VOl.39 Team HRCの2人が勝利を分け合った開幕戦。王者のライバルは身近に?

全日本モトクロス2017 Team HRC現場レポート

全日本モトクロス選手権のIA1クラスで連覇を目指すTeam HRCは、開幕戦(4月9日・熊本・HSR九州)の決勝の両ヒートで、1-2フィニッシュを達成。ディフェンディングチャンピオンの成田亮選手(#1・CRF450RW)が優勝/2位、3シーズンに及ぶ世界選手権へのフル参戦から帰国した山本鯨選手(#400・CRF450RW)が2位/優勝となりました。Team HRCの取り組みをお伝えする現場レポート。今回は芹沢勝樹監督が開幕戦を分析します。

芹沢勝樹監督

開幕戦は予想外の展開でした。驚きはヒート2における山本の初優勝です。率直に言いますと、成田がピンピン(両ヒート優勝)で山本が両ヒート表彰台、つまり2位か3位だろうと読んでいたんですが、まさか優勝するとは思っていませんでした。山本のポテンシャルを過小評価していたわけではなく、成田のこれまでの実績(2012~2016年の開幕戦をパーフェクトウイン)と、雨でマディになった条件からすると、やはり成田だろうと予想するのが妥当でした。

ヒート1では成田が順当に優勝し、山本が2位という幸先のいいリザルトを残してくれました。ところがヒート2では、先行する成田を山本が追い詰めて、最終ラップに逆転優勝というドラマを演じたのです。山本にとってはこれがIA1クラスでの初優勝でした。

成田は疲れたわけでなく、マシントラブルがあったわけでもなく、実際のところ順調なペースを維持していました。もちろん山本の接近はサインで把握していましたし、コース上でも折り返すセクションで目視できていました。追い上げられたら、いつでもペースアップして逃げる術を持っているライダーですが、今回のコースコンディションがそれを許してくれなかった。それに尽きますね。

ヒート1が行われた午前中は、まだ路面はビシャビシャでしたが、午後になると徐々に乾いてきて、ぬかるみの底に硬い土があったり、ベストラインを外すと深い泥にはまったり、非常に難しいコンディションになりました。安定した走行を続けていても、あの路面ではマシンが予想外の挙動を示すことがあり、成田は慎重になっていたのです。

記録を少なからず意識していたのかもしれません。開幕戦パーフェクトや通算150勝という記録が、モチベーションになっていることは確かです。ただ、勝利にこだわることも大事ですが、シーズンの終わりにトップでいること、つまりタイトルの獲得を重視してほしいということも伝えてきました。ですから、今回のようなコンディションに直面したときに、シリーズの戦い方にプライオリティを置いたのかもしれません。

  • 成田亮
  • 成田亮
  • 成田亮
  • 成田亮
  • 山本鯨、成田亮
  • 成田亮
  • 成田亮

ヒート2の勝負に関しては、成田が完敗、山本の勝ちでした。山本の強みは、MXGP(モトクロス世界選手権)で滑る路面や深いわだちを体験してきたことで、その強みを今回のレースで発揮しました。山本が使命を果たしてくれたことを、我々は非常にうれしく思っています。勝つことももちろんですが、世界選手権で学んだ走り方を見せてほしい。グランプリ土産を見せてほしい。Hondaのマシンに乗ればいつか世界に行ける。こんなに走り方が変わる。こんなに勝てるようになる…。日本のライダーに成功例を示すことによって、目標になってほしいのです。

土曜日には後半のテクニカルセクションがショートカットされたため、だれもが不慣れだったと思います。公式練習や予選レースで走っていないので、最終チェックができず難しかったでしょうね。事前テストを行った日も雨だったので、予習にはなっていたはずですが、やはりテストとレースでは台数にも差があり、ギャップやわだちなど、路面の荒れ方が違いますから。事前テストのときは、もっと硬い土が露出していてツルツル滑りました。今回の開幕戦では山砂が追加された上に雨が降ったため、硬い土の上に深い泥がたまってパワーを食われたりしました。実は、Team HRCでも山砂が追加されたことは知らなかったので、現地入りしてから砂の白さに驚いたほどでした。

フープスも難しいセクションでした。土曜日は迂回していたので、日曜日になって初めて挑むことになったわけです。成田はフープスに自信を持っていましたが、山本は朝からフープスの攻略法を迷っていました。山の頂点をかすめるように進むスキミングか、2~3個ずつ飛ぶジャンピングか…。チームとしてはどちらで行くにせよ、進入前に決めたら最後まで貫くようにとアドバイスしました。スキミングで入って、途中で失速してジャンピングに変えるようなことは避けるべきで、その逆もまたしかりです。山本のスタイルからすると、ジャンピングで飛んで行くのが合っているだろうとアドバイスしました。

勝負どころとなりそうなセクションは、すべてビデオ撮影をして、常に観察するようにしていました。例えば、ビッグテーブルトップ手前の区間では、多くのライダーが右寄りを走るのでギャップが増えました。成田と山本はそこで左寄りのラインを使って、スムーズに加速していました。

  • 山本鯨
  • 山本鯨
  • 山本鯨
  • 山本鯨
  • 山本鯨
  • 山本鯨
  • 山本鯨
  • CRF450RW

今年のチームスタッフの変化につきましては、HRCが取り組む3カテゴリー(JMX、MXGP、AMAスーパークロス)の中で、エンジニアの経験をほかの拠点でも活かそうというのが狙いです。そのために、全日本の監督だった芹沢直樹がAMAに、私がMXGPから全日本に異動になりました。また、AMAから帰国した平島エンジニアが、全日本でチーフメカに就任するなど、各拠点のスタッフをシャッフルしたかたちです。

私はTeam Honda Gariboldi RacingのMX2クラス担当として、データ検証などハード面を受け持っていました。全日本では監督としてマネージメント業務に携わることになります。監督を務めるのは、昨年のモトクロス・オブ・ネイションズ日本代表チームが最初でした。ネイションズではチャレンジャーでしたが、全日本ではディフェンディングチャンピオンのチームですから、プレッシャーの度合が違います。

成田と山本のハードウエアに関しては、差をつけているのではなくて、各拠点に向けた開発を分担をしているのです。簡単に言えば、成田車がMXGP仕様としてガイザー車とボブリシェフ車とリンクしており、山本車がAMA仕様でロクスン車とシーリー車の基になる技術を試しています。

もちろんレギュレーションの違いがあり、AMAでは量産車ベースでモディファイを行うことになります。ただ、両車に戦闘力の差が生じないように突き詰めた開発を行っていますし、実際にそれほどの差はありません。今大会の成績を見ても、成田が優勝/2位、山本が2位/優勝と、互角であったことがその証しだと言えるでしょう。成田はこれまでプロトタイプの開発を担当してきましたし、山本には量産車ベースのマシンでグランプリを戦ってきた経験があります。そういった観点からも、妥当な役割分担になっているはずです。

開幕戦は両ヒートともHondaが1-2フィニッシュという最高のかたちになりましたが、このまま順調に勝ち続けられるものだとは考えていません。今シーズンも平田(優)選手(ヤマハ)や小島(庸平)選手(スズキ)、新井(宏彰)選手(カワサキ)が手強い相手となるでしょう。チャンピオンの成田にとっては、身近なところに山本という強敵が育ってきたことを認識した開幕戦でしたが、チーム内での競争が好循環につながることだろうと信じています。

 
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