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全日本モトクロス2014 Team HRC現場レポート

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vol.11 ワークスマシン

ワークスマシン「CRF450RW」「CRF250RW」

今シーズンのTeam HRCは、IA1に成田亮(#1)、小方誠(#2)、IA2に富田俊樹(#1)、田中雅己(#113)という最強の布陣で臨んでいます。今回の現場レポートでは、各々のクラスに投入されたCRF450RW・CRF250RWについて、ファクトリーマシン開発責任者の横山泰広氏に解説していただきました。

今季はCRF450RW×2台+CRF250RW×2台という4台体制ですが、昨年から再開した250を増強して、バランスの取れた形になりました。やはり各クラスに2台ずつあれば、異なる仕様を同時に試すことなどが可能ですし、開発面でのメリットがあります。マシン名に「W」を追加したのは、今年から世界選手権MXGPにおけるワークス活動を再開したことからです。「ワールドのWなのでは……?」と問われることもありますが、あくまでもワークスのWです。

近年の開発サイクルとして、2012年の成田車(CRF450R)、2013年の田中車(CRF250R)で新設計フレームとデュアルエキゾーストを採用したフルモデルチェンジを行ってきたこともあり、今年は大きな変化ではなく熟成を図る年になります。450も250も自由自在に操れる操縦性がテーマでした。これから進むべき方向性を昨年定めましたので、剛性、強度、耐久性といった基本的な要素を確認しつつ、攻め所を見極めています。

CRF450RWの詳細については、昨年は成田車と小方車に相違点がありましたが、今年の開幕戦からほぼ同等にそろい、一例としては排気系のレイアウトが右出しになりました。小方車のエキゾーストパイプには、湾曲部の内側をショートカットするような経路を追加してあります。一般的な例としてパイプの途中に膨張室を設け、出力特性を調整するものなのですが、同等の効果が得られるならシンプルでコンパクトな構造の方がベターです。また、成田車には油温対策としてオイルクーラーを装備しています。

車体は、これまでの長所を踏襲しつつ、剛性バランスやジオメトリーの微調整などを行っています。目的としてはトラクションを向上させるにはどうすればいいのか、そのためには加速時の荷重をどのように設定するか、といったテーマを追求しているところです。

CRF250RWは今年から2台体制ですが、以前から増やしたい意向はありました。将来の250を先行開発する目的からしても、2台あればいろいろと試すことができます。昨年の田中車をベースとして、さらに発展させたのが今年の2台です。車体では、450と同じ方向性で大きな違いはありません。エンジンでは、やはり250の方が動力性能の要求がシビアです。特にアメリカやヨーロッパ向けのCRF250Rではパワーの絶対値を上げることを目指してエンジンの諸元、PGM-FIセッティング、吸気系から排気系に至るまであらゆるトライをしています。

マフラーは自社製を中心にいろいろ試しているところで、中にはサプライヤーから提供されたマフラーもありますし、我々が購入した物もありますし、それが既製品だったり専用設計だったりするので一概に言えません。チタン製タンクは昨年から変わっていませんが、今年は表面に色を着けています。レインボーカラーとでも言いましょうか、アルマイトのような処理をしています。

足回りに関しては、SHOWAとKYB(カヤバ)の2社からの協力を受けていろいろなトライをしています。例えばフロントフォークを比較しますと、成田車がSHOWAの従来型スプリング式フォーク、小方車と富田車がKYBのPSF2(ニューマチック・スプリング・フォーク2)、田中車がSHOWAのSFF AIR‐TAC(セパレート・ファンクション・フロントフォーク・エア トリプルエアチャンバー)と異なります。ライディングスタイルの違いに合わせていることと、量産車への採用を視野に入れた最新技術の実証という両面があります。

エアサスペンションには、軽い、作動性がいい、乗り心地がいい、などメリットは多々ありますが、フロントフォークには懸架だけでなく操舵という役目もありますので、さまざまな要素を総合的に判断することが大事です。また、今はブームになっているエアサスですが、もしかしたら、劇的に進化したり、どこかで進化が鈍ったり止まったり、技術の壁に遭遇することがあるかもしれません。そんな状況に備えるためにも従来型のスプリング式フォークの開発も続けておかなければなりません。もちろん現在は進化の途中です。

今季のTeam HRCでは全日本とMXGPで共通のエンジンと車体を使っています。開幕当初のカタールGP、タイGP、ブラジルGPには間に合わなかったのですが、第4戦のトレンティーノGPから成田車、小方車、ナグル車、バブリシェフ車が同一仕様にそろいました。MXGP仕様は排気系がテルミニョーニ製だったり、ライダーの好みに合わせたセッティングの部分が違う程度です。ワークスマシンのアップデートは基本的に日本国内で先行し、それからワールドに投入して戦闘力を確かめるという流れでやっています。MXGPは日程が過密なので、テストをする機会が少ないからです。現地には日本から派遣したHRCのスタッフもおりますし、新しい技術を投入したりそのフィードバックを得たり、コミュニケーションのスピードが格段に上がりました。

例えば国内のテストで成田が「いいぞ」と言えば、その日のうちにヨーロッパに伝わり、事前に送ってあった同じパーツをナグルとバブリシェフがテストするというようなタイムリー性が実現します。もちろん、この逆のパターンとして、ナグルが勝ったときのパーツを成田や小方に試してみようといったこともあり得るでしょう。ナグルとバブリシェフは、シーズンオフの合同テストで日本のライダーと交流を深め、リスペクトし合っていますから、お互いに他方で得た情報を尊重しながら情報を共有しています。もちろん、MXGPと全日本モトクロスの両チームをHRCが運営しているからこそできることです。

250についてもTeam Gariboldiにワークスマシンを貸与しているので、同様のハード的交流が期待できます。 MXGPにおけるワークス活動を再開したのは、全日本モトクロス以外にもう一つ最高の舞台でしのぎを削る機会を求めたからです。主催者のユースストリームが世界選手権モトクロスから「MXGP」と名前を変えて注力していますし、我々Hondaとしてもモトクロス活動を広げていきたい、世界中のより多くのお客さまにモトクロスを楽しんでいただきたいという強い思いを持って復帰しました。開発面でのメリットももちろんありますが、ワールドワイドカンパニーとして世界に向けて発信できるのがMXGPの舞台だと信じています。さらに大きなマーケットとしてはアメリカがありますが、AMAはプロダクションルールという市販車ベースのチューニングで競われています。スーパークロスやモトクロス、オフロードバイクの盛んな文化がある国ですので、AMAの活動も重要です。

日本発の技術がMXGPで磨かれて市販車が生まれ、アメリカでブラッシュアップしてまた技術が我々にフィードバックされる。この好循環によって、CRFシリーズのポテンシャルは日々向上しているのです。

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