エンジン開発者に突撃 いいエンジンって何?Vol.3 シビック TYPE R「VTEC、高回転、ターボでも大事です」

「CBR600RR」譲りのアイテムも…

ところで、ターボは上まで回らないとか、回しても面白くないというような話も聞きます。

普通に作ったらそうなります。「ターボだからそんなに回さなくてもいい」という考え方もあります。でも、TYPE Rのエンジンとして、高回転までギンギンに回る味は捨てられません。いろいろとこだわりの技術を採り入れているんです。

たとえば?

王道ですが、軽量なシングルマスフライホイールもそのひとつですね。ターボ車の課題になる鈍いアクセルレスポンスや、シフトチェンジの際の回転落ちの遅さも改善させます。

他には?

バイクからフィードバックされたテクノロジーもありますよ。

バイクから!?

その名もデュアルピボットカムチェーンテンショナー。2003年式のCBR600RRで開発された高回転技術のフィードバックです。

これはどういう?

その名の通り、支点をふたつ設けることでチェーンからテンショナーに伝わる振動を分散させ、小さな力でチェーンの張力を安定させることができる機構です。
ハイパワーに耐えるために張力を増すと高回転化できなくなる。張力を下げると、チェーンが暴れやすくなる。この二律背反をクリアするヒントは、15,000rpm回るバイクのエンジンにあった、というわけです。

なるほど。「バイクとクルマのコラボ」なんてちょっと夢があります。

チェーン自体も通常用いられるものとは違うんです。よく使われているのは「ローラーチェーン」というものですが、Hondaは高回転化、低フリクション化、エンジンのコンパクト化に有利で、静粛性や耐久性にも優れた「サイレントチェーン」を使っています。S2000以降、軽自動車からNSXまで、すべてのガソリンエンジンに採用しているんですよ。

軽自動車からNSXまで、カムチェーンにサイレントチェーンを使用するのもHondaのこだわり。通常用いられるローラーチェーン(写真右下)よりも高強度で軽量なので、高回転化に有利です。

こんなものを見る機会はないので知りませんでした……そうだったんですね。

最後に、ピストン、コンロッド、クランクシャフトなどのレシプロ部品。ハイパワーを受け止める上で強度が重要ですが、従来の技術で作るとウェイト増えて、気持ちよくエンジンが回りません。

重たいものを回すのはそれだけで大変ですもんね。

2段階の鍛造工程で棹部を強化する、「制御鍛造コンロッド」。「棹」の部分を通常より大幅に細くすることができ、軽量化に繋がります。

というわけで、コンロッドは2回の鍛造を行う特殊な製法を採用しています。こうすることで、従来より20パーセントくらい細く、軽く、かつ強靱に仕上げられます。往復系のパーツが軽くなると、クランクシャフトも軽くなります。つまり、高回転まで気持ちよく回るエンジンになるわけです。
Hondaはこういう「鉄」のパーツも大好きで、こういうこだわりの部品を自社工場で作れるのが特徴です。

軽量なコンロッドの効果もあり、クランクシャフトも軽量化。カウンターウエイトの小ささが特徴的。

エンジン大好きだとは思っていましたが、鉄も大好きだったとは。

自社工場で製造ができるからこそ、細かい所まで軽量化ができ、手間のかかる製法も積極的に採用できるのです。Hondaならではの「高回転へのこだわり」の背景には、生産技術の絶え間ない努力もあるんです。

「エンジンフィール」はHonda車の命

ターボになっても、「Hondaらしいエンジンフィール」を追求しているのがよくわかりました。でも、最後に……ボンネットに空いたダクトが、ちょっぴりHondaっぽくないというか。

ボンネットにある開口の下にはインタークーラーは無いので、他のスポーツカーのそれとは、役割がちょっと違うんですよ。

じゃあ何のために?

エンジンルームを冷却するための導風口です。ロー&ワイドのデザインや視界の良さのために、ボンネットは先代モデルより40ミリ以上も低くしました。エンジンとボンネットの隙間が小さくなることで、エンジンルーム内の空気の循環が減るのを防ぐため、ボンネットダクトから空気を採り入れて、熱を後方に押し出すんです。

ふむふむ。

視界の確保や空力性能のためにダクトも極力小さくデザインしましたが、普段は見えないボンネットの裏側もこだわっていますよ。空気はしっかり取り入れつつも、アルミ製の立派な雨樋を付けて、大切なエンジンに水がかからないようにしてあります。

空気は通すが水は通さない……うーん、大事な大事な「エンジン様」って感じですね。

雨などの水をエンジンルームの外に導き、冷たい空気だけを取り込む構造でシビック TYPE Rのために新規開発しました。何十人ものエンジニアが怖い顔をして見守る中、降雨テストを行ったのを覚えています(笑)。このクルマを末永く楽しんでいただきたいという姿勢の表れだということもお伝えしたいです。

なるほど、見えないところにもこだわりがあるんですねぇ。

今回のお話をまとめましょう。パワー、レスポンス、出力密度と、「いいエンジン」の条件を満たすために、Hondaの「VTEC」は大きな役割を果たしました。ただし、そうしたスペックに加えて高回転まで気持ちよく回るフィーリングはHondaのスポーツカーらしい魅力だと思います。特にシビック TYPE Rの専用エンジンは、Hondaらしいエンジンフィーリングで高い評価を得てきた「K20型」を継承し、ターボ化で大きく進化させました。
これからもHonda DNAを継承し、いつまでも乗っていたいと思えるクルマをつくっていきたいと思っています。

それが聞けてよかったです!

とことんこだわり抜いたので、皆さんに楽しんでいただけたらとても嬉しいです。私も毎日乗るのが楽しみです!

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