Team HRC現場レポート

Vol.55

2018シーズンが終了。IA1で3連覇を飾ったTeam HRCの戦いを芹沢勝樹監督が振り返る

全日本モトクロス最終戦MFJ-GP(10月28日・菅生・スポーツランドSUGO)において、3位/4位に入った成田亮選手(#982・CRF450RW)が、国際A級で12度目のチャンピオンを獲得。Team HRCとしては3連覇を達成しました。スポット参戦のティム・ガイザー選手(#243・CRF450RW)は、両ヒートを制しパーフェクトウイン。富田俊樹選手(#718・CRF450RW)は5位/3位。山本鯨選手(#1・CRF450RW)は、4位/DNFとなりました。またIA2クラスでは、能塚智寛選手(#828・CRF250RW)が、4位/4位でフィニッシュしました。今回の現場レポートでは、Team HRCの芹沢勝樹監督に最終戦を振り返っていただきます。

芹沢勝樹監督

全日本モトクロスIA1クラス3連覇に際し、ご支援いただきましたスポンサー各位とファンの皆さまに、Team HRCを代表して心より御礼申し上げます。このタイトルは、HGA-K(本田技術研究所二輪R&Dセンター熊本分室)とのコラボレーションによる成果であり、携わったメンバーの努力が結実したものであると痛感しています。昨年のシリーズランキングは1-3(チャンピオン山本/3位成田)でしたが、今年はそれを上回る目標として設定していた1-2(チャンピオン成田/2位山本)を獲得したので、達成感に満ちたシーズンとなりました。

最終戦には招待選手をスポット参戦させることが定例化してきましたが、ガイザーは来シーズンに向けた先行テストを兼ねての来日、富田はAMA挑戦3年目の成果を確認するために呼びました。ガイザーはMXGPで山本や能塚のチームメートでしたし、成田と富田はモトクロスオブネイションズで顔を合わせています。また成田とは前回の来日時にジャージを交換するなど、互いにリスペクトする間柄でしたので、ガイザーを迎えたチームテントは和気あいあいとした雰囲気でした。

IA1のチャンピオン争いに関しては、ポイントリーダー山本に対し、成田が9点ビハインドの2位という状況で最終戦に臨みました。作戦的には両者が正々堂々と戦った結果を受け入れるのみで、Team HRCがタイトルを獲ることに重きを置いていました。したがって、ガイザーと富田に対するオーダーは一切ありません。招待選手が前を走ったり、両者の間に入る可能性があることは、山本にも成田にも伝え了解を得ていました。

土曜日は未明からの雨でタイムスケジュールが遅れ、IA1のタイムアタック予選がキャンセルされました。その件ではMFJから「明日の決勝グリッドはランキング順で…ランキング外の選手はゼッケン順ということで…」と告げられたのですが、それではガイザー(#243)と富田(#718)が最後になってしまうので、我々としては走らせたかった。他にも予選をやってほしいという声が多かったのですが、日没が迫っていたこともあって、日曜朝のプラクティス時に予選を行うことになりました。具体的には、2分間スタート練習、10分間練習走行、15分間タイムアタックという内容です。

走り慣れている山本と成田にとっては、スケジュールの変更による影響はありませんでした。マディコンディションで攻めるリスクを回避できればそれでいい。2人ともそういう構えでした。ところがガイザーに至ってはバイクに乗るのが大好きで、たとえマディでも走りたくて仕方がない様子…。「250は予選レースがあったのに、450はどうして走れないんだ?」と言う気持ちを鎮めるのがたいへんでした。

そんな経緯で日曜朝に行われたタイムアタックの結果は、1位ガイザー=1分58秒487、3位富田=2分01秒858、4位成田=2分02秒322、6位山本=2分04秒759。ほぼ順当ですが、山本は少し堅くなっているようでした。

IA1ヒート1、成田が3位、山本が4位に入ったことで、ポイント差は9点から7点に縮まりました。山本の作戦としては成田の後ろでも問題なかったのですが、しっかり前を走ってチャンピオンを決めるのが理想でもありました。一方の成田は、山本よりも打倒・外国人ライダーという目標で臨んでいました。タイトルに対しては半ばあきらめムードでしたが、決して投げていたわけではありません。山本の実力を客観的に評価したときに9ポイント差を逆転するのは難しいと考え、ガイザーやジェレミー・シーワー(ヤマハ)をターゲットに定めていたのです。私としては「まだ終わっていない。最後まで戦おう」と成田に伝えていました。

