
VTECとHondaエンジンの30年Vol.1「VTECって何?」
Hondaエンジンのアイコンであり、スポーツドライビングファンの心を長年熱くし続ける魅惑のメカニズム、VTECも誕生から早30年。このへんで「VTEC史」を振り返ってみるのはどうでしょうか。まずは、Hondaでエンジン開発に携わるエンジニアに聞く「VTECって何?」から始めてみましょう。
答える人
本田技研工業株式会社
四輪事業本部 ものづくりセンター
チーフエンジニア
松持 祐司
2000年入社。エンジン設計担当として、S2000、NSXのマイナーチェンジやVTEC開発担当を経て、シビック TYPE R用2.0L VTEC TURBOエンジンの開発責任者を経験。現在はパワートレーン戦略の立案に従事。
- 目次
- ■ そもそもVTECってなんなの?
- ■ VTECの仕組み
- ■ いろいろなVTEC
- ・ DOHC VTEC
- ・ VTEC TURBO
- ・ VCM
- ・ VTEC+VCM
- ・ 日の目を見なかったVTEC
そもそもVTECってなんなの?
──もうご存知の方も多いですが、せっかくなので教えてください!
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VTEC*は「パワー」と「環境性能」を両立させるためのテクノロジーです。正式名称は「バリアブル(V)バルブタイミング(T)アンド リフト・エレクトロニック(E)コントロール(C)システム」です。
*Variable valve Timing and lift Electronic Control system
──最初に搭載されたのは1989年の「INTEGRA」ですね。
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バルブリフトの高さ、バルブタイミング(バルブ開閉の角度)を可変させてポンピングロス低減、吸気の充填効率アップを実現するほか、排気の掃気制御を緻密にコントロールして、1クラス上の高出力、低燃費、低エミッションなど、相反する性能全てを向上させる優れモノです。
──なにが新しかったんでしょうか?
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エンジンは、空気をどれだけたくさん吸い込めるかどうかが、パワーアップのためのカギです。ただ、普段走る中でそんなにたくさん空気を吸い込むと、今度は低回転がスカスカになってしまうばかりか、アイドリングまで不安定になってしまいます。なので、バルブの開き方を可変させてパワーと低燃費、扱いやすさを両立させようというのが、VTEC誕生のきっかけであり、そんな無茶を本当に実現させてしまったところが新しかったんですね。
──スポーツカーのテクノロジーとしての印象が強いですよね。
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ハイパフォーマンス達成技術としてスポーツグレードやTYPE Rに搭載され、驚くほど低いボンネットフードといった格好いいデザインや、Hondaエンジン独特の「パワー」「レスポンス」「軽快サウンド」で新しい価値を提供し続けてきました。一方、環境達成技術としても進化し続け、今ではハイブリッドカーや軽自動車にも搭載されています。
──どうしてそんなに広がっていったんでしょう?
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1クラス上の高出力が出せるので、排気量を下げて「軽量・コンパクト」なエンジンを選ぶことができ、Hondaが大切にしている「キビキビした走り」「広い車内空間」にも大きく貢献するからですね。走りのみならず、Hondaが大切にする様々な要素を実現させるテクノロジーってわけです。
VTECの仕組み
──では、どんな仕組みなのか教えてください!
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エンジン出力がシリンダーの中にどれだけ空気を吸い込めるかで決まるのはさっきご紹介しましたね。簡単に言えば、吸排気バルブの開いている時間が長く、開く高さが高ければ空気がいっぱい入ります。これからお話しするのは、エンジン回転数に応じてこれらを可変させるための仕組みです。
──なるほど。
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「バルブを動かすロッカーアームを、油圧で動くピンで連結する」というのが基本的な作動メカニズムです。低回転時は3つのロッカーアームが切り離れて左右のローリフトカムで駆動します。中高速回転時はピンに油圧が掛かり、3つのロッカーアームが連結、真ん中のハイリフトカムで駆動し吸入空気量をアップさせます。まあ、図で見たほうが早いので、こちらをご覧ください。
──自分のクルマの中でエンジンがこんなふうに動いていると思うと、ちょっとワクワクします。
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更に、ハイブリッドやVCM※エンジンでは回転数によらず、低い油圧でバルブ休止をさせるものもあります。いろいろなVTECがあるんですよ。これも、このあとご紹介しましょう。
※VCM…Variable Cylinder Management