全日本モトクロス2013 TEAM HRC現場レポート

HRC
vol.3 雨対策

マディコンディションのマシンや装備

今シーズンは開幕から2戦続けて悪天候に見舞われましたが、TEAM HRCはマディコンディションに直面しても強さを発揮してきました。今回はマシンや装備の雨対策について、ライダーと担当メカニックを通して、その秘訣に迫ります。

#1 成田亮(IA1 CRF450R)

雨対策としてやることは、まずヘルメットですね。アライさんが準備してくれるのですが、バイザーから頭頂部までの透明カバーを付けて、マディコンディションがひどい場合は、アゴの辺りにエアパック(通称プチプチ)を貼ってもらいます。ちなみに、接着剤付きのエアパックは広島あたりでしか売っていないので、いつも世羅グリーンパーク弘楽園に来るときに三次市のホームセンターでまとめ買いするそうです。あとは、バイザーの先にゴーグルのレンズを継ぎ足して長くすることもあります。

次にゴーグルですが、雨の日はティアオフ仕様とロールオフ仕様を用意しておいて、サイティングラップを終えてから、どちらを使うかを判断します。ティアオフを選んだらロールオフが予備、ロールオフを選んだらティアオフが予備になり、レースが終了するまでメカニックに預けます。ティアオフの枚数はドライコンディションだったら14枚で十分ですが、マディではラミネート14枚を2セット、合計28枚を装着します。サイティングラップ用ゴーグルもありますので、毎レース3セットを準備することになります。

それからプラクティスでよく見かけますが、かっぱは着ない主義です。ゴミ袋をかぶって走っているライダーもいますが、お金を払って見に来てくれるお客さんやスポンサーに対して、それはどうなんでしょうか。自分のモトクロスウエアをしっかりと見てもらうことが、プロフェッショナルの務めだと思いますので、僕はどんなにマディでもかっぱは着ません。

中川重憲(成田亮選手担当メカニック)

泥の付着をいかに防ぐかということが雨対策の基本です。フェンダーの裏側など面積が広い場所には、マッドオフのフェンダーマットを貼ります。アチェルビスのフットペグカバーも装着していますが、ドライコンディションでもワダチに引っかからないメリットがあるので、通年で使用しています。ブレーキペダルには粗めのスポンジを取り付けてありますが、以前から試行錯誤しながら今日に至っています。ここのトラブルはブレーキとステップの間に異物が挟まって踏めなくなるか、ブレーキとケースの間に詰まって戻らなくなるかのどちらかで、いずれにしても重要な部分なので常時セットしています。チェンジペダル側は、雨天時のみスポンジを取り付けています。

成田選手の場合、シートは天候に関係なくギザギザのリブ付きを使っています。小方選手と田中選手はドライ用とマディ用を使い分けているようですが、ヒップポジションをしっかり決めたい場合と適度に滑らせたい場合があるので、シート選びはライダーの好みを尊重しています。ハンドガードの装着は、マディのときだけでなく、石の多いコースでも採用しています。モトクロッサーの雨用パーツとしては、穴の開いていないソリッドディスクが定番ですが、成田選手はフィーリングが変わるのを嫌うので、雨でも通常の穴開きディスクを使っています。

雨天時にコースに出るときは、サインボード用に水を用意します。泥を洗い流すためと、常にボードを湿らせておくと書きやすいからです。ホワイトボードは雨だと書けませんし、ペンは流れてしまうので、私はチョーク派です。最後にかっぱの重要性を強調しておきたいですね。安い通気性のないかっぱを着ていると、脱水症状を起こしてフラフラになってしまうので仕事になりません。TEAM HRCのかっぱは、特殊素材でできているので大丈夫です。

  • 成田亮
  • ブレーキペダル
  • CRF450R(成田車)
  • 成田亮
  • エアパック

#6 小方誠(IA1 CRF450R)

雨のレースでは、ウエアを5セット用意します。ブーツは晴れの日と同じ3足ですが、アルパインスターズのテック10は、インナーが別になっているので、インナーだけ多めに用意します。ヘルメットには透明の捨てバイザーを付けますが、晴れの日でもヘルメットが傷付かないように使っています。雨が強いときや水たまりがバシャバシャのときは、それだけでも十分なんですが、泥が重いときにはSHOEIの青いヘルメットカバーをかぶせます。伸縮性のある布製なので、コテコテの泥が飛んできても弾いてくれるんです。バイザーの先にレンズを付けることもありますが、実際はアゴの下から跳ね上がる泥の方が多いので、その辺りをもっと対策したいと思っています。

ゴーグルの準備も防水性のビニール袋に入れておいたり、ティアオフの薄紙をスタート直前まではがさないようにしたり気を付けています。スワンズのレンズには内側に曇り止め効果、外側に撥水効果があるので、晴れでも雨でも共通でそのまま使っています。ティアオフはラミネートを28枚セット。コンディションにもよりますが、1レース持つかどうかギリギリですね。ティアオフを使いきったら、ゴーグルを外すこともあります。もちろん予備のゴーグルがありますが、交換のためにピットインすることはしません。なにがあっても絶対に止まりたくないんです。

僕はマディが好きなので、身体が濡れたり汚れたりするのは平気です。気にするライダーもいますが、僕に言わせたらそんなのはちょっと濡れたら、全身ずぶ濡れなのと一緒です。例えばマシンのハンドガードはいつも付けていますが、雨の日は少し下側を伸ばした大型の物に換えてもらいます。濡れるのは構わないのですが、やっぱり手が滑るのはよくないので……。

