開発者が語る「TYPE R開発史」Honda Sports Driving Meeting-R トークショーレポート

開発者が語る「TYPE R開発史」Honda Sports Driving Meeting-R トークショーレポート

TYPE Rの進化

1995年に初代インテグラ TYPE R(DC2/DB8)、1997年に初代シビック TYPE R(EK9)が誕生。従来のFF車の概念を覆す切れ味鋭いハンドリングや、突き抜けるように回るエンジンで多くの支持を得てゆく。

「FF TYPE R」の進化で象徴的なのは、エンジンパワーだ。初代の1.8L、および1.6LのエンジンからK20A型の2.0Lエンジンへ。これら「FF TYPE R」の進化と歩調を合わせるように、NSX-Rも第二世代へと進化する。2002年にデビューした通称「02R」である。

柿沼「NSXはフルモデルチェンジが無いまま、誕生から10年経っていました。我々がやりたかったのは、もちろんFF TYPE Rと同じようにエンジンパワーを向上させるということ。ただ、国内の自主規制の関係もあってそれは叶いませんでした。そうなると、車体側で何か新しいことをするしかない」

そこで見いだしたのが「空力」によって操縦安定性を高める「空力操安」というコンセプトだ。

柿沼「エンジンパワーを高められない以上、エアロダイナミクスをよくして速くするしかないと。確か私、鈴鹿の西コースで照明を全部落として真っ暗な中でフードに穴を開けたテスト車で効果検証をした記憶があります」

ボディ裏をフラットにして下面を流れるエアの流速を落とさず、スムーズに流してマイナスリフトを得る。そのためには、ラジエーター通過風をボンネット上から排気する必要が生まれたのだ。

「FF TYPE R」の進化も続く。2007年にはおそらく『史上最硬』と言えるシビック TYPE R、「FD2」が誕生し、その後、対照的にしなやかな欧州指向乗り味を持った3ドアの「シビック TYPE R EURO」が国内に台数限定で導入。人気はミニバン、SUVへと移り変わっていったが、スポーツカーとして独自の立ち位置を築きつつ、「TYPE R」は進化を続けていったのだ。

激辛シビック、シビック TYPE Rの進化史

「激辛シビック」ことシビック TYPE Rの歩み。そのベクトルは、パワーウエイトレシオから見ると一目瞭然だ。当然のことながら、パワーウエイトレシオが小さくなればなるほど、ラップタイムは向上する。画面に映し出されたのは、歴代シビック TYPE Rのパワーウエイトレシオと、筑波サーキットでのラップタイム。ラップタイムはある自動車誌によって計測されたもので、ドライバーはすべてモータージャーナリスト、清水和夫さんが務めたものだという。

柿沼「ご覧のようにシビックTYPE R、この20年で320kgほど重くなっています。いろいろなご意見もあるでしょうが、これは安全性や環境法規への対応、クルマとしての商品性を高めるということも含めて避けることのできない重量増加です。特に印象深いのは『EP3』と呼ばれる2代目シビック TYPE Rから『FD2』、4ドアのシビック TYPE Rへのモデルチェンジです」

自然吸気の2.0Lエンジン、K20Aのパワーはほぼ変わらず、重量は100kg増。普通に考えれば、速くなるはずがない。

柿沼「そこで、タイヤのパフォーマンスアップを図ると共に、いかにそれを100%引き出せるサスペンションにするかということにフォーカスしたんです。確かに重たくなったことで、このグラフ上にプロットされた筑波でのタイムはやや後れを取っていますが、鈴鹿ではものすごく速くなっています」

この歩みの先にあるのが、TYPE R史上初めてターボエンジンを搭載した2015年の「FK2」、そして現行の「FK8」である。重量増は避けられない。もちろん、環境への対応無くしてスポーツカーの存続もあり得ない。それだとしても、TYPE Rの「命」であるパフォーマンスを進化させ続ける──ターボエンジンの選択は必然だったのだ。

理想のFFスポーツカー「FK8」の誕生

歴代TYPE Rの中でも「ブッチギリ」の速さを目指した「FK2」に続く「FK8」として目指したのは、「シビック」である以前に「理想のFFスポーツカー」であること。シビックというクルマをベースにパワフルなエンジンに載せ替え、足回りを固め、ボディを補強し……という手法から一歩踏み出し、ベースとなる「シビック」の段階から、「TYPE R」を見据えてプラットフォームやボディを開発することにしたのだ。

柿沼「その上で、重視したのはエアロダイナミクスです。通常のクルマはクルマを浮き上がらせる方向に力が働いているんですが、FK8は前後ともダウンフォースが出ています。決め手となっているのは、やはりデザインです。デビュー直後から『ロボットアニメ風だ』というようなコメントを国内外からいただいているんですが、全て機能に基づいている、と自信を持って言えます。TYPE Rの生みの親である上原さんも『速さだけでなくオーラが必要だ』とおっしゃっていました。賛否両論あるのは覚悟していましたが、我々としては意図通りです」

さらにこだわったのが重量配分だ。

柿沼「ご存じの通り、FF車は走行のためのメカニズムがフロントに集中することからフロントヘビーになります。TYPE Rの場合、2.0Lの高出力エンジンを搭載したこともあり、さらにその傾向が強くなっていました。『FK2』の前後重量配分がおよそ65:35だったのに対し、『FK8』では、これを2.5%ほど後ろに持っていきました」

わずか2.5%……とも思えるかもしれないが、このトークショーに同席した伊沢拓也選手によれば「2019年のミッドシップのNSX-GTと、2020年のFRのNSX-GTくらいの、ものすごい差」とのこと。

柿沼「これも、『TYPE R』まで見据えてプラットフォームやボディを開発したことによる成果ですね。走りでベストを尽くすために、何をするべきなのかを妥協無く追い求めたんです。今回の『FK8』で、TYPE Rはまた新しいステージへと踏み出したのだと考えています」

確固たる走りの「コア」を持つHonda車のパフォーマンスを、とことんピュアに表現する。歴代のTYPE Rは、それぞれ開発の手法は異なれど、一貫してそのコンセプトのもとに開発され続けている。これからも、「TYPE R」は走りを愛するドライバーたちの心に驚きと喜びを与えるクルマとして進化を続ける。その歩みに、ぜひこれからもご注目いただきたい。

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