テーマ1 走行性能
NSXの話を始める前に、いきなりS2000を引き合いに出すことになるが、出来の良いフロントミッドシップスポーツは出来の良いリアミッドシップスポーツにユーザーを誘引する因子を秘めていると言える。50:50バランスのFRスポーツカーは慣性モーメントの小ささから優れた操縦性を有する反面、フロント荷重時のスタビリティやトラクションが不足するという事態も生じる。そうすると、車両の路面対応バランスを重視する場合、リア駆動スポーツカーはややリアヘビーの方がベターバランスか、という解へと自然に至る訳である。そして、国産自動車でS2000と同等以上の出来のリアミッドシップとなると、消去法でNSXしか存在しないのが事実である。 アルミモノコック軽量化車体で2L タイプR系ユニットの最大トルク並みのトルクが低回転域から出ているように感じると書けば、NSXの凄さが分かるだろうか。高回転志向でありながら、さすがはコストのかかった3L V6ユニットである。踏み込めばリアトラクションの強さも相まって蹴飛ばされるような加速をする。それでいながら、あえてエンジン横置きでレイアウトしてマスバランスを重視した結果(他、バッテリー搭載位置など)、コーナーリング時フロントが軽量でノーズの入りが鋭いのも手伝って、サイズ重量以上に軽快感がある。NSXシリーズ最重量であるNSX-Tでも世界一のハンドリングマシンを狙ったという意図は十分以上に伝わってくる。 あと特筆すべきはシャシー設計だろう。ダブルウィッシュボーン、それ自体うっとりするような美しいトラス構造なのだが、機能も一級でスポーツ性と快適性を両立している。「お金と工数がかかってるアシっていうのはこういうものか」と同乗した車好きの方に絶賛された事もある。今日でこそスーパースポーツジャンルでは電子制御式のアクティブサスなんてものもあるが、20年以上前にそれに近いことを構造体として盛り込んだのはもっと評価されていいと思う。
テーマ2 内装/居住性
NSXがNew Sports、解放するスポーツと銘打って世に出たのは、それまで機械本位だった構造を人間本位に改めたからというのは言うまでもないことだが、水平視界の良好さは今日においても非常に高レベルで、死角らしい死角はほとんど無い。ただし、外装デザインは気に入っているのだが、ルーフの低さから、縦方向の圧迫感が強いのは否めない。クーペ時、私が適正なドライビングポジションをとると、クリアランスは手のひら一枚分しかないのである。NSXを探して行脚していた折、この点どうしたものかと思っていたのだが、何かの間違いでNSX-Tを入手できたので、この点は問題にならなくなった。スーパーカーにルーフなど不要で、NSXに乗って見上げる空というのは実に気持ちが良いものである。ドライブして木陰に車を止めてぼんやり空を眺めていると、それだけで「この先何があっても、この車所有できた一点のみでそこそこ良い人生だったと振り返れるだろうな」という感慨が湧いてくる。 無段階変化の電動パワーシートにチルト&テレスコピックステアリングでドライビングポジション調整も万全である。シートのホールド性も良好。ただし、オープントップの車両剛性感にステアリング支持剛性がかなり効いてくるのを感じたのは痛し痒しである。オープン時の体感車両剛性はS2000よりはやや落ちるように感じるが、タルガトップ方式のおかげで、ルーフロック時、ルーフに前後2か所ずつ内蔵された金属製固定ピンで、ピラー上端部と剛結されるためクーペ時の車体剛性はノーマルクーペと遜色ないレベルである。なお、オープン時の風のマネジメントは、ウィンドウを上げていれば巻き込みは殆どなく快適(実は、ウィンドウ下げるとリアパーテーションガラスに風が当たり車内に無秩序に吹き荒れるのだが、これが結構気持ち良かったりもする)。サンバイザーも視界を妨げない品が奢られ、解放感を高める要素となっている。
テーマ3 装備/オプション
NSXは発売中盤以降、カスタムオーダープランが充実し実は膨大な内外装バリエーションが存在しているのだが、この車両もその内の一つで、カスタムカラー、カスタム内装である。米国アリゾナ州フェニックスには行ったことはないが、ボディカラー『フェニックスブルー』は西海岸の青い空のイメージなのか実にNSXにマッチしていて良いと思う。内装は購入時内装は購入時「あら、なんかきれいな本木目ついてるわ」程度に思っていたのだが、後に官公庁御用達の某木工社謹製のお値段…万円と知り、改めてバブルとは一体何だったのかと言う事をテーマに苦悩する事となるのだが、内装担当者の方もある意味お祭りに乗じてやりたいこと貫いたのだろうなぁと思う。 マニュアルトランスミッション党の私にとって、このモデルには出来の良いセミATが搭載されていることも購入の決め手になった。欲を言えば、1速も任意変速できるようになって欲しい所だが、2〜4速は一定速度以上ならパドルで任意変速でき、変速レスポンスも鋭く不満はない(DBWと連動したり等)。ロックアップレスポンスも良好で、駆動伝達に滑っているような違和感がなく、かつ燃費もコンスタントに8km/L以上出ているため、トランスミッションも当時の最高技術投入して仕上げたんだなぁと感心している。 他にも、97年式なので早くもHIDライトが標準搭載されているだとか、ハードトップの格納部も後車軸の前で完全ミッドシップになっているなど、語りたいことは山ほどあるが、最後に、この車両を作り出してくれた事に感謝申し述べて終わりたい。NSXとはその佇まいのみで人に夢を与える概念である。大げさかもしれないが、夢を見て、夢が叶いこの世界に生まれて良かったと思う(隣の市まで車バカがいると噂が広まった上、維持費で首が回らないとしても…)。
ご購入される前にこのクルマにどんなイメージをお持ちでしたか?デザイン、性能等で期待されていたことを含め、お聞かせください。
昨年、愛車自慢の方に投稿した内容でも触れたが、正直なところ、私はNSXにあまり良い印象を持っていなかった。しかも思い返すと、同時所有しているS2000や初代インサイトほどは世に出た時の印象も残っていない。NSXが世に出た1990年、私は10歳で、実際の自動車にはあまり興味がまだなく、組み立て式のキットカーで遊ぶのに夢中だったため無理もない話ではあるが。 生産終了の2005年、職業選択でミスをして不向きな仕事を選んでしまい、新卒で入った会社を1年あまりで辞めて、数か月のニート生活の後、どうやって人生立て直すか悩みつつ、むっつり真面目に再就職先でひたすら労働に精を出していた頃である。NSX生産終了は結構大きなニュースとして取り扱われていたので、目に止まり「ああ、いままで頑張って作り続けてたのか」ぐらいの感情は抱いたが、所詮はバブル経済の仇花よなと冷めた視線を送ったのも事実である。 そんな私が「NSX is LOVE」と叫ぶ人間に変貌を遂げた理由を詳述しはじめると、1万字超の報告書が書ける自信があるが、要するに、某童話の『酸っぱい葡萄』の話の類だったというのがオチである。振り返るとひがみ根性丸出しで、良いものを良いと素直に認められなかった私という人間の器の何と狭量な事か。穴があったら入りたいぐらい恥ずかしい。今となっては、この工学に真摯に向き合い生み出された国産スーパースポーツをただ誇りに思う。 そのような訳で、次期NSXの発売カウントダウンも遠からずというこの時期に、1980年生まれのへっぽこサラリーマンオーナーの視点から見た初代NSXについて語るのもそれなりに面白い事かと考え、完全な自己満足でもあり恐縮ではあるが、筆…じゃなくてタイプを走らせる次第である。