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全日本モトクロス2013 TEAM HRC現場レポート

HRC
Vol.1 開幕戦を終えて

3ライダーの今シーズンの意気込みと開幕戦を振り返って

今シーズンのTEAM HRCは、成田亮(IA1・#1・CRF450R)、小方誠(IA1・#6・CRF450R)、田中雅己(IA2・#113・CRF250R・新加入)という布陣で、両クラスのチャンピオン獲得を目指しています。モトクロスに対するHondaの取り組みを紹介する、TEAM HRC現場レポートVol.1では、全日本モトクロス選手権の開幕戦の会場で3選手の本音に迫ってみました。

成田亮「モトクロス界になにかを残していきたいと思っています」

昨年の開幕戦は移籍後初レースということもあって、ものすごいプレッシャーを感じていましたが、今年はそれほどではありませんでした。もちろん東福寺(保雄)さんのV9記録という大きな目標もありますし、シーズン全勝を目指す気持ちに変わりはありません。ただ、今年はこのチームで2年目になりますし、昨年チャンピオンを獲得した実績もあるので、開幕戦に対する意識は微妙に違います。安心とか油断というわけではないのですが、勝って当然だという自信があります。金曜日にはコースの隣にあるHondaの熊本製作所で、壮行会を開いていただいて、社員の皆さんの前であいさつをしました。やっぱり優勝宣言をするのはプレッシャーですよ。熊本製作所だけで、今大会(開幕戦九州大会)の入場券が300枚売れたということで、今日のお客さんの中には、Hondaの人が300人以上はいたはずです。コースサイドからの声援が伝わってきました。とても感謝しています。

今回は暴風雨が来て、土曜日のコースはドロドロ、日曜日には乾き始めてコテコテという難しいコンディションになりました。マディの場合は、すべてが思い通りにならないこともありますし、そういう意識は持っていました。ヒート1ではちょっとミスをして、1コーナーで泥が深いところに入って転びそうになりました。そのあとは、平田優選手(ヤマハ)がついてきましたが、抜かれることはないだろうと思いつつも、勝手に焦ってミスをしていました。全周ずっと1本ラインで、乾いてはいなくてツルツルの状態でした。でも、コースを外れたり転んだりしなければ勝てると信じていました。

ヒート2でもマシンがいい感じに加速してくれたので、スタートから前に出ることができました。今度は田中教世選手(ヤマハ)にマークされて、ちょうど昨年の開幕戦のような展開でしたが、今回は抜かれるポイントがなかったので、自分さえミスしなければ大丈夫だと思っていました。ヒート1と同様に心配は全くなかったです。後半になっていいラインを見つけたので、ハイペースをキープできました。リードが大きくなったのは、田中選手がミスをしたのか、ペースが落ちたからだと思います。僕は淡々と走っていました。ブルドーザーが入ってヌルヌルの泥をどけてくれたので、ラインの選択肢は増えました。ただし、ベストラインから外れて端の方に行くと、深い泥が残っていたので、スタックしないよう気をつけました。

いつも開幕戦は緊張するものですが、ここでヒート1、2ともに首位を決められたのは、チームスタッフのおかげです。今年はマシンがさらに進化して仕様も変わったので、昨年よりもテストを重ねました。マシンが変わったのは音量規制への対応があったからで、「パワーダウンしたらレースにならないからもっとパワーを」と要求しました。いろいろやっていただいた結果、下から上までパワーが出ています。サスの仕様も変わりました。昨年までは疲れないサスが理想だったのですが、今年はフィジカル面で充実しているのか、身体が疲れないので、硬めにして攻めるサスになりました。冬の間にAMAスーパークロスに挑戦したことで、気持ちも若返った感じです。

V9とシーズン全勝はどっちが大事かというと、やはり全勝の方が難しいのでそっちにこだわりたいと思っています。V9は通過点だと思いますし、早く達成して東福寺さんに並んで、V10、V11……と、記録を伸ばしていきたいですね。昨年はHondaにチャンピオンをプレゼントしたいという思いが強かったのですが、今年はそれだけでなく、モトクロス界になにかを残していきたい。そんなことを考えています。モトクロスを知らない人に魅力を伝えたり、もっと認知度を上げる活動をしたり、僕たちにできることは、いくらでもあるはずです。

  • 成田亮
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小方誠「成田さんの全勝を止めてみせます」

土曜日の練習走行はトップタイムでしたし、乗れていたので、自分の走りができればいけるという手応えがありました。予選のクジ運が悪く、29番という最悪の順番だったんですが、それでもスタートを3〜4番で出られたので、調子はいい方だと思います。決勝のヒート1では、3番手スタートだったのですが、そのあとラインを見つけられずに離されてしまいました。終盤で熱田孝高さん(スズキ)に抜かれてから、いいラインで詰めていけたので、中盤の遅れがなければもっと上だったはずです。ヒート2はスタートでちょっと遅れたのに加えて、序盤のペースが悪く、やっぱり後半になってばん回するという展開でした。それでもこのコンディションの中でタイムは出ていましたし、特に大きなミスもなかったので、開幕戦としては上出来だったと思います。マディは得意なのですが、今日のように徐々に乾いてコテコテになると、1本ラインになってしまうので、抜きどころがあまりなかったです。もっとグチャグチャで、どこでもいけるようなコンディションの方が、得意なのです。

