畑の土を極める

栽培の達人は耕し上手

立体構造の土をつくる

  • 野菜だより 2018年9月号
  • 監修:木嶋利男
  • 構成・原稿:たねまき舎
  • 写真:鈴木忍
  • イラスト:小堀文彦

野菜を健全に育てるためには、畑の土をどうつくるかにかかってきます。 この連載では、野菜が好む土をは何かを考察し、理想の土づくりの具体的な方法を探っていきます。第1回目は、畑の土の耕し方です。鍬や耕うん機の使い方を工夫すると、野菜の根がよく張る土をつくることができます。

木嶋利男さん
監修=木嶋利男さん
きじまとしお● 1948 年、栃木県生まれ。東京大学農学博士。伝統農法文化研究所代表。長年にわたり有機農法と伝承農法の実証研究に取り組む。雑誌、書籍、講演会活動を通じ、農薬と化学肥料に頼らない野菜づくりを提案し、自然の力を活かした農法の普及に努めている。『木嶋利男野菜の性格アイデア栽培』『農薬に頼らない病虫害対策』(ともに小社刊)が絶賛発売中。

TOPICS

1なぜ耕すのか?

野菜の生育を促す重要な作業

野菜づくりを始める前、まず行うことは畑の土を耕すことです。

かたく締まった土をほぐし、土の中に空気をたっぷり含ませることが ポイントで、水はけがよくなり、野菜は土の中に根を伸ばしやすくなります。また、酸素を必要とする土壌微生物が活動しやすくなるため、畑に投入した堆肥などの有機物の分解が進み、野菜に栄養を十分に供給できるようになります。

耕して土の三相バランスを整える
土は固体部分と隙間でできています。固体部分を“固相”といいます。隙間には空気と水が存在し、空気の部分が“気相”、水の部分が“液相”です。固相と隙間の割合が半々くらい、さらに、隙間に存在する液相と気相が半々くらいの環境が理想的で、野菜の根はよく発達します。耕し方を工夫すると、三相バランスをうまく整えることができます。

2耕さないで
タネをまくとどうなる?

野菜の生育を促す重要な作業

耕さずにかたく締まった土にタネをまいても、思うように野菜を育てることはできません。

土の中に十分な酸素がないために根は伸び悩み、したがって地上部も枝葉を大きく広げることができず、残念な結果になるでしょう。

まず、適量の堆肥をまいたら土を耕して混ぜ込みます。4週間ほど時間をおいて土中の微生物相が落ち着いたところでタネまきや苗の植えつけをします。これで野菜は根をよく張って元気に育つようになります。

ただし、やみくもに土を耕したのではうまくいきません。よくある失敗は“土を細かく耕しすぎる”ことです。雨が降ると、かえって土がかたく締まってしまいます。

家庭菜園では鍬を使って耕すか、また、耕うん機を使って土を耕す人も増えています。後半では、耕し方のコツを紹介します。野菜が健康に育つ、立体構造の土づくりです。併せて、堆肥の量の目安も紹介します。

耕すと生物活性が高まる
土を耕して堆肥などの有機物を投入し、十分な空気と水分を得ると土壌微生物が盛んに活動します。土はコロコロした団粒となり、理想的な三相バランスが整います。この環境で野菜は根をどんどん発達させて生長します。
耕さない畑は生物活性が低い
はじめて野菜をつくる土地では、土が踏み固められていたり、雨で叩かれて締まっていたり、土中に空気が少ない環境であるうえ、土中に有機物が少ないため、土壌微生物が活動しにくく、その結果、野菜は伸び悩んでしまいます。

耕すことでえられるメリット

  • 水はけがよくなる
  • 土の中に空気が入る
  • 土壌微生物が活性化
  • 肥料効果が発現
発芽がそろう
タネの発芽には、水分、空気、温度の好適な条件が必要です。握るとしっとりした団子になるような、三相バランスのいい土が理想的です。
活着がスムーズ
苗を植えた場合も三相バランスのいい土なら、根が速やかに伸び出してトラブルなく根付きます。その後の生長も順調になります。
生育促進
水はけがよく、根腐れの心配がありません。野菜を育てる有用微生物が多く活動するため、野菜を害する微生物が相対的に抑えられます。

3根がよく張る
“立体構造”の土づくり

15~18㎝の作土層を耕して3層構造にする

かたく締まった土を野菜づくりに向く土に変えるには、まず、水はけをよくすることを第一に考えます。

土を耕して隙間をつくって空気を含ませますが、その際、耕し方を3段階に分けるのがおすすめです。

耕し方は左の通り。ポイントは、“作土層”を下から“ゴロゴロ層”“コロコロ層”“ナメラカ層”の3層構造にすることです。作土層とは野菜が根を張るスペースのことで、ほとんどの野菜は15~18㎝あれば十分に育ちます(ダイコンなどの長い根菜類は約40 ㎝の作土層が必要です)。

