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N-ONE RS 6MT 開発の思い[フィール編]
2021.3.23
N-ONEに待望のMTモデルが設定され、軽自動車のFFターボエンジン車で初めての6速MTモデルの誕生となりました。SPORT DRIVE WEBをご覧のみなさまには嬉しいニュースだったのではないでしょうか。そこであらためて開発責任者を務めた宮本とダイナミクス担当の綱川に開発の思いについて聞いてみました。まずは、さまざまなフィールについてです。また、開発者のコメントにあわせて、Hondaレーシングドライバーの山本 尚貴選手にツインリンクもてぎの北ショートコースでインプレッションを行ってもらいました。そちらの映像「フィール編」も各リンクからご覧ください。
答える人
本田技研工業株式会社
N-ONE 開発責任者 宮本 渉
本田技研工業株式会社
N-ONEダイナミクス担当 綱川 聡
- 目次
- ■ シフトフィールへのこだわり
- ■ エンジンサウンドへのこだわり
- ■ 加速フィールへのこだわり
- ■ ブレーキフィールへのこだわり
シフトフィールへのこだわり
──評判の6MTですが、フィールなどこだわりについてお教えください。
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N-ONEでMTモデルを設定した思いについては後述させていただくとして、まずは6MTの仕上がりについてお話しします。
みなさんからも要望が多かった6MTを設定するにあたり、シフトフィールなどは徹底してこだわりました。そういうと、ピュアスポーツ系のテイストをイメージされるかもしれませんが、ピュアスポーツ系ではS660がありますし、それと同じでは意味がありません。N-ONEは「心躍る楽しさを持つ、軽快快適ツアラー」をコンセプトにしていますから、S660でもN-VANのMTでもない、独自のフィールを追求しました。 真横から見たシフトノブ。短くスポーティーな雰囲気に満ちたノブが絶妙な角度に配置されている。
──どのようなフィールでしょうか。
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カッチリとしていて、ほどよいスポーティーさを感じるクリック感があり、スポーティーなショートストロークでありながら、スッと動かせる軽さと心地よい重さを感じるシフトフィールです。そのために、リンク機構を上級SUVのガッチリとしたものを使用しました。そこで剛性感を持たせ、S660と同じカーボンシンクロやダブルコーンシンクロを用いてシフト荷重を心地よくコントロールしていきました。シフトノブは、S2000と同形のコンパクトなものを使用し、周囲にディンブル加工を施した上質な本革を巻きました。手のひらに収まり、フィットする心地よい握り心地になっていると思います。S2000と形は同じですが、ノブの重さをコントロールしてほどよいクリック感が出るように調整しています。
手のひらにピッタリと収まるコンパクトなシフトノブ。ディンプル仕立ての本革がオレンジのステッチで縫い上げられている。
──インパネシフトにされたのは?
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もちろんスペース的な制約もありますが、S660のようなフロアシフトではなく、ステアリングから手の届きやすいインパネにあるのがN-ONEらしい爽快なシフトであると考え設定しました。実際、ステアリングからパッとノブに手がかけられてすごく操作しやすいんですよ。この爽快さは、シフトフィールに加え、シフトゲートの位置や傾き、シフトレバーの向きなどを綿密につくり上げた結果です。ノブを押し上げるとき力が入りやすく、下げるときはすっぽ抜けずにしっかりと操作できる位置を見出しました。このあたりは、実走テストだけでなく、ドライブシミュレーターを用いて徹底してこだわって決め込んでいきました。シフトフィールとあわせてクラッチも、重過ぎず軽過ぎず心地よいフィールに仕上げていますので、ぜひ踏み込んでほしいですね。
ステアリングから、サッとシフトノブに手がかけられ、快適にシフト操作が行える。
エンジンサウンドへのこだわり
──RSの6MTモデルは、CVTモデルよりもスポーティーな心地よい音がしますよね?
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その通りです。6MTモデルは、エンジンマウントが性能的な理由からCVTモデルに対して実は10%も硬いんです。そうすると、エンジンからの振動や音がCVTモデルに対して若干大きくなります。その音が大きくなるのを逆手に取り、周波数の分散など音の整理をすることで、聞き応えのあるスポーティーなサウンドにチューニングしています。
N-ONE RS 6MT車のエンジンルーム。3気筒ターボエンジンが整然と収まっている。
──具体的にどのように整理するのですか?
