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若きエンジニアたちが成し遂げた革新《後編》

鈴鹿最速、熱きスピリット若きエンジニアたちが成し遂げた革新《後編》
2020.10.16

前編では、情熱たっぷりの若きエンジニアである後藤と小林、開発サポートドライバーとして参加した伊沢選手が、シビック TYPE Rの走りとそれを実現した技術について熱い思いを語り合った。後編では、彼らに今回の進化を飛躍的なものとすることに貢献したHRD Sakuraのドライビングシミュレーターについて、わかりやすく紐解いていただいた。

答える人

本田技研工業株式会社
四輪事業本部 ものづくりセンター
車両運動性能開発課
後藤 有也

本田技研工業株式会社
四輪事業本部 ものづくりセンター
シャシー性能企画課
小林 佳亮

本田技研工業株式会社
四輪事業本部 ものづくりセンター
完成車開発統括部 車両開発三部 開発管理課
シビック TYPE R 開発責任者
柿沼 秀樹

鈴鹿サーキット タイムアタックドライバーも務めた
Hondaレーシングドライバー
伊沢 拓也

──ドライビングシミュレーターも、乗りこなすのに技術が必要ですね。

後藤

実車では、ステアリングからのインフォメーションだけでなく、シートから感じる振動や周囲の音からでもクルマの状態を感じ取ります。シミュレーターは、そのあたりに実車と違うところがあって、実車とは少し違う動きや音がします。そこを計算に入れて、実車に即した判断に結び付けることがシミュレーターに乗る技術だと思います。みんながみんな、上手く乗れるわけではないと思います。

伊沢

僕は、シミュレーターに乗っているときは、感覚的にほぼ実車になります。もちろん実車とは違うんですけど、実車を乗っている感覚で乗らないとまったく意味がなくて、そこが非常に難しいんです。シミュレーターと実車とでは、絶対に違うところは出てくるんです。でも実車と同じところもある。それを探しながら、どこを実車として活かせるか活かせないかを理解して乗るのは、なかなか難しく、経験が必要になってくる部分です。ほとんど実車感覚で乗れるすごいシミュレーターなんですが、実車と違う反応が部分的にあって、「実車だったらこうだよね」と頭の中で置き換えられるかが課題です。僕は置き換えられるので、僕にとってシミュレーターは完全に実車ということになります。

小林

レースカー開発でも使われている世界トップレベルのシミュレーターを用いて量産車開発を行うことは、今回が初めてのチャレンジでした。当然ながらレースカーにはない量産車のロジックやシステムのようなものを、HRD Sakuraのスタッフに協力してもらいながら組み込んでいきました。そのために1年は費やしていますね。たとえば、減衰力可変ダンパーを入れてみるとか、ステアリングの制御をどうするとか、そういうちょっと複雑な制御系のところで、より実車の挙動を再現しやすいように、シミュレーターモデルの拡張を図っていく開発が必要でした。正直、伊沢さんにはじめて乗ってもらう時は緊張しました。

伊沢

シミュレーターについてはまったく問題なかったですね。量産車ではじめての開発なのに、とてもいい状態にしていただいて、あとはセッティングに集中できましたね。

小林

そう言っていただけて、当時もホッとしたのを思い出しました。

後藤

最初は正直ゲーム感覚なのかなと思って乗ったのですが、全然そんなことなくて使い方次第なんです。実車だと、今クルマがどういう風に動いて、サスがどういう風に動いてたわんで・・みたいなことを頭の中でイメージしながら走るんですけど、その感覚を持ってシミュレーターに乗らないと意味がないですね。そう思って乗ると、実際に付いていないサスが、不思議とイメージのなかで見えてくるんです。

伊沢

フロントタイヤの感覚はステアリング通して感じられるのでそんなに難しくないんですけど、リアタイヤは基本的に感じるものが比較的少ないので、そこを感じるようになるまでは難しいです。シミュレーターで、リアタイヤがあるように感じるようになれば本物です。僕は感じます、リアタイヤを。

──4輪のグリップも感じる?

