開発者が語る「TYPE R開発史」Honda Sports Driving Meeting-R トークショーレポート

開発者が語る「TYPE R開発史」Honda Sports Driving Meeting-R トークショーレポート

2019年9月16日(月・祝)、鈴鹿サーキットで、「Honda Sports Driving Meeting」が開催されました。Hondaが長年開催するスポーツカーオーナーのためのプログラムですが、今回はやや「スペシャル」。これが歴代「TYPE R」オーナーのために開催されたからです。ドライビングレッスンに加えて、歴代「TYPE R」の開発に携わってきたエンジニアによるトークショーを実施。歴代「TYPE R」の進化史や誕生秘話などが明かされました。今回は、このトークショーの一部をご紹介しましょう。

「TYPE R」を最前線で見つめてきた開発者は語る

トークショーに登場したのは、シビック TYPE Rの開発責任者、柿沼秀樹。 1991年に入社後、車両の運動に関わるディメンジョンやサスペンション諸元、ジオメトリー関連の研究開発に従事。CR-VやZ、ロゴ、S-MXなど、背の高いクルマに関する車両運動性能の研究に携わった。

1997年に「S2000」の開発に加わったのち、2代目シビック TYPE R(EP3)や2002年のNSX-Rにおける先行開発、2代目インテグラ TYPE Rのモデルチェンジも担当。まさしく「TYPE R」の開発を最前線で見つめ続けてきたエンジニアなのだ。ちなみに、SUPER GTに参戦した「HSV-010」のベースとなったモデルの開発に携わったのも柿沼。トークショーでは「撮影禁止」の資料も披露されたが、それはイベントに参加してのお楽しみ……とさせていただこう。

TYPE R誕生のきっかけ

記念すべき初めての「TYPE R」は、1992年の「NSX-R」である。誕生のきっかけは、初代NSXについて社内外から上がった「これだけでは生ぬるい」という声だったのだという。

柿沼「乗る人に我慢を強いることのないスポーツカーにすべき。それは、初代NSXが打ち立てた、まったく新しいスーパースポーツのコンセプトでした。のちにポルシェやフェラーリが追随することでNSXの考え方が新しいものであることは歴史が証明するのですが、開発時には社内でも色々議論があったそうです」

では、最初の「NSX」を進化させるにあたって、どうするべきか。

柿沼「そこで声を上げたのが社内で『赤派』『レッド派』と呼ばれていた開発者なのだそうです。『生ぬるい』という評価を覆し、NSXの持つパフォーマンスの真価を見せつけたい。そんな思いが形になって、初めての『TYPE R』、NSX-Rが誕生したというわけです。その後のことは皆さんご存じの通り。この『NSX-R』ならではの乗り味が好評となって、インテグラやシビック等に次々と展開されていくことになるのです」

TYPE R生みの親・上原さんが語っていたこと

開発責任者として「NSX-R」も含む初代NSX、初代インテグラ TYPE R、S2000等のスポーツカー開発を主導した、「TYPE Rの生みの親」である上原繁氏は、こんなことを話していたという。

柿沼「『スポーツカーは甘口と中辛だけではダメで、必ず激辛を作らないとダメ』。これは私も直接言われたことですが、非常に印象に残っていますね」

「激辛」。TYPE Rというクルマを語る上でこれほど適した言葉も無いように思えるが、意味するところはどんなことなのか。

柿沼「いかにそのモデルのコアとなるものを表現したクルマを作って、お客様の心に響くものにするか。それこそがスポーツカーの開発で大切なことなのだ、と常々話していましたね。それから、速いだけでもダメ。見た目や演出も含めて、いかに独特のオーラを感じられるようにするか。そこも非常に大切にしていました」

2007年に行われた、上原繁氏の退職祝いの模様。左から2番目が柿沼。

世界でも一級の運動性能を持たせながらも、誰もが快適に使いこなせるようにしたのが初代NSX。ならば、「コア」である運動性能を徹底的に研ぎ澄ましたらどうなるか。言うまでもないことだが、確固たる「コア」の無いクルマにはできない芸当である。間口は広くとも、Hondaが目指したのはリアルスポーツカーそのもののパフォーマンス。それが『生ぬる』かろうはずもないという、NSX開発陣からのひとつの回答だったのだ。

柿沼「上原さんは『生ぬるい』という声に対して一矢報いたいと思っていたそうで、あるモータージャーナリストから『これ以上は本物のレーシングカーしかない』というレビューをもらえたときは、本当にせいせいしたそうです。ちなみに、初代NSX全体における『TYPE R』の販売比率は約10分の1だそうです。それでも、NSXというクルマのキャラクターを考える上では、ノーマルの10倍くらいのインパクトがあったと言ってもいいかもしれません。私たちHondaにとって、『TYPE R』とはそういう強烈なキャラクターを持ったクルマなんです」

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