昨年のTEAM HRCはIA1が3人で、成田>平田>小方みたいなポジション……。だれが見ても成績の面でもその通りだったのですが、今年のIA1は成田さんと僕だけなので、責任が重くなったというか、もっとがんばらないといけないと強く感じています。IA2に田中選手が入ったことで、チームの雰囲気も変わりましたね。ついでに僕のメカニックも、昨年のヒデさん(河瀬)が田中選手の担当になり、平田さんのメカだった中村さんが僕の担当になったんです。監督から交代を聞かされたときは「ヒデさんを雅己に奪われちゃうの? なんで?」と思いましたが、中村さんのこともよく知っていたのですぐに納得しました。

タイプは違いますが、どちらもライダーのことを最優先に考えて尽くしてくれる人です。例えば、昨年のシーズンオフは練習でアメリカに行ったのですが、ヒデさんが一緒についてきてくれました。今年のオフは日本で走り込んだのですが、中村さんは休日返上で土日の練習にボランティアで来てくれたり、菅生に練習に行くときも「オレも連れてってくれ」と言ってくれたり、という感じでした。整備の面でも助かりますし、一緒に過ごす時間を多く取ろうとしてくれる気持ちが伝わってきます。中村さんはとても熱い人です。僕の方も歩み寄るため、相模原の実家を出て埼玉で一人暮らしを始めました。HRCやオフロードヴィレッジに近いので、効率がよくなったと思います。

今年のマシンは昨年の終盤に乗っていたのとベースは同じですが、エンジンの仕様を変えて、パワーを出しつつ音量規制に対応したりしています。フィーリングは昨年よりよくなっています。足周りもファクトリーサスになりましたし、特にリアショックの色が気に入っているんです。メタリックレッドがかっこいいでしょう? マシンも体調もいい感じで仕上がっていますし、すべてが昨年を上回っています。ゼッケンもシングルです。今年は得意なオフロードヴィレッジで2戦するので、4ヒート中2ヒートぐらいは勝ちたいと思っています。成田さんも全勝を目指していますが、僕も一人のレーサーとして負けるわけにはいかないので、勝利宣言をさせてもらいます。まずは一勝からです。

  • 小方誠
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田中雅己「ファクトリーチームのアドバンテージを痛感しています」

ファクトリーチームでの初レースということは意識しましたが、開幕戦でも今まで通りのレースをしようと思っていました。それでも思うようにいかなかったのは、プレッシャーよりも、コースコンディションの影響で走りが硬くなってしまったことが大きかったと思います。「転倒してはいけない」、「スタックしてはいけない」といった考えが、消極的な走りにつながってしまいました。それが敗因ですね。「全勝したい」と言ったこともありましたが、あまりにも高い理想なので、ひとまず最低でも6位以内を目指そうと臨んだ開幕戦でした。

シーズンオフからスタートの練習を重点的にやってきましたし、ヒート1ではなんとか4番手ぐらいで出られました。そのあと、3番手まで上がったのですが、マディコンディションはあまり得意ではないので、堅実に走ることを意識していました。途中、接触などの影響でヒジがしびれてきてペースダウンし、挙げ句の果てに転倒してしまいました。冷静さを保ちたかったのですが、合計3度の転倒で13位でした。ヒート2は、スタートで走行ラインがなくて出遅れたのですが、10番手あたりから焦らずに走れました。ただ、中盤からリズムが出てきたところでまた転倒してしまいました。そのあとは淡々と走って8位……。内容的には最悪でしたね。雨が降ってグチャグチャのコースであればまだいいのですが、そこから乾いてツルツルコテコテになった状態はあまり好きではないです。どんどんコンディションが苦手な方に変化したというか、もともとHSR九州が得意でないことも要因だったようです。関西育ちなので、サンドや硬くてもグリップするような路面が好きです。

実は1月末に埼玉に引っ越してすぐに、足首を骨折してしまい、4週間マシンに乗れませんでした。でも、病院とウイダーのスタッフのサポートのおかげで、リハビリが思いのほか順調に進んだので回復は早かったですね。2月いっぱい休んだ分を取り戻そうと、3月はめいっぱいトレーニングに励みました。HSR九州も訪れて、テストを重ねたのですが、その結果がこれ(13位/8位)だったので、結構ショックが大きいです。“ワークスチームのプレッシャー”みたいなことだけは言われないようにしようと思っていたのに、その通りになってしまったのが悔しいです。成田さんが両ヒートで優勝、小方さんも総合3位(4位/4位)だったのに、自分だけがこれでは……。

ファクトリーチームのアドバンテージは、ひしひしと感じています。マシンももちろんですが、恵まれた環境ですね。今まで自分でやっていたことでも、チームスタッフがやってくれる。例えば体調管理や情報収集など、あらゆる仕事に専門のスタッフがいて、ライダーを勝たせるためにサポートしてくれる。ハード面でも違いますね。プライベートだった昨年までは、練習マシンの整備は自分でやっていましたし、走りに行っても常にマシンをいたわっていました。今はファクトリーマシンで練習ができますし、思いきり走れるのがうれしいです。

TEAM HRCでの初戦では泥の洗礼を受けましたが、このままでは終わりません。目標に掲げた全勝は早くも夢になりましたが、同じチームに日本一速いライダーがいるので、すごいところをしっかりと吸収して、次からは一ヒートずつ、優勝を重ねていきたいと思っています。

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