃ恵まれた環境でした。

そのほかに時間を割いたのがマウンテンバイクで、滞在期間中で乗らなかったのは1日だけでした。カリフォルニアではマウンテンバイクが流行っているらしく、コースがあちこちにあるんです。コースによりますが、40分かけて登ってダウンヒルを下ったり、延々と登り下りが続く山道とかいろいろあって、いろんなコースで半日こぎまくりました。

自転車は成田さんが2台持っていて、その1台を貸してもらいました。冬の合宿には寒い日本を離れられるメリットがありますが、今回の夏合宿は短期間に集中してトレーニングできたのがよかったと思います。その効果が名阪で表れました。身体のどこかが強化されたというよりも、これだけやってきたんだという自信ですね。とにかく強制的にこがされたので、成田さんと城谷さんの指導のおかげです。

実はアメリカの広いコースで練習していて、帰ってから名阪を走れるんだろうかって心配がありました。8月末に帰国してすぐに名阪で事前テストがあったんですが、やっぱり狭くて開けられない。一瞬不安になりましたが、タイムを見ると悪くなかったので、まあ大丈夫かなと安心しました。

名阪(第7戦・9月14日)では、初めてドライコンディションで1勝できたのがうれしかったです。これで「マディの富田」と言われなくなるかなと。ヒート2も勝ってピンピン(両ヒート制覇)も取りましたが、偉そうですけれど自信はありました。残るレースは広島(第8戦・10月5日)と菅生(最終戦・10月26日)。ポイントリーダーの勝谷選手とは20点差ですが、とにかくベストを尽くせば逆転できると信じています。

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