MONTHLY THE SAFETY JAPAN●2005年1月号
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新春対談
佐藤琢磨 F1ドライバー(B・A・R Honda)
福井威夫 本田技研工業株式会社社長
より豊かなモビリティ社会の実現に向けて、Hondaは世界へ、また、社会へ向けて、何を発信しようとしているのでしょうか。国や地域を越えて展開されるHondaスピリッツとそこから発信されるものを、モータースポーツの頂点・F1を通じて、また、安全とその技術のステージから、佐藤琢磨、福井威夫のお二人に語っていただきました。

 佐藤琢磨・F1ドライバー(B・A・R Honda)
 物心がつくかつかないかぐらいの時からクルマが大好きでした。1987年、10歳の時に見たF1マシンが強烈に印象に残って、感動という表現よりは、本当に衝撃として体のなかにずっと刻まれていて、F1に参戦したいという大きな夢として生き続けてきたのです。いちばん好きなことにとことん挑戦しないで諦めることは嫌だと思っていましたから、何とかしてチャンスをつかんで、自分のものにしていくまでは一切妥協したくないという気持ちだけでここまできたと思います。100の壁にぶつかって99回の失敗をしても、そのぐらいすごい世界だから、失敗することは全く怖くなかったですね。失敗を失敗に終わらせないで1つ1つクリアしていけば、明日の自分はさらに強く、いいドライバーになっていけると考えていました。僕はHondaの第2期※1F1活動をテレビの前で夢中になって応援していましたが、トップに向かってすべての力を出しきるという精神が子どもにも伝わってくるのですね。F1の世界で頂点に立とうというHondaの意気込みにものすごく共感して、そういう意味では子ども心にHondaを誇りに思っていました。F1で頂点をめざして戦うというモチベーションを経験した技術者たちが、市販車の分野に戻ってきた時、そのスピリッツはよりクオリティの高いものを創ろうという目標へ向かっていくのだと思います。ですから、Hondaのクルマにはそうしたモータースポーツの魅力がエッセンスとしてつまっているし、ドライバーがいちばんドライブしていて楽しく感じるクルマになっていると思いますね。
 F1に代表されるモータースポーツの魅力、それから道具としてのクルマのすばらしさを少しでも多くの人に知ってもらって、日本でもヨーロッパのように盛り上がっていけば、社会的な貢献もできると思います。今、サッカーやベースボールをはじめ、いろいろなスポーツの世界で日本人選手が活躍して世界へ飛び立っていく。それが僕にも大きな勇気を与えてくれるわけですが、これからの子どもたちにも夢を与えてくれる。僕もF1を通じて、クルマの夢と楽しさをメッセージできればいいなと思います。

 福井威夫・本田技研工業株式会社社長
 夢に向かってやるからには妥協しないというのは、私たちも同じです。目標を持って、なんとかやり遂げたいとなると、がむしゃらにやる。1つ目標をめざしたら、もうほかは妥協しない、全部やる。Hondaという会社がずっとそうだったのです。それで創業期からここまで伸びてきたと思う。これからもそうあるべきという思いを込めて、「The Power of Dreams」というコーポレートスローガンを2000年に作ったわけです。これは絶対に消してはならない。「The Power of Dreams」の1つの狙いは先進創造によってブランドを高めていくことです。先進創造とは、お客様の共感と信頼を得ることにつながる新しい価値を生み出すアクティビティや技術開発に取り組んでいくことです。私たちが自動車メーカーなのにジェット機とかASIMOを開発したことも先進創造で、それをめざすのは技術でいうとやはり技術者です。F1の厳しい世界で鍛えられた人間が、先進創造で新しいアイデアを生み出していき、それが将来へつながっていくことが私の夢です。
 安全という観点でいえば、F1と比較した時の一般の公道における危険性は、ドライバーが100人いたとして、その100人が千差万別だということです。安全対策の基本はその差をどうカバーするかにあります。技術的な面から、私たちがいま取り組んでいるのは、事故を未然に防ぐ運転支援です。「Safety for Everyone※2」というキャンペーンをアメリカなどで展開していますが、乗っている人だけでなく、衝突した相手のクルマが小さい場合は相手も保護する、歩行者や自転車も保護できる開発に重きを置いています。その延長にITS※3で運転者を支援して事故をなんとか避けようという、ぶつからないクルマがあります。私は一般の方、特にお年寄りの方が安心して運転できなくてはいけないと思っています。それはレーダーなどのいろいろな装置を使って、外の状況をドライバーに教えるというITSで相当カバーできると思う。クルマが最後のところで衝突を避けてくれるわけです。しかし、こうした安全の技術はますます進化するでしょうが、必ずしもそれが無人運転の方向をめざしていないのは、二輪車も自動車も乗って楽しむという要素があるからです。操る楽しみは人間の根源的なものだと思います。そのために安全運転普及活動もあるのだと思います。Hondaとしても安全運転普及活動を34年、行っていますが、日本だけではなく、交通事故が増加している中国などにもどんどん普及していきたいと考えています。
 運転を楽しくしていくということはHondaの創業期からあるコンセプトです。その方向で、F1の要素を段々とHondaの商品に移植できるといいと思いますね。あとは、F1に勝って楽しみたい。F1も技術も安全も夢を実現するためにはあらゆるもので妥協してはいけないと思います。

※1 第2期=HondaのF1活動は1964年〜1968年の第1期に始まり、1983年〜1992年の第2期、2000年〜現在にいたる第3期へと継続されている
※2 Safety for Everyone=「すべての『人』の安全をめざして」というHondaの安全思想
※3 ITS(Intelligent Transport System)=最先端の情報通信技術を用いて、人と道路と車両とを情報でネットワークすることにより、交通事故や渋滞などといった道路交通問題の解決を目的に構築する新しい交通システム


 
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