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全日本モトクロス2014 Team HRC現場レポート

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vol.10 HSR九州

HSR九州がリニューアルオープン

全日本モトクロス選手権のレギュラースポットとして名高い、HSR九州(ホンダセーフティ&ライディングプラザ九州)が、このほどリニューアルオープン。高低差や拡幅などに加え、随所に工夫がこらされた新コースで行われた全日本モトクロス選手権開幕戦では、各レースで好バトルが繰り広げられました。今回の現場レポートでは、コースレイアウトを監修した佐合潔氏(本田技術研究所二輪R&Dセンター 熊本分室)に、生まれ変わったHSR九州について語っていただきました。

きっかけは成田亮選手からの要望でした。「昨年の開幕戦のコンディションがあまりよくなくて、雨が降ると滑りやすい、土の中から石が出てくるので危ない、レイアウトに変化が少ない……」という意見を受けて、Hondaがコース改修に向けて動き出したのです。モトクロッサーの開発拠点が朝霞から熊本に移り、テストコースとしてのニーズが高まってきたことも追い風になったのだろうと思います。昨年の10月ごろに初めて話があり、今回のコース改修を、HSR九州の皆さんと一緒に進めることになりました。

私は普段CRF250Rの開発に携わっているので、マシンをテストする際にコースレイアウトを担当し、たとえば「エンジンの高回転域をテストするためにはストレートの長さがこのくらい必要だ」というようなことをやっていたのです。熊本分室に転勤してきたのもなにかの縁ですし、製作所の敷地内にあるHSR九州のレイアウトに自分のアイデアを反映させたいと考えていたところでした。

監修を任せられるとすぐに、現状の航空写真をベースにして、レイアウトをこう変えたいという図面を起こしていきました。テーマとしては、まず第一にアップダウンを作りたかった。モトクロスは本来、山の中を走る競技ですし、国内のコースとして評価の高い菅生や藤沢には必ずアップダウンがあります。比較的平坦なHSR九州でも、高低差を演出することができればと考えました。現在ビッグテーブルトップがある先の低地を、どこまで下げられるか、そこから折り返して来る登りの先にどれだけ高い山を作れるか、そういうことを組み合わせて、従来はなかったアップダウンを創出しました。

次に滑りやすいと言われている土質改善として、大量の山砂を入れることにしました。やっぱり走っていて楽しいのは、思いきりアクセルを開けられることじゃないですか。滑らないようにビクビクしているようではストレスもたまるし、見ているお客さんもつまらない。さらに、テスト要件としても、エンジンに負荷をかけられる路面が必要だったので、山砂の導入はみんなにとってメリットがあることでした。以前の硬い路面だとすぐに5速に入ってしまい、かなりスピードが出ましたが、山砂によって3〜4速を多用するような設定にしてあります。サンドコースの方がパワーが食われてスピードは落ちますが、それでもアクセルを開けながら加速していく過程がおもしろいのです。

そんなことを考えながら私が描いたラフを専門家が3D化したり、地盤改良や搬入する土の量などを見積もって、年明けから工事に着手しました。手順としては、まず全体的に50cmの深さで掘り起こして石を全部取り除き、それからコースの基盤を作っていきました。山砂だけでは形が崩れやすいので、ビッグマウンテンやジャンプなどのベースは元来の黒土に赤土を追加して作り、形が決まってからその上に山砂を敷き詰めました。コース前半はアウトドアをイメージしたサンドで、後半は3連ジャンプ、フープス、ステップアップなどが続くスーパークロス的なセクションになるので、黒土が比較的多く残っています。

フープスは一番やりたかったことの一つでした。まずコース幅と長さを十分に確保して、3台が並んで競り合えるセクションにしました。コース幅は10m、山の数は17個です。当初は10個にしたんですが、試走してみたら簡単すぎたので増やしたのです。フープスだけは形が重要なので、黒土にセメントを混ぜて固めてあります。1速高いギアを使ってスピードを落とさないように走れば速いけれど、1速低いと最初はよくても途中で失速する。先日の開幕戦では成田選手がずば抜けて速かったのですが、テクニックの差が出るようにという狙い通りの走りをみせてくれましたね。

