インディカーシリーズについて、
自らの率直な実感を交えて解説してくれた松浦孝亮選手。
はじめてオーバルコース(すべて左回り)でマシンに乗ったとき、
体の血液が右に寄ってフラフラしていながら、我慢して誰にも話さなかったこと。
のちにベテランのエイドリアン・フェルナンデス選手(当時)からそっと
「僕もそうだ」という話を聞き「ホッ」としたエピソードなど、トップアスリートから、
本当ならなかなか伺うことができない話題をたくさん提供してもらいました。
今年もインディアナポリス500、通称「インディ500」の季節を迎えました。
F1モナコGP、ル・マン24時間レースとならび世界三大レースの一つに数えられる
この伝統のレースを前に、 松浦選手がインディ500について、
またまたびっくりの実感エピソードを話してくれました!
2006年のインディ500決勝は5月28日に行われますが、インディ500は決勝レースまで
およそ1ヵ月かけてプラクティスや予選を行うビッグレース。
今年のインディ500はすでに始まっています。 松浦選手も、2006年5月10日の
プラクティスで第3位の好タイムを出しています。ご注目ください!
インディ500はものすごいレース。
はっきり言って予選は恐怖そのもの、
できれば2回やりたくない。
――インディ500はすごいレースですよね。
すごいですよ、あのレースは。単純に40万人という観客数だけでもF1の倍以上ですから。それにセレモニーのアトラクションとしてステルス戦闘機が飛んできますからね。ステルス戦闘機なんて有事の際しか本当は飛ばないだろうし、仮に飛んだとしても我々一般の人間には見られないですからね(笑)。
――そのすごいレースに出場しているというのはハッピーですか。
もちろん。100年近い歴史を持つ、世界三大レースにドライバーとして出て、みなさんの注目を集めるわけですから。すごいことだと思います。優勝賞金だけでも2億円ですからね。
――予選も長丁場で、他のラウンドとは違いますよね。
普通のオーバルコースでの予選は、2周回ってのベストタイムで競うんですけど、インディ500の予選は4周の平均速度なんです。ですから、最初から全開で行かないとだめなんですよ。めちゃくちゃ緊張しますね。
マシンのレギュレーションも自由度が高いので、マシンを路面に押し付けるダウンフォースをぎりぎりまで削るんです。リアウイングなんてマイナス5度とかですよ!ふつうはウイングの後ろが跳ね上がっているじゃないですか。それが逆ですよ。後ろがわずかに下がっているんです。車高も思いっきり高くしますし、浮き上がっちゃうんじゃないかと思いますよね。
――考えられないですね。
考えられないですよ。ダウンフォースが少ないから、ストレートではすぐに370km/hいっちゃいますからね。そのままの速度で、必死の形相でコーナーに飛び込むんです。想像できます?正直言って、恐いですよ。四輪とも滑りながらコーナリングしてますからね。あの速度でですよ。
それにコースインしてわずか2周で予選のアタックがはじまりますから、タイヤも温まりにくい。天気が悪かったりするとクラッシュも多い。インディ500のクラッシュはスピードが高いから派手ですね。
僕なんか、出走を待っていて、走っている他のマシンを見ていると「よくあんな速度で走るよ」と人ごとのように思いますからね。普通の神経じゃないな、と。
――インディ500はマシン単位のエントリーですから、本番用のマシンと予備のマシンといった具合に、一人のドライバーが複数台のマシンに乗ることができるんですよね。チャンスは多いわけですね!
確かにルールとしてはそうですね。でも、緊張感と恐怖に満ちたインディ500の予選だけは2回もやりたくないですね。
あの集中力をもう1回・・と言われても「勘弁してよ」って思いますよ。もう1回やるということは、初回のアタックで速度が出ていないということですから、マシンのダウンフォースをさらに削ったりするわけなので、もっと恐くなる。2005年は、幸い1回の予選でトップ11に入ったのでそれで済みましたけど。
――予選1回目にトップ11番手まで、翌日の2回目に12〜22番手が決まり、1週間空けた3回目に23〜33番手が決まるルールです。そしてその翌日、最後の予選“バンプデー”があります。
インディ500に出場できるマシンの数は33台で、予選3回目までで一応33台が決まります。しかし最後のバンプデーで、全予選中タイムの一番遅いマシンより速いタイムを出せば、そのマシンをはじき出して(バンプアウト)、33台のグリッドに入ることができます。大変な予選ですよね。
最初の予選を闘ってうまくいかなかったら、また翌日というわけです。いやですよ〜。翌日またインディアナポリスに行って、気持ちを高めて走らなきゃならない。自分の出走順が来てもパスできるんですけど、それで出走が遅くなり、夕方近くになったら風も吹きますし余計恐い。何度も走るなんていやですね。チームから「終ろうか」と言われた瞬間に、「僕もそう思う!」って言いますね。たぶんドライバー全員そう思っていると思いますよ。
――そんな激しいレースだからこそ、ウィナーには名誉があるんでしょうね。
そうですね。予選を通過してグリッドを決めただけでも、ドライバーは名前と平均速度を刻み込んだ指輪をもらいますからね。ましてや優勝したら、アメリカ中のヒーローでしょうね。・・・勝ちたいですね。
――頑張ってください。応援しています。ありがとうございました。
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