3層構造にすることで、水と空気の通りが自然によくなり、野菜の根がよく発達する畑になります。

なお、①のゴロゴロ層をつくったら堆肥を土の表面にまき、②のコロ コロ層をつくりながら堆肥を土にザックリと混ぜ込みます。空気が豊富な土の表層で土壌微生物が盛んに活動して堆肥を分解し、野菜に栄養を供給し、同時に団粒構造の土が自然に出来上がります。

堆肥は土が1年間で消費できる量を施します。壌土の畑の場合、中間地なら1㎡あたり2㎏が目安です。温暖な地域では2・5㎏、寒冷地では1・5㎏を目安にします。

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野菜の生長が促される
理想の立体構造の土
土を耕して堆肥などの有機物を投入し、十分な空気と水分を得ると土壌微生物が盛んに活動します。土はコロコロした団粒となり、理想的な三相バランスが整います。この環境で野菜は根をどんどん発達させて生長します。
注意耕しすぎるとかえって
土をかたくしてしまう
土を耕しすぎてはいけません。土が細かくなると土中の隙間が少なくなり、また、「雨降って地固まる」という通り、時間がたつと土は次第に密に締まってかたくなってしまいます。左のイラストの様な、大小の塊がゴロゴロしている土壌構造をイメージして土を耕しましょう。

4耕うん機で
立体構造の土をつくる

深めに1度耕したら浅めにもう1度耕す

鍬で土を起こして一から畑をつくるには相当な労力が必要です。体力と相談して、耕うん機の導入を検討するといいでしょう。

しかし、耕うん機を利用すると、どうしても土を細かく耕してしまいがちです。耕し過ぎに注意しながら、水はけと通気性のいい立体構造の土をつくることが大事です。

そこで、耕す深さを変えて2回耕うん機をかけることで、立体構造の土をつくることが可能になります。

いろいろな耕うん機がありますが、 立体構造の土をつくるには今回利用した『サ・ラ・ダFF300』のような、耕す深さを簡単に調節できる耕うん機がおすすめです。ロータリー(爪)が正逆転するタイプなので、かたい土でもダッシングする心配がなく初心者でも安心です。

耕し方は左の通りです。1回目は深めに、2回目は浅めに耕うんするのがポイントで、こうすると下層はゴロゴロ、表層はコロコロになります。畝を立てたら最後に表層を均しましょう。

畑の土質はさまざまですから、土がかたければ様子を見て耕うんの回数を増やすといいでしょう。

11回目は深く耕す

  1. 「サ・ラ・ダ FF300」を利用。1回目の耕うんはレバーを5段目にして深めに耕します。
  2. ロータリーが同時に正逆回転するタイプなので、深くまでしっかりと爪が食い込んで土を耕せます。
  3. 深さ約16㎝までの部分が、ゴロゴロ層になりました。
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耕す深さを変えられる耕うん機を選ぶ

レバーで耕す深さを変える
今回利用した「サ・ラ・ダFF300」は、前方のタイヤの位置をレバーで変えると、耕す深さを簡単に調整できます。深さの目安は左の表ですが、土質によって耕す深さは変わるので、実際に耕してみてレバーの位置を決めてください。1回目は深く耕し、2回目は10㎝程度の深さまでを耕すといいでしょう。
  • 耕す深さの目安
  • 1段目 移動時
  • 2段目 約2㎝
  • 3段目 約6㎝
  • 4段目 約12㎝
  • 5段目 約16㎝

22回目は浅く耕す

  1. ゴロゴロ層をつくったら堆肥をまき、レバーの位置を変えてもう一度浅めに耕します。
  2. 思ったよりも深く爪が入って行ったので、レバーの位置は2段目にしました。
  3. 表層から7~10㎝の部分がコロコロの土になりました。
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耕うん機を使うメリット

  • 鍬よりも短時間で作業が終わる
  • 深く耕すときもラクラクで力いらず
注意ザラザラの砂質土壌の畑では
耕す回数は1回で十分
粘土質の畑や壌土の畑では、今回紹介した耕し方で立体構造の土をつくることができます。
ただ、サラサラの砂っぽい畑では立体構造をつくれません。砂質の畑の特徴は、水はけがよくて温まりやすいことです。そのため、堆肥など有機物の消耗が激しいので、回数を多く耕すと地力が低下します。堆肥をまいたら1回耕すだけにとどめ、タネまきや苗の植えつけに備えるといいでしょう。鍬を使う場合も耕うん機を使う場合も共通です。
なお、砂質の畑では、堆肥の量は62ページで紹介した量の2割増しとし、反対に、肥料持ちのいい粘土質の畑では2割減を目安にします。
砂質
九州地方に分布するシラス土です。深くまで均質な砂粒なので立体構造はつくれません。多めの堆肥をまき、1回耕うんして植えつけに備えます。
粘土質
粘土質の畑ではゴロゴロ、コロコロの土がつくれます。堆肥の量は控えめにしましょう。