後藤

グリップは結果の話なので、その過程が何より大事です。どこがどう動いてそのグリップになっているかをイメージすることが大事。タイヤが4つ付いているので、どこかに負荷が集中しているとか、どこかが力を出せていないと効率よくないので、どれだけ4つのタイヤを上手く効率よく使えるようにするかが大切になります。
たとえば鈴鹿の場合、1コーナーとかスプーンとかデグナーのように、下りながらブレーキングしてターンインするシチュエーションが多い。そうすると、元々FFはフロント荷重が高いので、リアの荷重が抜けてしまいます。荷重がないままいくらリアを使おうとしても難しいところがあるので、その荷重をどうやって残すか?あるいは、少ない荷重の中でどれだけ仕事させるか?というところに技術的な難しさがあります。

伊沢

そんなに話していいんですか?

後藤

いや、聞いてできるというものでもありませんから(笑)。

──シミュレーターでのサスペンション特性の洗い出しとは、どのようにやるのでしょうか。

小林

今回は、マイナーモデルチェンジで、大幅な変更は当然できませんから、現行のサスペンションセッティングのなかで、たとえば前後バランスはどうかというところをひとつひとつ丹念に見ていきながら特性を分析するわけです。急に何か発見するというものではなく、いままで見てきたところをもう一回さらっていくわけです。
というのは、これまで量産開発でやっていたシミュレーションは、当然ですが、サスペンション特性のおおまかな代表値を使って車両モデルを作っていました。しかし、HRD Sakuraのシミュレーターは、すべての物理特性というか、部品特性を入れられる高精度なシミュレーターです。だからこそ、いままで抽出できなかったようなバランスに着目することができました。これは革新的な開発でしたね。

後藤

そうですね。HRD Sakuraのシミュレーターを使った目的のひとつはそこにあります。実車ベースで走って、感覚的にどうやらここが弱そうだとか足りなそうだっていうのはわかりますが、それがドライバーによるものなのか、クルマの問題なのか、切り分けが難しいところが出てきます。そういう時にシミュレーターのような客観的な評価を用いて、「このコーナーでこのタイヤがもう少し使える」ということがわかれば、そこに手をつけることができます。シミュレーターを使うことで、今までの開発では見出せなかった新たな境地にジャンプアップすることができたという感じです。

伊沢

最終的に鈴鹿でのタイムアタックは、シミュレーターでもしっかりとした結果は出ていましたし、実際に走って、シミュレーター通りに実車も反応してくれてました。シミュレーター開発は、簡単なようで、実車と整合させるのがすごく難しいんですけども、今回初めて量産車で導入して成果に結びつけることができて、その優れた整合性に、やっている本人でありながら正直驚きを感じましたね。

小林

たとえば、たくさん用意した異なる特性のブッシュひとつひとつを後藤さんが組み替えて走らせて、結果を出すまでにはかなりの時間とコストが必要です。それが、シミュレーションでしたら、半日とか1日で現物のテストでは考えられないくらいたくさんの仕様が試せます。それが一番のメリットですね。
幅広くテストを行えるメリットは、今のTYPE Rがどういう性能幅で推移できるかという方向性を割り出せることです。幅広いところから絞り込んで最善を割り出すことができるので、新たな境地に到達することが可能となるのです。

後藤

ステアリングを切ればタイヤの向きが変わって、フロントタイヤは力を出します。では、リアタイヤがどうやって力を出すかというと、フロントの転舵によってクルマが向きを変えたことで、リアタイヤが向きを変えたようなスリップアングルが付くことで力を出すわけです。つまりはフロントとリアが力を出すタイミングが合っていないと、うまくクルマは曲がっていかないんです。そこの力の出し方の差、時間差みたいなところはすごく気を遣っています。どんな切り方をしても、どんな速度で入っていっても、一様なクルマの応答性が確保されていることが何より大事です。その辺の反応を糸口にして、セットアップしていくようにしています。
今までのTYPE Rは、とにかく乗り手が乗って直していく開発をやってきたのですが、それだけでは見えてこない部分がシミュレーションを使うと見えてくるので、そこが進化の途上ですごく重要なターニングポイントになったと思います。

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