2014年大会に向けて新型CRF450 RALLYを開発
新規エンジンで最高速度が向上


多聞 先ほどのダカールラリーの歴史についての話から、過酷なレースだということがよく分かりました。そんな厳しい競技で勝てるマシンというのは、一体どんなマシンなんですか? ロードレースやモトクロスであれば、日本でも走っているところを見に行けるのでイメージしやすいですが、ラリーは見たことがなくて……。


山崎 まず、絶対に壊れないこと。これが必須です。毎日長時間、何日にもわたってライダーが一人で走らせるマシンですから、エンジンやシャシーだけでなく、すべての部分に絶対と言える信頼性を持たせることが重要です。また、仮に壊れたとしても、選手が簡単に修理できる構造になっていることが大事です。そうでないと、ラリーが続けられなくなってしまいますから。こうした条件は、ほかのモータースポーツと比べるとかなり特殊ですね。


三上 勝利にはパワーも必要ですよね。


山崎 そうです。ダカールではトップスピードが勝敗を大きく左右しますから。昨年は市販車ベースのマシンでの出場だったため、パワーをかせぐためにかなり苦労しましたが、2014年は完全にゼロから作ったマシンなので、最高速度をアップさせることができました。昨年のマシンでは最高速度は時速170kmでしたが、今年は時速175kmまで向上させています。乾燥重量(※12)も10kg軽くなっていますので、戦闘力はかなり上がりました。


三上 本来、ダカールラリーは「量産車ではなければ出場できない」というルールですよね?


山崎 「このファクトリーマシンと同様のマシンを一年以内に市販します」という約束を主催者とかわして、ワークスマシンでの参戦が実現したんです。ダカールラリーでは一つのクラス(※13)につき一度、この作戦が許されます。


三上 ということは、東京モーターショー2013(※14)で展示されていたCRF450 RALLYが、市販されるということですか!?


山崎 細部は変更されると思いますが、そうなります。


多聞 もし私が、15年のダカールラリーに出場したいと思ったらマシンを買えますか? どうすれば手に入れられるんですか?


山崎 代金を支払っていただければ(笑)。だれでも購入できるマシンを発売することになりますから。詳細は未定ですが、こうしたラリーに参加するライダーに最高のマシンを提供することも、Hondaがダカールラリーに参戦する目的の一つなんです。


三上 完全なワークスマシンで挑めることの最大のメリットはなんでしょうか?


山崎 パワーですね。「過去に450ccの単気筒エンジンで、これほどハイパワーなエンジンは作ったことがない」と断言できるほどにパワーが出ています。それでいて、絶対に壊れないと言いきれる耐久性も兼ね備えることができました。パワーがあれば最高速がアップしますし、エンジンに合わせて吸排気をレイアウトした、最適なシャシーの設計ができる。すべてを理想通りに作ることができました。このマシン専用の新エンジンを作ったからこそ、できたことですね。

CRF450 RALLY

新型CRF450 RALLYは、ダカールラリーの特色である厳しい環境条件の変化に対して優位性の高い、電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)を搭載

CRF450 RALLY

新型CRF450 RALLYのフロント部分

サム・サンダーランド選手

新型CRF450 新型CRF450 RALLYの2戦目となった、メルズーガラリー2013でのサム・サンダーランド選手の走り

(左から)三上勝久、多聞恵美、山崎勝実ダカールラリーTEAM HRC代表

新型CRF450 RALLYにまたがった多聞さんは、想像していた以上の大きさに驚いていた

(※12)オイルやガソリンを含まない、マシンそのものの重さ。

(※13)ダカールラリーには、オート(4輪)とモト(2輪)、そしてカミオン(トラック)の3つのクラスが存在する。

(※14)東京モーターショーは2年に一度、世界中の自動車、バイクメーカーが集結し、最新の技術やデザインを紹介するイベント。2013年は東京ビッグサイトにて、11月23日(土)~12月1日(日)にかけて開催された。

第2章 敗北から気づいた勝利に必要なピース