旅するレーシングカーN-ONEオーナーズカップのある暮らし~元Hondaエンジニア・野口牧人さんの場合

旅するレーシングカーN-ONEオーナーズカップのある暮らし~元Hondaエンジニア・野口牧人さんの場合

こんなにほのぼのしたレースがあったなんて

「私が知っているレースといえば、『Honda R&D Europe』の社長をしていた頃のF1です。当時はHondaがうまくいっていなかったこともあって、ヒリヒリするような空気が流れていたのを覚えています」 果たして、レースデビューを果たした野口さんだが、パドックに流れる雰囲気にはいい意味で裏切られたという。

「たとえば、西郷さんはメカニックなので、トラブルへの対処などはお手の物です。私のような初心者の駆け込み寺みたいになっているし、セッティングで困ったら隣の人に聞くと平気でコツを教えてくれちゃう。入るまでは敷居が高いと思うかもしれませんが、入ってみると拍子抜けするくらい暖かい。もちろんレースは真剣に順位を競いますが、パドックに流れる空気はどこまでもほのぼのとしています。ちょっと驚きましたね」

全国各地のHonda Carsが主体となったディーラー系チームも多いが、野口さんのようなプライベーター層も厚い。 「家族連れの方もいるし、学校の先生もいるし、私のような『前期高齢者』もいますし……(笑)。ああ、そうそう、70歳を超えているのに、むちゃくちゃ速い人や、ご自分で手がけるお菓子の宣伝を兼ねて走っている方もいます。この人も速い。みなさん個性豊かで本当に面白いですよ」

そして何より、野口さんを魅了したのが「進歩している実感」である。
参戦初年度の成績は、26ポイントを獲得して185台中56位。対する2年目は、全戦を終えて182台中43位。
「まあ、レースはレースで他のクルマもいますし、いろいろなことが起こるので、順位は二の次なんです。それよりも、目に見えてタイムが伸びていくことが本当に面白くて」

例えば野口さんの参戦初年度、2018年 4月21日に行われた第4戦の鈴鹿サーキットの予選タイムは3'10'145。対する2019年4月20日の第2戦、同じく鈴鹿サーキットの予選タイムは3'08.310。実に2秒近いタイムアップを果たしているのがわかる。 「歳を取ると、普通は何もかも劣化する一方でしょう。それなのに、この歳になってもまだ『伸びる』んですよ。何かを始めるのに遅すぎることはない、とはよく言われますが、まさしくその通りですよね」 150回も「HMS」に通い詰めて腕を磨いた野口さんの言葉には重みがある。

レーシングカーで旅する日本

N-ONEオーナーズカップはナンバー付きのN-ONEで争われるレース。当然、公道を走ることもできる。つまり、普段は買い物に使うこともできれば、レースが行われるサーキットまで自走していくことも可能だということだ。野口さんはそんなN-ONEオーナーズカップの利点を最大限に活かし、北は十勝スピードウェイ、南はオートポリスまで全レースに、フェリーも使いながら自走で参戦している。そんな野口さんのお気に入りのコースはどこなのだろうか。

「まず鈴鹿。何がいいかと言えば『クアガーデン』ですよ。N-ONEで自走しながら全国各地いろいろな温泉施設を巡ってきましたが、あの打たせ湯は最高です。あ、コースのことですか?F1ドライバーが口々に褒めるのもわかります。素人が走っても最高に楽しいし、恐い(笑)。一方でハードブレーキをするシーンが無いし、途中で右回りから左回りに変わるから、タイヤも左右均等に減る。クルマに優しいコースでもありますね」

次に挙げたのは大分県のオートポリス。
「別府の港にフェリーで到着して、そこから道中の温泉を訪ねながらサーキットに向かいます。そのへんに日帰り温泉がたくさんあるので、目に付いたものにふらりと立ち寄りながら向かうのが楽しくて。食事も最高です。釜飯、焼き鳥、馬刺し、夜は焼酎。他のサーキットを回るのを断念したとしても、九州はやめられませんね……」
コースとしては、ここも「楽しさと怖さがベストバランス」で、鈴鹿と並んで面白いコースだという。

レースとともに、N-ONEとともに日本各地を巡ることも楽しみだという。
まさに「旅するレーシングカー」。

N-ONEレースの魅力

フル参戦2年目。着実にポイントを重ねられるところまでドライビングを進化させてきた野口さんだが、次の目標はどこに定めているのだろうか。
「シリーズチャンピオン……を取ろうとしたら、このペースだと80歳くらいになってしまいますね(笑)。1年目は全戦出走、2年目はコンスタントにポイント獲得ができるようになることを目指してきたので、できるだけ長く参戦して、もっと腕を磨いて上位争いができるようになってみたいですね」

平日は野口家の生活を支えるパートナーとして買い出しや近所の移動に活躍しつつ、野口さんとともに日本全国を巡り、レースとなればライバルとその順位やタイムを競い合うN-ONEのオドメーターは、既に6万kmを数えるが、いまだノートラブル。 「ちょっとオーバークオリティーな気がしますね(笑)」と野口さんは話すが、まだまだその距離は延び続けていきそうだ。

「こうしてリタイアしてからでも『成長』を実感させてくれて、これまで知らなかったような旅の楽しさまで教えてくれたN-ONEオーナーズカップは、単に『レース』であることを超えて、人生の大きな楽しみのひとつになってくれたと思います。もしレースをしてみたい、という方がいらっしゃれば、参加者を挙げて歓迎してくれると思います(笑)。ぜひ気軽に参加してみてほしいと思います」

2019年シーズンを終えての野口さんのシリーズランキングは182台中43位。最終戦では34番手から30番手までジャンプアップ。公式結果では29番手に繰り上がったことで、残念ながら「ピッタリ賞」の伊勢海老は手の間からすり抜けることに……。

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