畑の土を極める
最終回

栽培の達人は耕し上手

いい状態をキープする土質別耕うんのコツ

  • 野菜だより 2019年11月号
  • 監修:木嶋利男
  • 構成・原稿:たねまき舎
  • 写真:鈴木忍
  • イラスト:小堀文彦

この連載では、野菜が健康に育つ畑の土づくりを紹介してきました。最終回のテーマは、土質別耕うんのコツです。畑にもいろいろあります。雨が降るといつまでも水が引かない畑もあれば、逆に、水はけがよすぎるザルのような畑もあり、畑のタイプごとにふさわしい耕し方があります。コツを覚えて、おいしい野菜づくりを大いに楽しんでください。

木嶋利男さん
監修=木嶋利男さん
きじまとしお● 1948 年、栃木県生まれ。東京大学農学博士。伝統農法文化研究所代表。長年にわたり有機農法と伝承農法の実証研究に取り組む。雑誌、書籍、講演会活動を通じ、農薬と化学肥料に頼らない野菜づくりを提案し、自然の力を活かした農法の普及に努めている。『木嶋利男野菜の性格アイデア栽培』『農薬に頼らない病虫害対策』(ともに小社刊)が絶賛発売中。

TOPICS

1土の性質はさまざま

畑の土もいろいろ。ざらついた砂っぽい土から、みっちりとした粘土のような重い土まで、地域ごとにさまざまなタイプが分布しています。

土は、粒子の大きい「砂」と粒子の細かい「粘土」が混ざってできていて、含まれる粘土の割合で土質が決まります。粘土が少ない「砂質の土」、粘土と砂が程々に混ざる「中間的な土」、粘土が多い「粘土質の土」に大きく分けられます。土質によって水はけ、保肥力、団粒構造のできやすさなど、野菜づくりで重要な機能に大きな差があります。そこで、耕し方を工夫して弱点を補う土づくりをすることがポイントになります。

1年目は立体構造の土づくりをする
(粘土質~中間的な土)

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立体構造をつくる

作土層を下から順にゴロゴロ、コロコロ、ナメラカの3層に耕して立体構造をつくると、通気性、通水性が向上します。そのおかげで根の張りがとてもよくなり、土壌微生物も活性化して土の団粒化が促進し、野菜の生育が促されます。

2土質により耕し方を変える

1粘土質~中間的な土質の畑

初回に立体構造をつくったらあとは表層施肥で団粒をキープ

粘土質~中間的な土質の土地を初めて耕して畑にする場合、連載第1回目で紹介した「3層の立体構造の土づくり」をすると、土の水はけと通気性がよくなり、野菜がよく育つようになります。

元肥の量は、中間的な土質の場合は1㎡あたり堆肥約2㎏を目安にします。粘土質の畑は保肥力が高いため、堆肥の量は2割減の約1・5㎏/㎡としてください。

多肥では病気が出やすくなるので注意しましょう。また、雨後の耕うんは避け、土が乾き気味のときに耕してください。

さて、2年目からは、土の立体構造を壊さずに、表層5㎝程度をレーキなどで耕して元肥をすき込む「表層施肥」がおすすめです。土の表層は空気が豊富で土壌微生物が盛んに活動する場所ですから、土の団粒化が進みます。野菜が根をすくすくと伸ばして、必要な養分を吸収できるになります。

なお、有機栽培の場合は、元肥の量を年々減らしていきます。2年目は初回の半分~3分の2程度、3年目からは初回の半分を目安にします。

2砂質の畑

初回は多めの堆肥で土づくり耕す回数は最小限にする

砂質の土は粘土が少ないため土が塊にならず、立体構造をつくることはできません。作土層全体を耕して野菜づくりに備えます。

砂質の畑の難点は土が乾きやすいことです。これを改善するために、初回は多めの元肥を作土層全体にすき込んで土壌改良を行います。目安は堆肥5㎏/㎡です。これで保水性と保肥力が向上します。

2年目からも、元肥を作土層全体にすき込んで野菜づくりを続けます。目安は2・5㎏/㎡の堆肥です。

砂質の土は有機物の分解スピードが速いので、何度も耕すとそれだけ地力が低下します。耕うんは畝立て時の1度にとどめます。

また、砂質の畑では、溝を掘って元肥を20㎝程度の深さに埋めておく方法も有効です。深い場所では空気が少ない分、有機物はゆっくり分解されます。そのため肥料効果がジワジワと長続きします。生育期間が長い野菜(トマト、ナス、キャベツ、ハクサイなど)に向いた土づくりの方法です。なお、ダイコンやゴボウなど根が長く伸びる野菜には向きません。根が堆肥や肥料にぶつかると又根の原因になるからです。

