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全日本モトクロス2014 Team HRC現場レポート

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vol.12 第3戦までの分析

Team HRC 芹沢監督代理に聞く

4月に開幕した全日本モトクロス選手権は、早くもシリーズの3分の1を消化しました。IA1クラスでは成田亮(#1)、小方誠(#2)がポイントランキング1〜2位を独占中。IA2では富田俊樹(#1)が2位、田中雅己(#113)が6位につけてランクアップを狙っています。今回の現場レポートでは、Team HRCの芹沢直樹監督代理にシリーズ序盤の3戦を振り返っていただきました。

IA1は現在ゼッケン通りの1-2なので、目指していたところではあると思います。成田選手は開幕戦熊本(HSR九州)、第2戦川越(オフロードヴィレッジ)と4連勝。ディフェンディングチャンピオンですから驚きではありませんが、期待された通りの結果をきっちりとそろえるのはさすがです。第3戦広島(世羅グリーンパーク弘楽園)では、小方選手も今季1勝目を挙げましたし、この2人でタイトル争いをしてくれるだろうと信じています。

今年の成田選手は意識を変えて、従来とは違ったシーズンオフの取り組みをしてきました。昨年のようにスーパークロスに出場したりせず、冬の間は全日本連覇に特化した準備をしました。練習やトレーニングなどはもちろん万全ですが、マシンテストのときのロングランも積極的に行っています。テストにはセッティング変更がつきものなので、比較的短時間の走行を繰り返しますが、仕様が決まってから30分+1周を走るのがロングラン。もちろん以前から行っていることですが、今年は特にタイムを意識してレーシングスピードを維持する走行時間が長いので、非常に濃い練習になっています。Team HRCに来て3年目の成田選手ですが、今年は一番乗り込んでいるんじゃないでしょうか。フィジカル的にも過去最高の数値です。

広島は苦手というほどではありませんが、成田選手にとっては過去にケガをしたり連勝が止まったりした場所なので、チームとしては少し意識していました。常に全勝を目指すのが成田選手のスタイルですが、なにがなんでも勝たなければいけないという考えは置いておこう……という話をしていました。2位/2位でも3位/3位でもいい。まずはケガをしないことが大事で、たとえスタートでクラッシュしたとしても、6位あたりまでは楽にばん回できるのだから焦らずにいこう……と。

ヒート1の序盤、6番の左コーナーでスリップダウンしましたが、散水ポイントで滑っただけなので深刻なものではありませんでした。3位までばん回しましたが、成田選手が「思ったよりも追い上げられた」と言うように、あの転倒がなければ勝っていたでしょう。対照的に、ヒート2では転ばなかったのに5位でしたが、ヒート1の走行中に腰を痛めたので無理できませんでした。途中で他車と接触した際にフロントフォークのカバーがもげてしまい、ペースを上げられなかった事情もありました。成田選手は人一倍負けず嫌いですし、勝てなかったことは悔しいでしょうけれど、ポイントリーダーの位置をキープしているわけですから悪くありません。

次に小方選手ですが、開幕当初は表彰台を2つそろえられないパターンが続きました。熊本では4位/2位、川越では2位/11位と片方を落としています。しかし、第3戦広島では1位/2位の総合優勝。ランキング的には成田選手に接近中の2位ですからいい流れですし、成長が感じられるようになりました。これまでは後ろからいいペースで上がってきたのに、前のライダーに追い付くと同じペースになり、抜けないままレースが終わってしまうことがありました。熊本も川越も表彰台をゲットした方のヒートは、前のライダーをうまくスイスイと抜いた結果で、そのあたりに成長を感じます。

今までは、特に序盤の10分までにペースが上がらないことが多く、それが小方選手の弱点であり課題でした。広島の経過を見ると、両ヒートとも15分までにはみんな抜いてきていたので、課題に取り組んだ結果を形にできたと思います。小方選手には練習のときから「最初の10分でトップスピードを出す」「前のライダーを抜くためにはラインを工夫する」というテーマを与えています。乗れていないときは、ラインを変えずにずっと同じところを走っていることが多いのですが、そのままではだれも抜けません。ベストラインとパッシングラインは違うのだということが分かっていても、レースになると実行できないこともあります。だから、序盤でも仕掛ける走り方を普段から意識してもらうようにしています。