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たとえば、音や振動はエンジンのマウント系だけでなく、実はシフトワイヤーにも伝達しますので、ワイヤーにウエイトを付けて音の雑味を消しています。そうしたきめ細かな対応を各所で行うわけです。N-ONEは室内が静かなので、エンジンが回ったときのサウンドを大きめにしてメリハリをつけ、MT仕様のスポーティーさを強調しました。
──なんとなく初代NSXの音に似ているような気がしました。
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エンジンサウンドにはさまざまな振動サイクルの音の成分が含まれていて、N-ONEは3気筒なので、回転数の1.5倍と3倍の振動サイクルの音の成分が含まれています。その音の成分は、NSXの6気筒エンジンの基本成分である3倍の音の成分と同じ振動数なので、もしかするとそういう感じがするかもしれませんね。
初代NSXのV型6気筒3.0L DOHC VTECエンジン
──Hondaのエンジンサウンドのテイストというのもあるのでしょうか。
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エンジン音を聴かせるチューニングをするとき、私たちは、エンジン回転に対する振動サイクルの音の成分をスポーティーサウンドとして出していくことをTYPE Rを含めて行っているので、Hondaらしい音はあると思います。その辺を意識してはいますね。でも、3気筒エンジンのサウンドチューニングは難しかったですね。油断するといわゆる軽自動車っぽい音になってしまいがちですが、そうならないように、3気筒エンジンの音をどう聴かせていくか苦労しました。高めの次数成分を出していき、こだわってチューニングしましたので、かなりいい音になったと思います。
スポーティーなサウンドとともにレッドゾーンまで一気に回るエンジンは痛快のひと言。
──室内に聴こえてくるのは、主に吸気音やカム音ですよね?
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皆さんエンジン音というと排気音だと思われますが、実際は運転していて室内に聴こえてくるのは主に吸気音やカム音です。吸気系についてはCVTモデルと違いがないので、周波数の分散などを行い、まさにチューニングでつくり上げたサウンドです。3気筒エンジンだと1回転で1.5回爆発する1.5次成分が支配的ですが、その倍の3次成分の音が聴こえるようにすることで、エンジン回転に同期した軽やかでワクワクするようなサウンドになっていると思います。
加速フィールへのこだわり
──加速フィールもかなりパンチがありますよね?
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基本的にはS660のギアレシオを使っていますので、トランスミッションとしてはスポーツカーとしてのセッティングになっています。ところが、実はS660に比べてN-ONE RSはタイヤサイズが小さいんです。S660は、前輪が165/55R15ですが、駆動する後輪は195/45R16です。N-ONE RSは、前後とも165/55R15。駆動するタイヤで比べると、4%ほどS660よりローレシオになっています。さらに電動ウェイストゲートの効果も合わさって、中間加速はS660よりも速いので加速フィールもかなりいいと思います。
タイヤサイズは前後とも165/55R15で、駆動輪のオーバーオールレシオは、S660と比べると4%ほどローレシオとなる。
S660は、前輪はN-ONE RSと同じだが、駆動輪となる後輪が195/45R16と大きなサイズになる。
パンチのある加速に思わず微笑む山本 尚貴選手。
──エンジンのトルクカーブはS660と同じですか?
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エンジンがS660より新しい第2世代のNシリーズのエンジンなので、若干違います。ただ、どちらのエンジンも2,600rpmで同じ104N・mの最大トルクが出るのでその辺はほぼ同じですが、N-ONE RSは電動ウェイストゲートの効果もありS660よりターボラグが少なく、素早く最大トルクに到達できるので日常の走りでキビキビとした使いやすい加速フィールを感じられかなり使いやすいエンジンとなっています。
各ギアのエンジン回転数と車速グラフ。S660のスポーツカーのレシオを採用している。
N-ONE RS 6MTとシビック TYPE Rの50m加速のようす。もしかして、N-ONEが前!?
ブレーキフィールへのこだわり
──ブレーキはN-ONE全モデル同じですよね?
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同じです。前モデルからは、ペダルのリンク機構を進化させました。簡単に言いますと、ペダルの回転中心、つまり支点を低くしました。これによって、踏んだときにそのまま踏み込めるようなフィーリングとなり、より踏みやすく荷重をかけやすくなりました。これまでは、少し前方に踏み込むような感じでした。この機構は、N-VANから採用しており、ペダル位置が適切になるよう調整しています。
踵を付けたまま、しっかりと踏み込めるリンク構造を採用し、踏みやすいペダルとなっている。
──ブレーキとしての効きも向上したのですね。
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ブレーキの効きも向上していますが、ペダルのリンク機構に合わせブレーキ倍力装置の特性を見直したことにより、日常使いのなかでの、ブレーキの効きすぎや効かなさすぎに気疲れすることなく、急制動時にはブレーキコントロールがしやすい、他の軽自動車とくらべて扱い易い、安心できるブレーキに仕上がっていると思います。
山本選手が60km/hからフルブレーキ。わずか9.0mで止まりました。
──宮本さん、綱川さん、ありがとうございました。では、次はハンドリング性能へのこだわりなどを伺いたいと思います。
(「ハンドリング編」へ続く)
文中・映像内にある「ツインリンクもてぎ」は当時の名称。現在は「モビリティリゾートもてぎ」です。