エンジン開発者に突撃 いいエンジンって何?Vol.3 シビック TYPE R「VTEC、高回転、ターボでも大事です」

SPORTS DRIVE WEBでは、皆さんからのご意見を集めてきました。その中でも特に多かったのが「エンジンのことについて知りたい」というご意見、「突き抜けるように回る自然吸気エンジンこそHondaのアイデンティティだったのでは?」という疑問の声でした。たしかに、いまラインアップしているスポーツカーのエンジンはいずれもターボエンジン。果たしてそこに「Hondaならでは」のこだわりはあるのでしょうか。満を持してエンジンの開発者に突撃してみることにしました。

答える人

本田技術研究所
四輪R&Dセンター 主任研究員
松持 祐司
2000年入社。エンジン設計として、S2000、NSXのマイナーチェンジやVTEC開発担当を経て、シビック TYPE R専用2.0L VTEC TURBOエンジンの開発責任者を経験。現在はCIVICシリーズのパワートレイン開発責任者。

聞く人

SPORTS DRIVE WEB編集部1号
愛車はFIT RS(MT)。奥さんがクルマに疎いのをいいことに、「ふつうのクルマは マニュアル車」だと吹き込んでいる。

第1回でご紹介した、Hondaの考える「いいエンジン」の第一条件、覚えていますか。

「パワー」ですよね。軽自動車からスポーツカーまで、1馬力でも多く出してやろうと思っているって……。

そうです。その「パワーアップ」のために欠かせないHondaのコアテクノロジーが「VTEC」。今回は、この「VTEC」と「ターボ」の可能性についてお話ししますね。

よろしくお願いします!

「ターボ時代」でもVTECは必要?

従来、スポーツ系の自然吸気エンジンのVTECは、吸排気バルブを大きく開いて大量の混合気を取り込み、パワーアップに繋げるテクノロジーでした。

1989年の「インテグラ」に初めて搭載されたんですよね。「リッター100馬力」のワードがよく似合います。

そうですね。そういうお客さまの期待も感じていますし、私たち自身も大切にしています。直球ですが、「TYPE R」の開発基準は「リッター100馬力を超えているかどうか」ですから。

熱いですね。そういう言葉を求めていました(笑)。

VTECの正確な作動を支えるのは、実は「ピン」先端の形状。コンマ数ミリ単位で形状をなだらかにすることで、カムがある位置にいる一瞬の隙をついて隣の穴に飛び込む…という動作を可能にしています。

2015年モデルのシビック TYPE R以降、ニュルブルクリンクでのFF最速チャレンジをはじめ、圧倒的なパフォーマンスを楽しんでいただけるクルマづくりを目指してきました。その中で必要になったのは300馬力を超えるパワーとレスポンス、軽さを兼ね備えたエンジンです。

はい。

1992年のNSX-Rから始まった「TYPE R」シリーズ史上初めての300馬力超えを、エンジン横置きのFFで達成するのは前代未聞のチャレンジ。そこで、ハイパワーと気持ちよく回るエンジンフィールで、2代目のインテグラ TYPE Rやシビック TYPE R以降ご好評をいただいてきた「K20」型のVTECエンジンをベースに、ターボを組み合わせた新世代の「TYPE R」用エンジンの開発に取り組むことになりました。

K20A型エンジン。インテグラ TYPE Rやシビック TYPE Rに搭載され、好評を博しました。

「K20」。その名前に愛着を持つ方は多いですね。

ターボの採用により「リッター100馬力」を大きく超えて「リッター160馬力」を達成できたのも、骨格がしっかりしていたからです。

リッター160馬力というのは、空気をたくさん吸い込むために、VTECとターボをダブルで使ったことによるものなんですか?

いいえ、ここが自然吸気のエンジンとターボエンジンとで、VTECの使い方が少し違うところなんです。

まだまだ進化するVTEC

ターボですから、高密度の空気を簡単に取り込めますが、同時にポンピングロスを減らしたり、燃焼ガスをしっかり排出してノッキングを減らしたりというのも非常に大切になります。ここでVTECが活躍するわけです。

つまり、きちんと排出しないと思い通りに吸気できない、ということですか?

その通りです。
自然吸気エンジンでは吸気側に採用することの多いVTECですが、シビック TYPE Rのターボエンジンでは、排気側に配置しました。シリンダー内の燃焼ガスを効果的に追い出して──これを「掃気」といいますが──充填効率の向上に繋げています。

ターボエンジンになっても、「VTEC」の重要性は変わらなかった、ってことですね。

そういうことです。「空気の出し入れ」はエンジンの性能を高める上で、最も大切な要素だと言えますし、Hondaはそこを緻密にコントロールするのが得意です。電動ウェイストゲートも採用したことで、さらに緻密なコントロールができるようになって、燃費性能や環境性能もさらに引き上げられましたし、まだまだ進化できる可能性を見いだせましたしね。

エンジンのカットモデル。「VTEC」は排気側に取り付けられています。

VTECを徹底的に使い切ろうという感じですね!

VTECで掃気の効率を高めると、パワーアップするほかにもメリットがたくさんあります。燃焼効率が上がるので、通常よりもワンサイズ小さなターボチャージャーで十分な過給圧を得られるようになるんです。

ターボチャージャーは小さいもののほうがレスポンスに優れると聞いたことがあります。

そうです。Hondaの考える「いいエンジン」第2の条件であるレスポンスが向上します。さらに、ターボが小さくなると、エンジン全体のサイズも小さくなり、軽量化にも繋がります。同じく「いいエンジン」第3の条件である「出力密度」の面でも大きく貢献します。このエンジンの場合、VTECがあるのと無いのとでは、30ミリくらい全長が違ってきますね。

えーと、それは大きいんですかね……?

30ミリ、つまり3センチというと小さな差に思えるかもしれませんが、「TYPE R」が求める究極の運動性能や、シャープなデザインを目指していくと、無視できない差になってきます。

VTECはパワー、レスポンス、出力密度、全部に貢献すると。

そうです。走りを極めるシビック TYPE-R性能の必要条件として重要なテクノロジーということがおわかりいただけたでしょうか。

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