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DAKAR RALLY 2013

ダカールラリー TEAM HRC代表インタビュー

第1回
Hondaのダカールラリー参戦への道のり
実に24年ぶりとなったHondaワークスによるラリーレイド参戦。1986年から89年にかけて4連勝したNXRの時代とは、開催地もライバルの状況も大きく変わった現在のダカールラリーですが、Hondaはどのような目的と体制で挑むのでしょうか。アフリカ・モロッコで開催されたモロッコラリーでのテスト参戦後、山崎勝実ダカール・ラリー TEAM HRC代表に話を聞きました。

もともと、Hondaとしてのダカールラリー参戦はいつごろ決まり、それからどのように進んでいったのでしょうか。

ダカールラリーへワークス参戦するという話を、Hondaの社内で議論をし始めたのは2012年の1月です。とはいっても、ダカールラリーにいざ参戦するとなると、日本だけの話では済みません。南米、北米、ヨーロッパ、世界各地のHondaと話をして、概要が決まったのが3月です。そこからさらに話を詰めて、正式にプロジェクトとして発足したのが4月17日です。プロジェクトが発足し、どんなメンバーでやるか、何人くらいでやるのか……などの議論を経て、私に参加要請が届いたのが5月の連休明けでした。そこから半年足らずで今回のモロッコラリーに参戦したわけで、超がつくほどのスピード開発となりました。

開発はどのように進められたのでしょうか。

まず、クレイ車両を製作しました。デザイン用の粘土(クレイ)を使用して、実際のマシンに近い外装パーツをデザインしたモデルです。デザインがある程度できた6月に、エルダー・ロドリゲス選手とサム・サンダーランド選手に来日してもらい、朝霞(埼玉県)のHRCでフィッティングを行いました。ラリーでは、ナビゲーション機器の見やすさや操作性、大きな燃料タンクがライディングに及ぼす影響などが勝敗に直結します。マシンの幅や、体を前後に動かしたときの自由度などとともに、ライダーにチェックしてもらいました。

そのあと、千歳(北海道)にあるHOP(北海道オフロードパーク)にマシンを持ち込んで実走テストを行いました。このテストでは、クレイモデルをもとに外装パーツをFRP(繊維強化プラスチック)で製作したマシンに、デッドウエイト(ガソリンの重量などをシミュレーションするためのダミーウエイト)を前後に積んで行いました。ここで浮かび上がった問題点を、朝霞に戻って修正しました。基本的には、この段階ですべての形状が決まりました。10月にインターモトで初公開したときのデザインは、このときとほとんど変わっていません。つまり、かなり早い段階でベストなデザインが完成していたことになります。

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2012年のダカールラリーに参戦するにあたってHondaが用意したのは、市販車「CRF450X」をベースにしたCRF450 RALLY。過酷なダカールラリーにおいて果敢な走りを実現するため、エンジンの耐久性、整備のしやすさなど、Hondaが持つ技術の粋を集めて作られています。

2回目のテストは、7月の中旬にモロッコで行いました。現在のダカールラリーは南米が舞台ですが、モロッコは過去に私がパリダカに参戦していたときに何度か訪れたことがあるので土地勘があること、非常に厳しい環境のため実戦に近いテストが可能なことから、テスト地に選定しました。ここで実際にライダーに乗ってもらったのですが、結果はボロボロでした。ほとんどすべてのパーツが壊れてしまったのです。

この結果を受けて、目標値を再設定することになりました。それまで我々が設定した目標値では駄目。このままではダカールで勝てない、と。そこで、エンジンのパワー、耐久性、メンテナンス性など200項目にも上る目標を再設定しました。現在の開発も、このときの目標値を基準にしています。

3回目のテストは、8月下旬にカリフォルニアのモハーヴェ砂漠で行いました。モロッコはフィールドとしては申し分ないのですが、テストのしやすさという点ではかなり厳しかったからです。現地でなにかが必要になっても、あれがない、これがないということの連続でした。そこで、Baja 1000で11勝しているライダーであり、過去のマシン開発において何度も一緒に仕事をしてきたJCR Honda Teamのジョニー・キャンベル選手(以下ジョニー)と、メカニックのエリック、JCRをサポートしているHRA(Honda R&D Americas,Inc)の花輪さんと合流して、アメリカでテストを行うことにしたのです。一度、最もテストしやすい場所でやりましょう、と。

ジョニーとはBaja 1000でのマシンの開発などを10年以上も一緒にしてきて、気心の知れた仲です。そこでひらめきました。経験豊富で人望も厚い彼がチームに参加してくれたら、きっといい結果になるのでは、と。そこでジョニーたちをこのチームに巻き込むことにしました。モロッコでは、まだデッドウエイトを積んだマシンでしたが、アメリカでは燃料タンクなど主要パーツもそろいつつあり、完成型に近い状態での、非常にいい内容のマシンテストができました。エンジンの出力はテストのたびに上がっていましたが、このアメリカのテストでは、かなりいいところまで出力が得られました。

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ノンストップで1000マイル(約1600km)を走りきるレースで、ダカールラリーと並び、世界で最も過酷なモータースポーツの一つとされています。45回目となった今年は11月に行われ、二輪部門ではHondaが16連覇を達成しました。今後、その連勝記録をどこまで伸ばせるかに注目が集まっています。

9月には、南米のライダーがまだテストをしていないということで、フェリペ・ザノル選手らを招いて再び北海道でテストを行いました。Hondaのホームページで最初に発表した、黒いカラーリングのマシンでの走行シーンは、このときのものです。

そしてその次が、初の実戦となったモロッコラリーです。ここにはエンジン出力を大幅にアップしたマシンを持ち込みました。出力は言えないのですが、ノーマルマシンに比べて30%以上アップしていると思っていただければ結構です。ノーマルが33kWなのに対して、43kW以上ですね。マシンの仕上がりは、目標の70%程度の出来でしたので、正直ラリーでの成績はあまり期待していませんでした。しかし、ふたを開けてみれば、現在(ダカールラリー11連覇中で)トップに君臨するKTMともいい勝負ができました。

このラリーの目的は、まずマシンのシェイクダウンと実戦での性能検証。それに、ライダーを含むスタッフの適性判断と、11カ国から集まった30人に及ぶライダーとスタッフの間に、チームワークを構築することでした。結果的には、それぞれの項目で非常に濃い内容のフィードバックが得られました。マシンについては70%の出来であることが事前に分かっていましたので、このラリーでは問題点を洗い出し、ダカールまでに解決することが目的でした。

10月に開催されたインターモト(国際オートバイ・スクーター専門見本市)でマシンが初めて披露されましたが、現地での反響はどうでしたか。

とてもいいものでした。特にデザインについては高い評価をいただきました。やはり久々のワークス参戦ということで、大きな注目を浴びています。デザインは当初からほとんど変わっていなかったので、最初の段階でのデザインの精度が高かったことが、インターモトで再確認できました。

TIPS OF DAKAR ダカールをもっと楽しむための豆知識 インターモトとは

国際的な二輪モーターショーで、正式名称はInternational Motorcycle, Scooter and Bicycle Fair(国際オートバイ・スクーター専門見本市)です。今年は10月2日から19日にかけてドイツのケルン市で開催。CRF450 RALLYが初めて披露され、話題になりました。

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