中村篤史(小方誠選手担当メカニック)

フェンダー裏のマッドオフ、アチェルビスのフットペグカバー、ブレーキペダルのスポンジなどは他車と共通です。小方選手はブレーキペダルのポジションが高くて、クラッチカバーとのクリアランスがとても狭くなるので、泥噛みや石噛みを防ぐためにスポンジの取り付けが重要になります。この辺りのノウハウは、成田選手のマシン車を手がける中川さんに教わっています。それ以外の雨仕様というと、ハンドガード、リブ付きシートなど。あとはホールショットデバイスもコンディションに合わせて高さを変えるので、フォークガードごと交換します。テストを重ねて導き出したベストな位置がありますので、ドライ用とマディ用にホールショットデバイスの取り付け位置が違うフォークガードを用意してあるのです。

マシンのセッティングは基本的に変えません。ケースバイケースですが、雨だからといって急にマップを書き換えるようなことはしません。ブレーキディスクをソリッドにする用意はありますが、練習でも雨の中で普通の穴開きディスクを使っていますし、ブレーキパッドが1レース持つことが分かっていますので、雨用のソリッドディスクは使いません。ソリッドの制動力や感触が同じならいいのですが、小方選手と話し合った結果、慣れている穴開きディスクを選んだ方が無難だという結論になりました。

コースでの雨支度は、晴れなら1個だったゴーグルが雨なら2個という具合に持ち物が増えます。スタート地点の泥をはがしたりするので、軍手も多めに持って行きます。あと、私はピンクのマーカーペンでサインを出しているのですが、雨で濡れないようにボードを上にかざして書く面を下に向けたり、小方選手が通る瞬間だけボードを出したり、いろいろと苦労しながらやっています。チョークもいいのですが、やはりピンクで視認性を最優先したいと思っています。

  • 小方誠
  • 小方誠
  • CRF450R(小方車)
  • CRF450R(小方車)
  • 洗車の様子
  • 小方誠

#113 田中雅己(IA2 CRF250R)

僕は神経質なA型で、汚れるのが苦手なので、雨の日にはブーツとパンツの境目にラップを巻いています。ガムテープだと動きが悪くなりますが、ラップなら大丈夫。目的は泥水の侵入を防ぐためです。ブーツの中がビショビショになるのが嫌なんですね。気分的にもよくないことは確かですが、足はギアシフトやブレーキングなどの操作をするので、大事にしたいところです。

ゴーグルは最後まで外さないように心掛けています。泥だらけになりたくないですし、目に泥が入ったら痛いし、やっぱりゴーグルをなくしたら負けだと思うんです。以前はすぐに外す癖がありましたが、最近は着けたまま完走できるようになりました。ピットインすれば交換できるように準備だけはしていますが、接戦中はピットインしたくありません。ゴーグルのオプションは、雨がひどいときはロールオフ、小雨で泥がひどいときはティアオフ、そのように使い分けています。ティアオフの枚数は、ラミネートを31枚までセット。あとはすき間に水が入らないような加工を自分でやっています。昔からSCOTTが好きで、曇り対策としてはアンチフォグレンズが効果あります。

実はヘルメットに関して、痛いエピソードがありまして……。潤滑油スプレーを表面に吹いたら泥が付かないだろうと思ってやってみたら、ゴーグルのベルトが滑りまくって全然止まらないし、すぐに外れてしまったという大失敗をやらかしたことがあります。今ではヘルメットにアライの捨てバイザーとプチプチを貼っていますので、泥対策はバッチリです。

河瀬英明(田中雅己選手担当メカニック)

ブレーキペダルだけでなく、チェンジペダル側にもチェーンとフレームとの間にも泥や石が詰まらないように、粗めのスポンジを取り付けます。アンダーガードの中にもスポンジを入れますが、水がたまらないように側面に穴を開けて排水効率を高めています。フェンダー裏にはマッドオフのマットを貼るよりも、まずは泥よけスプレーを吹きます。自動車の窓ガラスに塗るコーティング剤のようなもので、フロントゼッケンにも泥が付着しなくなるので使えます。泥がこびりつくようなときには、マッドオフのフェンダーマットが有効ですが、水気が多いときはスポンジが水を吸って重くなるので、どちらを選ぶかはコンディションに応じて判断しています。

TEAM HRCの中で、雨の日にソリッドディスクを使うのは、今のところ田中選手だけです。これは軽くブレーキをかけながらスピードをコントロールする乗り方からきていると思いますが、彼の場合は穴開きディスクだと穴に詰まった泥がパッドを押し広げるので、ブレーキをかけた瞬間にスカッと抜ける現象が発生し、フルブレーキングしたいときに握り直す必要があるのです。そのような事情から、雨の日には制動力よりも安定性を重視してソリッドディスクに交換しています。

セッティングはプラクティスを見ながら多少のアジャストはします。路面がツルツルで滑るコンディションのときは、急激な吹け上がりを抑えるようなマップに変えます。準備がすべて整ったら、ハンドルやシートを濡らさないようにビニールをかぶせ、テープで仮止めしてレディトゥゴーです。ビニールを付けたままサイティングに出ることもありますね。大事なのは本番のスタートの瞬間にシートや操作系がドライであることです。マディが得意ではない田中選手ですが、いつか克服してくれるでしょう。

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