皐月(さつき)の好日である。初年度登録が平成7年(1995年)1月の私のNSXは、今年25歳になった。そのことを前提に改めてNSXという車を見ると、そして運転してみると、素直に驚くほかない。極端に低い車高で、流麗かつ斬新、芸術作品といっていい外観の美しさに加えて、乗り心地の良さ、運転のし易さ、走りの素直さ、気持ち良さは一度乗ると忘れない。張りつめたような雰囲気を持ちながら、自然で、柔らかく、力みがない。乗り手に優しい。それでいてスポーツカーとしての走りは確かだ。NSXは、やはり並ぶもののない特別な車だ。
私がこの車を初めて見たのは、岐阜にある小さな専門店のガレージだった。静かに、佇むように置かれていたNSXに言葉にならない衝撃を受け、ただ見入っていた私に、案内してくれた店長は、「NSXは、たとえ古くなっても、他の車とは格が違います」と言った。あれから間もなく7年になるが、あの時聞いた専門店の店長の言葉は、今でも色あせることなく私の記憶の中にある。
近年、一部のスポーツカーは大型になり、大排気量になり、高出力になった。当然、スピードも出る。そんな背景もあってか、車幅がどうの、馬力がどうの、サーキットのラップタイムがどうのと、現行のスポーツカーに乗りながら、スペック表を見て親子ほども年式の違う初代のNSXを単純に比較し、優劣を評価する声がいまだに一部から聞こえる。けれどもそれは、言い換えれば、それほどの年式の違いにもかかわらず、初代のNSXが今でも強く意識されているということの現れでもある。車に言葉が話せたら、NSXはきっと苦笑して、「スポーツカーの価値はそんな事で決められるものではないよ」と言うだろう。或いは、「どうだっていいよ、そんなこと」と一蹴するかもしれない。新車で買える高性能なスポーツカーが山ほどあっても、30年から15年も前の初代のNSXを手放さず、改造もせず、長く大切に乗っている人や、昨今の中古車市場で多少値が張ったとしても、予算に見合う状態の良い車両が見つかれば是非とも購入したい、できることならいつか乗ってみたいと憧れている人は今でも多い。NSXというのは、それほどの車である。そんな車を所有できる幸運を、一人静かに誇らしく思っている。


