Hondaの「乗り味」ってどんな味?どうやって作るの?

Hondaのテストドライバー、もとい「開発ドライバー」としての仕事について聞いた第1回で「いいクルマ」の定義として上げられたのは、直進安定性に優れること。そして安定してコーナリングができることでした。いずれも「いいクルマ」に欠かせない要素であることは容易に想像できます。だとすればHondaに限らず、どのメーカーも「同じ乗り味」になってくるはずですが、実際にはメーカーによって多種多様な「乗り味」があります。最終的にHonda車を「Honda味」たらしめているのは何なのでしょうか……?ふたりの話を聞いてみましょう。

答える人

和田 範秋
様々な車種のサスペンション開発に携わったのち、初代NSXのシャシー開発に参加。その後はS2000やSUVのダイナミック性能開発を手がけ、2代目NSXでは、アメリカで開発するシャシー性能に対して、ダイナミック性能アドバイザーを務めた。

伊藤 泰寿
ヨーロッパやアメリカ向けのセダンやSUVなどの開発を中心に担当し、2代目NSXではダイナミック性能の開発を担当。

「Honda味」第一の要素・ソリッド&タイト

「いいクルマ」が何なのかは普遍的でも、評価の基準となる「価値観」が違えば全く異なるクルマになる。それが前回聞いたことでした。では、ずばりHondaの味とはどんなものなのでしょうか。

「大きく分ければふたつあります。ひとつは『ゆるくない』ということです。私達の大先輩は『ソリッド&タイト』という言葉で言い表していました。ソリッドというのは、主にボディの剛性感を表しています。タイトというのが、遊びの少ないハンドリングや乗り心地を表しています。クルマの動きがカッチリしていてあいまいな感じが無い、というのが言葉の意味するところですね」

前回も「フロントの切れに対するリアの応答性・安定性」について語ってもらいましたし、NSXも「レスポンス」を最重要視して開発を進めたと聞きました。でも、これはスポーツカー以外のHonda車にも当てはまることなのでしょうか……?

「もちろんです。程度に差はありますが、NSXやシビック TYPE R、S660といったスポーツカーは当然のこととして、オデッセイやステップ ワゴン、フリードなどのミニバンや、N-BOXをはじめとした軽自動車まで、同じ方向性で開発されています」

たしかに、N-BOXは優しい乗り心地ながらも、ハンドリングは決してゆるくはありませんし、「シャッキリしたミニバン」も何台か思い浮かびます。

「伊藤も言っているように、カテゴリーでレベルは異なりますが、ソリッド&タイトな乗り味は、どの機種でも念頭に置いて開発していると思います。他のブランドのクルマがどうやって開発されているのかはわかりませんが、Hondaはどんな車種であっても、この部分にはかなり力を入れている……ということは言えると思いますね」

「もちろん、ミニバンがこんなにシャッキリ走る必要はないだろう!という方もいらっしゃるかもしれません。でも、きっと快適で静かなミニバンは、ほかにもたくさんあります。Honda車を選んでいただいたからには、他のクルマでは味わえない『楽しさ』を感じてほしい。ここが、『Honda味』の譲れない一線だと考えています」

「Honda味」第二の要素・線形性の高さ

ひとつめは「ソリッド&タイト」。では、もうひとつの要素は?

「もうひとつは『線形性の高さ』です」

「英語に直せば『リニア』という言葉になります。こちらのほうがよく聞く言葉かもしれませんね。運転操作に対してクルマがどのように動くか、誰もが予測できて、実際にそのように動いてくれるということです」

たしかに「次に何が起こるのか」の予測がつかないクルマを走らせるのは、ちょっと怖そうです。

「乗り始めて『いいクルマだなあ』と思ってペースを上げていくと、だんだん思いと挙動がずれてきて、最後にいきなり乗り手を突き放してしまうような、『しっくりこない』クルマもあります。でも、Hondaが目指すのは、タイトな操縦感覚がありながらも、交差点を曲がるような動きからハイスピードのコーナリング、そして限界領域まで、クルマの動きに一貫性があること。たとえリヤタイヤを滑らせても挙動の予知性に優れることだと思います」

「ステアリング操作に対してクルマがどう動くのか。ステアリングを速く回したらどうなるのか、遅く回したらどう動くのか、ブレーキ操作やアクセル操作に対する動きまで含めて、注意深くセッティングをしています。だからクルマの動きを『先読み』できる。運転が得意でも苦手でも、走る場所が街中でもサーキットでも、安心して運転を楽しめる。ここは、すべてのHonda車で一貫している部分だと胸を張れますね」

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