畑の土質をチェック

土を湿らせてコヨリをつくる
畑の土を採取してきて、霧吹きで水分を加えて湿らせます。これを手と指で捩ってコヨリをつくってみましょう。まとまり具合によって自分の畑の土のタイプを判定できます。
粘土質の土
  • 粘土が多いため土は細いヒモ状になる。
  • 水はけが悪く野菜は湿害を受けやすい。水はけの悪さを改善すれば、もともと保水力と保肥力が高い土なので、味のいい野菜が育つ。
中間的な土
  1. ボソボソと棒状にまとまる。
  2. 土がやわらかく耕すのがラクで野菜づくりに向いている土。
  3. は河川流域によく見られる「沖積土」。団粒になりやすい。
  4. は関東地方に見られる火山灰土「黒ボク土」。
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砂質の土
  • 粘土が少なくバラバラになる。
  • 野菜は乾燥害を受けやすいので改善が必要。水はけがよく土が温まりやすいので野菜の生長が早い。粘土が少ないため団粒はできにくい。

耕うん機を使った土質別の耕やし方

1粘土質~中間的な土質の畑

耕うん機で立体構造をつくり2年目からは表層施肥

耕うん機を利用する場合も、土質に合わせた土づくりをします。

前輪のタイヤの位置をレバーで変えるとカンタンに耕す深さを調節できるサ・ラ・ダ FF300なら、土質に合わせた土作りにも最適です。

粘土質~中間的な土質の畑では最初に立体構造をつくりたいので、昨年9月号で紹介した通り、耕す深さを変えて2回耕うん機をかけます。1回目は深めに(約16㎝)粗く耕し、2回目は、畝の表面に元肥をまいて浅めに(約7~10㎝)耕します。最後にレーキなどで表層をならして畝の形を整えます。これで3層の立体構造をつくることができます。

2年目からは、元肥をまいたら表層のみを(5~7㎝程度)耕うん機で耕します。これで、立体構造をキープしながら、表層から土を肥やすことができます。やり方は下の写真を参考にしてください。

粘土質~ 中間的な土質の畑
立体構造をつくったら2年目表層耕うんで団粒をキープする
  1. 2年目以降の耕し方です。まず畝をつくる場所に元肥をまきます。
  2. 深さ5~7㎝の深さまでを、土のかたさによって1~2回耕して元肥をすき込み、レーキや鍬で畝の表面をならして、植えつけに備えます。
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各土質
共通
耕うんする前に除草しておく

畝をつくる場所に雑草が生えていたら、耕うん前に除草しておきます。これは各土質に共通の作業です。

草刈り鎌や鍬を使って雑草を地際で削るか、耕うん機を利用して除草します。耕うん機なら広い範囲の除草もラクにこなせるのでおすすめです。

耕うん機で除草する場合は耕うん深度を浅めに設定しておきます。回転するロータリーによって雑草を地際で削り取ることができます。

削り取った雑草は、熊手やレーキで集めて畑の外に出して処分しましょう。

  1. 前輪の位置を変え、耕うん深度を浅めに設定します。土のかたさや草の状態によって適当な深さに調節します。
  2. 耕うん機をかけると、雑草の根が地際で断ち切られます。
  3. 耕うん機は広範囲の除草も簡単にこなせるので重宝します。
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2砂質の畑

作土層全体に耕うん機をかけ元肥をすき込んでおく

砂質の畑では、深さ16㎝程度の作土層全体を耕うん機で耕して元肥をすき込んで土づくりをします。

元肥の量は、初回は堆肥5㎏/㎡が目安です。畝をつくる場所に堆肥をまき、土のかたさによって1~2回耕うん機をかけ、作土層全体にすき込んでおきましょう。

2年目以降は、初回の半量の堆肥を作土層全体に耕うん機ですき込んで地力の維持に努めます。

砂質の畑では、元肥を深い位置に埋めておく方法もおすすめです。

手作業では労力も時間もかかりますが、耕うん機を利用すれば簡単に作業できます(パターン②)。まず、耕うん機に培土器をセットし、畝をつくる場所に培土器で溝をつくります。元肥を入れたら土を寄せて溝を埋め戻し、畝の形を整えます

砂質の畑
パターン①作土層全体を耕して堆肥を多めにすき込む
砂質の畑では、耕うん深度を深めに設定して(約16㎝)、耕うん機を作土層全体にかけます。初回は多めの堆肥で土壌改良を進め、2年目以降も元肥を全層に施して土づくりを続けるのがポイントです。
パターン②深い位置に堆肥を層状に施す
  1. 培土器をセットした耕うん機をかけて、畝をつくる場所の中央に沿って深めの溝をつくります。
  2. 溝に元肥をまきます。
  3. 溝の左右から土を培土器で寄せて溝を埋めます。
  4. 寄せた土の表面を平らにならして畝の形を整えます。元肥が畝の表面から約20㎝下に埋まるよう、溝を深めに掘って畝の高さで調節するのがポイントです。
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重要降雨後の耕うんは避ける

雨が降った翌日など、土が湿りすぎているときに耕うん機をかけるのは避けます。土がこねられ、土中の空気が少なくなり土が締まってしまいます。とくに粘土質の畑では要注意。雨が降ったら3~4日待って耕うん機をかけるといいでしょう。これは、鍬を使って耕す場合も同様です。

深さ4~5㎝の土を手で握ると団子になり、指でつつくとホロッと崩れる程度の湿り気が耕うんに適した状態の土です。

耕うん機を使うメリット

  • 土づくり作業の労力と時間が大幅削減できる
  • さまざまな土質の畑の土づくりに容易に対応