Hondaの「テストドライバー」って何をする人?

だんだん「テストドライブ」らしくなってきて…

リアの応答性を確かめたあとは、タイトなコーナーが続くワインディングへと向かいます。スポーツカーのテストらしくなってきましたが、ここでチェックする挙動は?

レーンチェンジよりも、もっと大きく舵を入れたときにクルマの挙動がどうなるのか、横Gを上げながら見ていきます。ここでも、別にガンガン攻めるということはありません。あくまでも普通にゆっくりとステアリングを切ったときのクルマの動きがどうか、というところを見ますね。

そこから徐々に横Gを高めていき、フロントの切れに対するリアの応答性・安定性が保たれるかチェックします。重要なのは、旋回Gが上がっていったとき、最終的に弱いアンダーステアを迎えるという点です。どこまでもずーっと舵が入っていって、最後にいきなりオーバーステアになるというのが一番危険で、避けなくてはいけない挙動です。どんなクルマでも同じことが言えますが、スポーツカーの場合はなおのこと高速域での安定性が重要になってきますから、早い段階でこの特性をしっかりとチェックします。

ここに大きく関係するのが、コーナリング中の横Gでサスペンションのブッシュ類がたわむことで生じる舵角の変化を「切れ戻」して挙動を安定化させるという特性です。

ところが、この「切れ戻り」が多いと、ステアリングレシオがスローに感じられるようになります。切れ戻す量はサスペンションのジオメトリー設定でほぼ決まるので、ステアリングレシオの設定もそうした特性を加味しながら設定します。安定性を大切にしながらも、目標に沿った「応答フィーリング」を出せるかが肝ですね。これはとことん走って決めていくしかありません。

この日、最後に試してもらったのは「定常円旋回」。広大なコースの上で、一定の大きさの円を描くテスト。ここでアンダーステアからオーバーステアへ移行するときの挙動などを確認します。

「いいクルマ」は、みんな同じになるのでは…?

試作車はこうした過程を経てブラッシュアップされ、完成に近づいていきます。「できあがったクルマをテストして課題を言い当てる」という、当初思い描いていた「テストドライバー」の姿に近くなっていくわけですが、開発中に判明したクルマの問題点はどのくらい的確に指摘できるものなのでしょうか。

ここまでお話ししてきたように、クルマの運動性能にはタイヤ、サスペンション、ボディ、空力……非常に多くの要素が絡んでいるので、安易に「ここが悪い」というような特定はしないようにしています。走って感じたことをデータ計測で裏付けながら、担当のメンバーといっしょに解決策を考えるというのが、開発ドライバーに求められる姿勢なのではないかと思っています。

開発初期の、クルマが影も形も無い状態から開発に携わり、試作車を走らせながら、開発チームとともに運動性能を磨き上げるHondaの「開発ドライバー」という仕事。
そこでひとつの疑問がわいてきます。「直進安定性に優れる」「安定してコーナリングができる」。どれも、「いいクルマ」に欠かせない要素ですが、だとすればHondaに限らずどのメーカーも「同じ乗り味」になっていくのでは……?ということです。

物理的にはそうなるかもしれませんが、評価する基準となる「価値観」が違えば、全く違うものになると思いますよ。

シミュレーション技術も進化してきて、「性能の高いクルマ」は作りやすくなったと思います。でも、「まんべんなくいいクルマ」が本当にHondaの作りたいクルマかというとそうでもないですし、ドライビングを愛する方の求めるものでもない気がするんです。

我々も、他のメーカーのクルマをコースに持ち込んで、走ってみることがあります。「いいクルマだな」と思うものはたくさんありますが、「こうしたほうが絶対に気持ちがいいのに」という気持ちが出てきてしまう。ここにそれぞれのメーカーならではの「味」とか「価値観」というものがあるのでしょうね。クルマのコンセプトメイキングから開発に関わるのがHondaの「開発ドライバー」ですが、最終的には、そこをつくり込んで、コンセプトを達成していくのが最も重要な仕事になります。

メーカーならではの「味」。たしかに、スポーツカーに限らず、レンタカーで借りるコンパクトカーやミニバンでもそれぞれに「キャラクター」があり、その違いを感じるのがクルマ好きの楽しみでもあります。
では、「Honda味」とは何?さながら「秘伝のタレ」のような「Honda味」は、どうやって受け継いでいく?続きは次号でご紹介します!

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