ヒート1を走り終えた山本は、かなりほぐれた様子でした。一時は富田に先行されましたが、終盤になるとペースもつかめて抜き返しました。自分自身を冷静に分析できるライダーですから、これで大丈夫だろうという手応えがあったはずです。ところがヒート2の1周目に、まさかのクラッシュが発生してしまったのです。

スタート直後のオーダーは、成田、ガイザー、シーワー、山本。このポジションでスネーク中程のジャンプを飛んだ山本が、着地でバランスを崩してしまったのです。転倒の際に肩を脱臼した山本は、その場でリタイアとなりました。この瞬間から成田に、18位以内(3点+MFJ-GPでのボーナス加算5点)でチャンピオン決定というマジックが点灯しました。仮に成田がリタイアしても山本が首位を保てるので、この時点でTeam HRCのタイトルは確定していました。

山本のリタイアを知った成田には、特別なサインは出しませんでした。外国人選手に対して闘争本能をむき出しにしているのに、抑えろとか戻せと言うとリズムを崩してしまう。むしろイケイケで走っていた方が安全だし、自由にやらせるのが得策だと思っていました。中盤で富田と競り合っているときは転倒もしたし、ハラハラしたことは確かですが、逆にあのバトルで火が点いて成田らしさを保てたのでしょう。ゴール後は号泣していましたね。我々が近寄れないほど大勢のカメラマンに囲まれて、成田らしいラストシーンでした。

一方、IA2は完敗でした。能塚は古賀太基選手(Honda)に対して6ポイントリードしていたのですが、我々としてはその点差をどうこうやりくりしようという考えはなく、とにかくピンピン(両ヒート優勝)を取ってもらいたかった。古賀の前とか後ろではなく、両ヒートを完勝してグランプリライダーの速さを見せてほしかったのです。

土曜日の予選レースでは、能塚がA組1位、古賀選手がB組1位でした。タイムでは3~4秒負けていたのですが、路面がマディからドライへと好転していく状況だったので、それを踏まえれば互角だろうと捉えていました。走りに硬さはありましたが、それほど心配はしていませんでした。AMAナショナルに出ていた渡辺祐介選手(ヤマハ)の帰国参戦という要素もありましたが、能塚がチャンピオンになった2年前の最終戦で圧勝したイメージがあるので、特に警戒することもなく、むしろあのときのレースを再現してくれるだろうと期待していました。

IA2ヒート1、能塚はスタートに失敗した上、さばいていく途中で転倒を喫しました。今年の課題として、序盤からトップスピードを出す練習をしてきて、テストではできていたのですが、レースになるとミスをしてしまう傾向がありました。終盤に4番手までばん回したのですが、チェッカー目前で横山遥希選手(カワサキ)のアタックを受けて転倒。抗議の結果ポジションが入れ替わり、能塚は4位を取り戻しましたが、2位に入った古賀選手には2ポイント差まで詰め寄られた形となりました。

ヒート2でもスタートで出遅れ、能塚は4番手。古賀選手がトップに立ったので、彼を攻略して優勝するしかないという状況でした。中盤になって後方から上がってきた渡辺選手に抜かれましたが、これをチャンスとして利用させてもらおうと考えました。「ついていけ! ラインを学習して仕掛けろ!」メカニックにはそう指示しました。ところが能塚は、コーナリングが決まらなかった。たとえばフラットなコーナーでバンク角を保って抜けていきたいところで、マシンを起こしてまた寝かせるというような、ギクシャクした動きをしていました。

ポイントリーダーとして最終戦を迎えながら、古賀選手に逆転負けを喫してしまったのはなぜなのか。うなだれる能塚とレース後じっくり話し合いました。もちろん昨年のアルゼンチンGPで負傷した影響はあるでしょう。ハード面での要求に応えられたかと問われれば、100%ではなかったかもしれません。ただし能塚車はあくまでも将来の量産車を開発するマシンであって、能塚スペシャルではないのです。カルバン・ファランデレンが乗る、MXGP(MX2)ワークスマシンとは別物なのです。与えられた条件で結果を出すこともワークスライダーの務めであると思っています。

今季は能塚のみならず、山本も成田も負傷からのカムバックという階段を登ってきました。その過程で我々は勝つために必要なことすべてに注力し、ライダー全員をサポートしてきました。今大会でパーフェクトウインを飾った、ガイザーにしてもまた然り。開幕前のクラッシュでアゴを骨折し、MXGPタイトル奪還という目標を達成できませんでしたが、今は来季へ向けたメニューを順調にこなしているところです。

最後になりましたが、今シーズンもTeam HRCへの皆さまからのご声援ありがとうございました。来シーズンも皆さまのご期待にそえる結果を残せるように、Team HRCスタッフ一丸となって取り組んでまいります。

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