IA2については、3戦消化時点のランキングで2位にいる富田選手は、我々が望んでいた通りの走りをしています。ただ、ポイントリーダーの勝谷選手が、想定以上の速さを発揮しているということだと思います。富田選手と田中選手はアメリカ合宿に行きました。1回テストしてすぐに渡米したので、富田選手の場合はマシンテストに費やした時間が短かったかもしれませんが、乗ってもらいたい仕様は事前に決まっていたので、1回確認して「いいですね」ということで渡米しました。帰国後はアメリカで乗ったマシンとの差があるだけで、基本的に最初に乗った仕様が好印象のままシーズン開幕を迎えることができました。

富田選手は今年からTeam HRCの一員になったのですが、以前よりも上手になった感じがあり、すごくきれいに乗るのが印象的でした。フィジカル的には思ったよりも強く、チーム内で一番だった小方選手に勝るとも劣らない体力の持ち主です。今まで大きなケガをしてきたライダーなのに、ケガをしそうにない走り方をしています。ライディングの特徴としては、つまらない転倒が皆無で、それがレース結果にも表れていると思います。熊本が3位/3位、川越が2位/2位。広島のヒート1では表彰台を逃しましたが、原因や対策についてはしっかりとディスカッションをしました。

田中選手はTeam HRCに入って2年目ですが、まだ本来のポテンシャルを発揮できていません。熊本ヒート2の前半や広島の予選ではいい走りをみせてくれましたが、リザルト的には田中選手らしくない。アメリカ合宿でもジェフ・ペスターナに「全日本で勝てる」と太鼓判を押されたのですが、その乗り込みの成果を日本で発揮できないのは、チーム側になにか問題があるのではないかと検証しているところです。それがハードなのかソフトなのか、あるいは両方の複合的要因かもしれないので、一つずつ取り組んでいます。

ハード的には、富田車と田中車には微妙な差があります。サスペンションも違うし、マフラーも違います。エンジンは中高速を多用する富田選手に対し、田中選手は昨年から低速寄りの特性を好んで使用中ですが、低速型エンジンにもう少し中速をプラスしたり、向上するようなタマを入れられるように開発側と検討しています。サスペンション的にも、よりよいセッティングを模索中です。ソフト面では、練習のしかただったり、取り組み方が間違っていないか見ています。だたやみくもにやってもだめで、今回の反省点から次回までにこれをやろうという課題を見つけ、一つずつクリアしていけるようにしています。田中選手はランキング6位に踏ん張っていますし、今後はトップ争いをしてくれるはずです。

首位の勝谷選手と富田選手の差ですが、明らかにスピード差があることは真摯に受け止めています。ベストラップで1〜2秒落ちだったり、20周のゴールタイムでも20秒差だったりするので、これを詰めるには少しずつプレッシャーをかけていくしかない。勝谷選手の場合、公式練習のときからタイムを意識した走りをしているので、こちらもタイムを出して揺さぶっていくのが効果的だろうと思っています。富田選手だけでなく田中選手も同様です。勝谷選手とはHRCでチームメートだったことがあるので、よく分かるんです。タイムが出ているときは気分的にも絶好調なんですが、必死にタイムを出しにいったのに自分よりも速いライダーがいると、割と簡単にヘコむし、そういう意味では分かりやすいライダーだと言えるかもしれません。

あとは、そろそろ雨が降ってマディになりませんかね。富田選手は雨づくしだった昨シーズンのチャンピオンですから、マディコンディションで他車と比較してみたいものです。雨が続くのは困りますが、形勢が変わるきっかけになればいいと考えることがあります。

私が子どもの頃は東福寺さんがTeam HRCのエースでしたが、ライダーだけではなくメカニックもカッコよくて、憧れていました。ライダーとしてHRCに入り、監督代理になった今、私はメカニックやエンジニアも含めて、チーム全体が目標とされる存在でありたいと思っています。実際ここにはゼッケン1番のマシンが2台あるわけですから、目標になって当然です。ただ、1番を維持するには、維持するためだけの努力では足りません。アメリカを目指して速くなった成田選手が、全日本チャンピオンになってもスーパークロスに挑んでいるように、チャレンジし続けることが大事だと思います。

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