サンドウェイブもテクニックが問われるセクションで、あちこちに作りました。フープスよりもっと緩やかなうねりの連続です。ライダーからは「もう少し山の間隔が近かったら飛べるのに」と言われたのですが、あそこは飛ばないでジェレミー・マクグラスのように加速してほしい。いかにリアタイヤを押し付けてトラクションさせるかがポイントなんです。ウェイブのピッチとしては、登りのウェイブが6個あるところでは、前半3個が8m間隔、後半3個は12m間隔にして、しかも左右で高さが異なるように作りました。フープスと同じで、絶対的なベストラインができないように、アウトでもインでもセンターでも同じようになるように工夫をこらしました。

山砂の量は場所によって違います。まず、スタートから30m先までは、40cmの厚みで敷きました。レース進行に余裕があれば、スタートごとにトラクターで掘り返してフカフカにするのが理想的。スタート直後の車速を落として安全性を高め、その上でハンドルを入れ合ったりする競り合いをしてもらいたいからです。アウトドアセクションはサンドを深くしましたが、ジャンプの飛び出し地点などは、黒土と赤土で固めた上に山砂をかけるだけで、着地側には山砂を20cmぐらい敷きました。さらに4連ジャンプの場合、2個目と4個目の着地点には山砂を20cm、1個目と3個目は通常は飛び越してしまうので5cmだけにしたりして、山砂の使用量を節約する工夫もしました。

コース幅の広さも理想に掲げた一つです。MFJの基準だとコース幅は6m以上とされていますが、今回のリニューアルを機会に最低でも10m以上にしました。広いところでは18mあります。1コーナーから先でコース幅が絞られるレイアウトはよくあるんですが、そうでなく、ずっと広い1コーナーの幅のままで、しばらく何台も並走できるような設定にしたかった。普通は4連ジャンプを飛んで右側を行くのが最短距離で速いんですけれど、右のライン上にはちょっと嫌らしいコブを作ってタイヤが浮くようにしてあります。一方で左側のラインはやや遠回りだけれど、タイヤが浮かないのでロスが少ない。結果的にアウト、イン、センターとどこを走っても同じで、そこから接戦が生まれるようにと考えました。

普通は、どこかが有利になってラインが固定してしまうものですが、ライン取りの選択肢が増えたために、どこからでも仕掛けられ、その結果バトルが増えるという好循環になりました。前を走っているライダーにとっては、どこから攻められるか分からないので油断できないし、追う方には逆転のチャンスがいくらでもある。デッドヒートがおもしろい開幕戦でしたが、コースレイアウトが貢献できたからだとしたら、うれしいですね。

2月上旬にはコースの大枠は完成していたんですが、そこからは試走しては手直しという作業の連続で、ジャンプやウェイブの距離、角度、高さといったことを微調整するのに1カ月半も費やしました。工事を指揮してくれた関係者の皆さんには、ずいぶんお世話になりました。工事が終わっているはずなのに、私が修正をお願いするものだから終われないという日々が続きましたが、妥協できない気持ちが伝わったのか、最後まで付き合っていただきました。開幕戦では雨によるコースへの悪影響が少なかったこと、そしてライダーにとって攻略しがいのあるコースであること、観客には見やすいコースレイアウトであることが確認できました。観客も昨年に比べ大幅に増えましたので、コース作りに携わったHSR九州の皆さんや、工事関係者の皆さんも喜んでくれました。

自分が初めてアメリカに行ってグレンヘレンを走ったとき、幅が広すぎてどこを走ったらいいのか全然分からなかった。日本人が広さに不慣れだったこともありますが、これじゃいけないと痛感しました。今回のリニューアルにあたっては、そのときの苦い経験をもとに、欧米基準のコースを目指しました。新しく、広くなったHSR九州で経験を積んでおけば、海外に行っても通用するはずです。ここで育ったキッズライダーが、将来はアメリカやワールドで活躍してほしい。そういう夢を抱いています。

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