去年（2021）の秋、通い慣れた通勤路で黒いセダンとすれ違いました。見知らぬその車の後姿をミラーで確認。その時はHマークしかわかりませんでした。気になる車でしたが、その時はWEBで検索するほどでもなく「またすれ違った時で…」と答えは先送りに。しかしその日から例の車とは毎朝すれ違うように。お互い通勤のためなのか同じ時間に同じ場所で。そんなある日、いつもの場所より少し進んだ交差点で信号待ちをしていると、例の車が右折してきました。リアには黒く鈍く光る『INSIGHT』の文字。「新型出てたのかインサイト！渋い！」という驚きが最初でした。

先代のZE2型がデビューした時は、同じ通勤路でも一日に5台くらいは目にしていたインサイト。いつしか見かける台数も減り記憶から薄れていきそうになった頃、縁あって妻が迎えた車が、1番上の息子が乗っていたCR-Zでした。ほどなく次は、小さい頃から「ちびっくだいすき」な2番目の息子が自立するにあたり選んだ車も、なぜかCR-Z。我が家の駐車場にはシルバーとブラックの2台のCR-Zが並んでいました。
肝心の私の愛車は20年選手を誓った1BOX。既に新車購入から15年経過し、随所に疲れが見え始めてきた頃です。それに昨今の燃料費の高騰。確実に愛車に乗れる時間は以前より減っていました。また子供が巣立つにつれ1BOXの必要性も薄れ、休日のお出かけも最近は妻のCR-Zを私が運転して2人で出かけていました。初めてのHonda IMA、低重心な走行性能は、ひっくり返りそうになっていた1BOXとは比較にもならないほど鋭く、燃費性能に至っては愛車の3倍以上。「いい車だなぁ」と、隣の芝生を眺めるついこの頃でした。

多少の時間が流れて今年（2022）の春。愛車は13年越えの重課税対象。大切にしているだけあって悩ましい季節です。さらに重なる燃料費の高騰。車を所有する環境は愛車を購入した15年前とは大分変っていました。そんなある日、妻とたまたま話題がかち合いました。

「車を買おう」

15年大切にしていた愛車を手放す覚悟。また新車を迎える期待が重なった瞬間です。
信頼できる、確かな性能、新しく家族となる、私が乗りたい渋い車、そう…迷うことなくインサイトに白羽の矢が立ちました。
私は私を走る…。

セダンの中でも走行、燃費性能に優れ、最初から標準で安全装備が充実しているこの車が与えてくれるものは確かな安心。

必要な物がすべて手に収まるピッタリ感。身長180cmの私が乗っても頭上からプレッシャーは感じません。フロントスクリーンからは多くの光が入り開放的。時折ゲストを迎えた時、後部座席で得るものはゆったりとウタタネを誘う落ち着ける空間。豪華絢爛な土足で乗車するのを躊躇われる車よりも、「あの車で行こう」って言ってもらえる身近な存在感を感じます。

威圧感のない大人な空気に、シャッキリと二枚目な品のあるスタイリング。決して新しさは強くないが、シビックでもアコードでもない独自の渋い表情を持っています。一度見ると印象に残る、そんな外観。ピカピカに磨いたらピカピカで応えてくれる。

「燃費いいから」と高騰する燃料費をついつい忘れて出かけてしまう甘い誘惑すら醸し出している愛嬌。「あそこに行きたい」とリクエストを受け、旅の途中でウタタネする助手席の平穏。「あの車に2回乗ったんだよ」と話をする同僚の子供たちの自慢。納車前の期待を大きく超える不思議な幸福感をみんなにもたらしてくれています。

また購入前に下調べをした燃費等のカタログスペックは、実走するとすべてその数字を上回るあたり、Hondaさんの公表する数字に関する誠実さを感じる1台でもありました。昨今流行りのユーザーが選ぶオプションてんこ盛りで完成する車ではなく、Hondaさんが作った車をユーザーに届けたい完成した形で届けてくれるノーマルがすごく好きです。オプションは追加するものではなく、メーカーが『完成』を超えた『完全』と呼べる状態からユーザーが不要と考える物を省くものではないでしょうか。私はそう考えました。

あと私の主観ですが、インサイト乗りは仲良しな気がします。見つけると近寄るし近寄ってくる。一緒の速度で幹線道路を走ると、交差点での別れが寂しく感じる瞬間すらあります。確かに街を走っている絶対数は少ないです。それだけにインサイトを選ぶ人、乗り続ける人は、心から良いと感じ大切にしている人が多いからではないでしょうか。

残念ながら生産は終了となり、現行が最終型になってはしまいましたが、インサイトの歴史は復活の繰り返しです。
私は私を走るので、あなたはあなたを走ってみてはいかがでしょうか。